【第一章:血塗られた決断】
翌日、村長宅には数人の村人が集まっていた。蝋燭の小さな光が揺らめき、皆一様に眉間に深い皺を刻んでいる。
話し合いの議題はわかりきっていた。
「次の生贄をどうするか」
「今度こそ……もう待ったなしだ。夜族から最後通告が来ている。次の夜には、生贄を差し出せと……」
「村長、しかし我々の子供を差し出すのは……もう限界です。あれほど怯えているのに……」
苦渋に沈む男に、別の年配者が意を決したように答える。
「……イリスにするしかあるまい。もともとウチの村の者ではないし、何よりも……」
言葉が途中で途切れる。けれど続きは誰もが知っている。
「よそ者だから捨て駒にしても痛手が少ない」。
その空気を察した村長は、さらに声を落として言った。
「すまないが……そうするしかないんだ。夜族の怒りを買えば、村全体が滅ぶ。あの娘なら……まだ若いし、領主の興味を引くだろう」
自分たちの生存と天秤にかけ、イリスを差し出すことは最善策というわけだ。誰一人として表立って異議を唱える者はいなかった。
かすかな罪悪感に苛まれながらも、村の大人たちは口々に同意を示す。最終的に村長がその決定を下した。
「次の生贄は……イリスだ。今夜、夜族が来たらあの娘を差し出す」
その結論が静かに落ちた瞬間、部屋の温度がぐっと下がったように感じた。誰も声を上げない。かすかに聞こえるのは、外を吹きすさぶ風の音だけ。
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