第38話 泊まり込み

「でも、凄いね。今日だけでレベルが2も上がったよ」


そう、委員長は今日の探索だけでLv.10になったようだ。


モンスターを倒して得られる、いわゆる『経験値』というやつは、より深い階層のモンスターを倒すほど得られる量が多い、とされている。


学園で委員長がひとりで潜っていたやり方とは比べるべくもないけど、3層や4層でモンスターを倒すよりも6層の方がレベルは上がりやすいだろうし、魔力消費の少ない魔法で戦ったので継続もできたわけで、何倍も『経験値』を稼げたことだろう。


というか、そもそも委員長の魔法は、流石は【賢者】ということなのか、相当に強い。


スキルの説明に『INT知力の補正により』とあった通り、彼女はINT知力が高いのだろう、僕が『ふいうち』で先制しなくても、一撃でゴブリンを討伐することができていた。


ということは、魔法が命中さえすれば、ソロでも余裕で1日ダンジョンを回れたのだろうし、余裕でレベル上げが出来たのだろう。


今日の『経験値』も、2人だから半分になってしまっているだろうし、ちょっと勿体ない。


まあ、魔法職はVIT防御力の上がりが悪いという話もあるようだし、僕がアンガーボアの突進を受けても平気だったからといって、彼女も問題ないかは分からない。


人数による経験値減少が、その分の安全マージンだとするなら、仕方がないだろうか。


ちょっと魔法職などの後衛勢にとっては、不公平に思われてそうだけど、委員長のスキル【賢者】に限って言えば、あの『高火力』であるがゆえに、それぐらいで丁度いいとも言える気がする。


一応、上のランクになると後衛職でも軽自動車なら持ち上げられるぐらい、人の枠を超えていくものだそうだけど、それはCランク上位以上とのことなので、ほんの一握りの例外のようだ。


……しかし、そうか。


レベルが上がったなら、MPも上がってるはずだ。


明日は、撃てる回数が伸びているかもしれないな。


「うん、もう大丈夫」


そう言って委員長が立ち上がったので、僕らは6層の入口へと向かうことにした。


……さて、明日からが本番・・だ。


今日は帰って、ゆっくり休んでもらうことにしよう。


◇◆◇


「えっ、3日間?」


予想通りテントだらけになっていた6層の入口周辺を通り抜けて、階段を登りはじめたところで、僕は委員長に明日からの計画を話すことにした。


明日の日曜から3日間、火曜日までの計画で泊まり・・・こんで・・・の探索を行う。


「今朝話したように、しばらくは実家からここ藤箕に通う予定だったから、スケジュールには問題ないけど……ここに泊まるの?」


まあ、そういうことになるかな。


ああでも、朝とかに地上に戻って更衣室でシャワーを浴びてこようと思っているから、着替えとかがあるといいかもしれない。


ロッカーの方に着替えとか置いておけば、荷物にもならないだろうし。


「……そうだった、あの・・部屋・・が使えるから、簡単に戻れるんだったね。ありがとう、用意してくるよ」


女子じゃなくても、数日シャワーを浴びられないのは正直言って辛いし、朝方の人がいない時間帯なら後の人の待ちとか気にすることなく使い放題だからね。


僕も、10層のエレベーターが開通してからは、毎日夜明け前に地上に戻って、シャワーを浴びていたし。


階段が終わって5層に上がると、今日は流石に土曜とあってか、6層入口からあぶれたと思われる冒険者たちが、ボス部屋からエレベーター近くまで伸びる通路に、大量のテントを張っていた。


そういえば、この辺りにもモンスターがいるのは見たことが無かったけど、こうして泊まるということはセーフエリアみたいなものなんだろう。


……言われてみれば、エレベーターが誰でも使えてたら、確かにここに泊まる理由って皆無なんだよな。


明日の朝イチで、また5層に来れば同じことなわけだし。


まあ、7層とか8層とかだと、5層からの行き来だけで数時間かかるから、泊まりこむ理由にもなるんだけど。


そんなことを思っている間に、エレベーター前へと到着した。


予想通り、待ちは発生していなかったので、扉を開いて中へと入る。


「……日野くん、そういえば、なんだけど」


扉が閉じたところで、後ろから委員長が声をかけてきた。


「ここで使ってくれたマット、あるでしょう? あれ、流石にそのバックパックにはどう見ても入らないから、その……何とかした方がいいと思う」


……あー、そうだった。


くくりつけるのが、いい加減面倒だったから、アレ指輪の中に入れるのが完全に習慣化していた。


一応、委員長にアレ指輪を見せるわけにはいかない、というぐらいの判断力はあったので、出し入れはリュックに入れるふりで身体に隠したところで、出し入れしていたのだけど。


……でもまあ、こんなこともあろうかと。


「まあ、言いふらすものでもないから」


と、リュックから取り出したのは、ダンジョンデパートで売りに出されていた魔法袋……によく似た、イミテーションの単なる布袋だ。


実は、魔法袋の窃盗に備えてダミーの魔法袋を用意しておく、というのは結構な需要があるらしく、普通に1万ぐらいで買えた。


もっとも、出会い目的の冒険者があたかも魔法袋持ちの金持ち上級者を気取ろうとして買う……という需要もあるらしい。


「はぁー、本当に稼げてるんだね。さっき貰ったスポドリも冷えたままだったし、もしかして時間遅延付きだったりする?」


マズい、うわ、そっちの方が。


そうだった、アレ指輪って時間遅延どころか、ほぼ時間停止っぽくて、冷蔵庫から出してきたやつを、そのままの温度で渡してるわ。


……とりあえず、その場は『凍ってたやつがちょうど融けていたんだと思う』と、すっとぼけておいた。


うーん、今後は同行者に渡す用の、常温のスポドリでもケースで仕入れておこうか。


あとそうだ。この際だから、前に買おうと思っていた、40Lぐらいの上のサイズに切り替えよう。


実際、見た目を切り替えたところで、中身は相変わらず空なんだけど。


……これから行っても間に合うかな、ダンジョンデパート。


◇◆◇


「あら、日野さん正式なギルド証になったんですね。それに、Eランクに昇格されたようですし。おめでとうございます」


装備返却の際に、窓口担当の野口さんが、QRコードでの認証で出た画面を見て、仮からの更新とランク昇格を祝ってくれた。


野口さんとも随分と慣れたので、返却時にいくつか言葉を交わすようになった。


「それじゃ、今日も11層に?」


「いえ、今日はちょっと…………友達の付き添いで」


一瞬、委員長のことを果たして友達と言っていいのか迷ったけれど、まあそう紹介するのが面倒がないかと思って、そう伝えた。


「はい、つがいと言います。しばらくこちらにお世話になると思います」


振り返りながら目線を送ると、委員長も笑顔で挨拶した。


「ああ、あなたが。ロッドの貸し出しは珍しいから覚えていたわ。日野くんのお友達だったの。こちらこそ、よろしくお願いするわね」


そうか、確かに藤箕ふじみは初心者用のダンジョンだし、魔法使いっぽい人は見たことがなかった。


そうなると、悪目立ちしない方がよさそうだけど、そういう意味では明日から回るのは冒険者に不人気な場所だから、丁度よかったのかな。


装備の返却が済んだところで、続いて魔石の売却だ。


昼休憩の際に、魔石売却の振り分けについては話し合っていて、半々ということで決着している。


最初、倒しているのが委員長ばかりなので取り分も委員長でいいという僕の案と、探索に付き合ってもらうばかりか『スキルに乗っからせてもらっている』から全て僕に渡す委員長の案で、完全に真っ向から衝突した。


けど、まあ争うほどのことでもないので、あっさりと間を取るかという話になった。


「あ、パーティの登録しなきゃ」


そういえば、委員長がその話し合いの際にそんなことを言っていた。


その場で組んだ即席パーティの場合でも、中長期的に組むパーティでも、魔石の販売額の分配を登録に従って自動で行ってくれるので、販売後に分配するような面倒が無くて済むそうな。


使い方は簡単で、アプリから相手のIDを『QRの読み取り』または『手打ち』で取得してフレンド登録を行い、フレンドリストからグループを作成してパーティを申請する流れだ。


もちろん、僕は使ったことが無かった機能なので、委員長が初めてのフレンド登録になった。


あとは、パーティIDというのが生成されるので、買取で入金先の指定の際に、パーティIDを示すQRを読み込ませればOKだ。


さて、機械へと魔石を投入していったところ、売却額は11万7600円。1人あたり6万弱だ。


「……すごい金額」


そうかな? とは思ったけど、僕の場合はボス部屋の魔石や9層の魔石がここ最近の周回だったし、いつも2日とか3日単位で売ってるから、基準が違うかもしれない。


──その後は、既に19時を回っていたので、近所ではあるけど、委員長を実家の近くまで送っていった。


委員長も『別にいいのに』とは言っていたけど、念のためってことでね。


さて……まだ時間がギリギリあるから、ダンジョンデパートに滑り込むのと、あと食料の買い足しをしてこよう。

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