第34話 ごく普通の前衛スキル?
「あ、委員長、気をつけて──」
「え? 痛ッ!」
あ、顔面からいっちゃった。
6層に降りてきて最初に遭遇したのがアサルトバットだったため、唐突に行動可能範囲が設定されて、委員長がその壁へとぶつかってしまった。
──6層から10層は、新たにゴブリンが層の全体に出現する他は、層をいくつかの領域に分けて、その領域内で特定のモンスターがいるような住み分けになっていた。
階段を降りた辺りはアサルトバットの領域で、3層に出現していた個体より身体が大きく、また強くなっている。
背後から急襲してきたアサルトバットは、いつものように背後で空中に静止していた。
「ほら、委員長。戦闘だよ」
「えっ……うひぇあ!」
なんか凄い声を上げたな、今。
委員長が鼻をさすっていたところに声をかけたら、僕の目線を向けた先にコウモリがいたものだから、行動可能範囲の壁まで張り付くように飛び退いてしまった。
……冒険者としては半年ほど先輩みたいなものだろうに、戦い慣れてないのだろうか。
それじゃ先にこっちの準備を……と思ったところで、初めてのパーティでの戦闘であるため、どんな感じで進むのだろうかと疑問に思った。
「……ん? 何だ、これ」
いつものように、『たたかう』を選択したのだけど……その後に出てきたのが、いつもの『こうげき』から始まるスキルの一覧……ではなかった。
「……メンバー、1?」
そう、項目が2つ並んでいて、ひとつは『あなた』、もうひとつが『メンバー(1)』だった。
『あなた』を選択すると、いつものスキルの一覧が表示されるので、こちらは問題ない。
『メンバー(1)』の方を選択してみると……『こうげき』だけが表示されていた。
えっ、もしかしてパーティでやる場合って、僕が委員長のスキル選択もできる感じなの?
なんだろう……『連携』の都合とかで、戦う順番みたいなものを指定する必要があるんだろうか。
バレーボールで、僕が『トス』を上げて委員長が『アタック』する、みたいなそういう。
まあ、とりあえず初めてだし、僕の方がいつも通り『1:ぼうぎょ』からの『2:こうげき』で1撃入れて、トドメを委員長に譲ることにしよう。
6層以降のアサルトバットは、層の深さによって体力が結構増えているようで、来たばかりの頃は5回ぐらい『こうげき』を入れる必要があった。
レベルが上がるに従って、その回数は減ってきていて、直近では計2発で倒せるようになっていた。
なので、恐らくは僕の『こうげき』の後で委員長のが入れば終わると思う。
まあ、倒せなかったら次のターンで倒せるだろうし、それでいいか。
『メンバー(1)』の方も『1:こうげき』を入れて『かんりょう』を選択すると、僕の身体は自然とアサルトバットに向けて盾を構えて、また右手のメイスにも力を込め始めた。
アサルトバットが動き出したところで、タイミングよく盾が突き出される。
『ぼうぎょ』がマスターゲージ最大となって得られたスキル性能『受け流し』が発動して、アサルトバットの体勢が崩された。
地面へ向かう身体に、続いてメイスが突き刺さるように撃ち込まれて、地面へと転がっていく。
すかさず委員長が走り込んできて、手にナイフを持って、その身体へと止めを刺した。
あれ、魔法は使わないんだ? とも思ったけど、まあ3発しか撃てないらしいから、妥当だろうか。
アサルトバットは、やはり2発の『こうげき』で倒せたようで、無事にその身体が消えて魔石となった。
すると、唐突にテレパシーが届いた。
『パーティでの戦闘によりレンタルノートの機能が開放されました』
『スキルノートからメンバーの行動を【おまかせ】に設定した場合は各メンバーにレンタルノートが提供されて各自でコマンドを選択できるようになります』
ああー、何かそういう設定が必要だったってことなのか。
もしかして、さっきのは僕の選択で、委員長側の攻撃手段選択を奪ってしまったのかもしれない。
とりあえず、この後にでも先ほどの通知に従って設定を入れてみよう。
委員長はといえば、慣れないナイフでの攻撃のせいか、そのまま床に正座を崩したような形で尻をついて座ってしまっていた。
その横顔は、疲れたのか呆然とした表情のように見える。
──そして、僕が『どう、行けそう?』と声をかけようとしたところで、唐突に委員長が天を仰いで叫んだわけだ。
「常識が行方不明すぎるッ!!」
◇◆◇
「……あのね、日野くん」
──委員長に手首を掴まれたかと思うと、何の説明もないまま先ほど降りてきた階段を上り、僕たちはなぜか5層のエレベーターまで戻ってくることになった。
エレベーターの扉が閉じたところで、ようやく掴んでいた手首を離してくれたかと思うと、こちらに背を向けていたところを向き直り、若干にらむようにして、口を開いた。
「あなたのスキルって……何なの?」
それは……ごく普通の、前衛スキルだけど……。
「違うッ! 断じて違うからッ!!」
……そう言われましても。実際、ああやって僕は戦ってきたわけだし。
「まず、モンスターは空中で止まったりしない」
…………ん?
まあ、普通はそう思うだろうけど、それはダンジョンだから……って、あれ?
ダンジョンでは、そういうものじゃないの?
「それに、アサルトバットの急襲は、【気配察知】が出来る斥候職でもいないと防げないの、本来は!」
いや、それもダンジョンだから……これも、違うの?
あ、そうか。八王子にあるっていう高校のダンジョンとは仕様が──
「そんなわけないでしょッ! コレは間違いなく日野くんのスキル! なんなのアレは!!」
……いや、そんな…………えっ?
──どうやら一般には、戦闘開始の際に敵が止まることもなければ、身体が勝手に動き出す事も無い、らしい。
魔法も詠唱して使うし、剣や槍だって自分で振らないと動かない。
……何か聞いた感じ、随分と一般の方はハードモードじゃ──
「日野くんのスキルが、イージーすぎるのッ!!」
アッハイ。
ひとまず僕は、把握している範囲で『こうげき』や『ぼうぎょ』の挙動について説明をしてみた。
すると、委員長は頭痛がするとでも言わんばかりに、こめかみの辺りに指を充てている。
「はぁ……。あのね、【槍術】とか【剣豪】みたいな
──【剣豪】を得て、片手剣の【スラッシュ】を覚えたとしても、その太刀筋や発動速度、ダメージはその人の技量に依存するんだとか。
それこそ、バッキバキの素人と小学校時代から剣道を習ってきた剣道の段持ちでは、同じスキルを授かっても威力は天と地の差があるそうな。
なお、ステータスの方はレベルが上がる際に
「日野くんのスキルは多分、一定空間の時間を止めてる『事象干渉系』ってのと、行動を制御する『制御系』ってのの複合なのかな……いずれにせよ、結構大規模なスキルだから、相当な魔力を使うはずなんだけど、魔力は枯渇したことないの?」
うーん、筋肉痛でひどいことになったことは初日と初回ボス戦で何度もあるけど、それで戦闘状況が解かれたことは無かったから、たぶん魔力枯渇にはなったことが無いんだと思う。
ちなみに、『事象干渉系』は天候や地形に干渉する【風水】や重力を制御する名称そのままの【重力】なんてのが知られていて、『制御系』では魔物を使役する【魔物使い】や人形とかゴーレムを制御する【
どちらの系統も、結構な魔力を食うことで有名なんだそうな。
「魔力枯渇したことないんだ……羨ましい」
どうやら、魔力枯渇の状態は相当キツいようで、委員長の場合は3回撃てる中の2回目でも短時間で使うと頭痛がひどいんだとか。
「何にしても、あなたのスキルは結構特殊だと思う。こういうスキルは、現状の法制下ではなかなか相談相手が難しいって、学校でも言われていたけど……とりあえず、明かす相手は選んだ方がいいかな」
……そうか。
委員長が、わざわざエレベーターまで連れてきてから話をするようにしたのは、そういうことだったんだ。
一応、マモルさんからもスキルの秘匿については言われていたことだけど、どうやら
彼女にとっては既に慣習になっているのかもしれないものの、スキルの情報を秘匿するために、ここまで移動してくれたわけで、そんなことに気が回ってなかった僕には大変ありがたい。
……いっそ、モンスターが戦闘範囲に入って待機状態にしてから話せば、今後は戻る手間が省けるか?
次の戦闘に入ったら、委員長に提案してみることにしよう。
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