第32話 使えない

「お待たせー」


「う、うん、行こうか」


──話している時間も勿体無いので、ということで、ひとまず一緒に探索すること自体は了承して、中で着替えようと提案した。


委員長はすごく感謝してくれて、何度も頭を下げていたけど、そういうのに慣れてない僕は、『混まないうちに』なんて言って、中へ入るのを促してしまった。


やはり、委員長は簡単な携帯食などの荷物の他には装備を持ってきていなかったようで、革鎧と魔法職用の武器である『ロッド』と、一応近接用に『ナイフ』を借りていた。


着替え終わって階段前で落ち合うと、彼女は肩より長かった髪を後ろでまとめた髪型へと変えていて、あとはこのダンジョン内でよく見かける普通の冒険者っぽい革鎧姿となっていた。


僕の方は、いつも通りチェインテックスの上に革鎧を着けて、盾を左手に、メイスを腰に下げている。


「あの、それってもしかして……チェインテックス?」


1層への階段を降りながら、委員長がいてきた。


流石はダン高生ダンジョン高校生、知っているらしい。


「ああ、うん。魔石の稼ぎで、買ったんだ」


「へー、すごい稼げてるんだね。羨ましいかも……」


まあ、スキルで上手いこと戦えてるのと、ソロでやってるからパーティ全体の収入を独り占めできるのが大きいとは思うけどね。


それに、待機ポーズ就寝スリープによって時間を有効に使えてるのも大きいだろうか。


「私はこのロッドを借りることが多いかな。一応、魔力消費量が多少は抑えられるから」


服装の話から使ってる武器の話に移って、ちょうど聞きたい話になってきたので、たずねてみることにした。


「あの……『魔法を撃てる回数が少ない』って、い、言ってたけど、何回ぐらい、なの?」


「…………3回、かな」


委員長は、ちょっと横に目を逸らしながらそう言った。


おおう、確かにそれは少ないかもしれない。


どうやら、それ以上撃とうとすると動けなくなってしまうらしい。


魔法使いは、使える魔力が一定量に決まっているそうで、一般には『魔力量』あるいは『MP』と呼ばれているんだとか。


魔力の使い過ぎは、使用者に頭痛や脱力の症状を引き起こすとされていて、その症状は『魔力枯渇』と呼ぶそうだ。


委員長は4発ぐらいを撃つと『魔力枯渇』になってしまうようで、半日ぐらいダウンしてしまうんだそうな。


僕も『いかり』+『コンボ』で気を失うほど疲労してしまうので、あんな感じだろうか。


「それじゃ、使え・・ない・・間は、ナイフで?」


「…………」


……あれっ、急に委員長の足が止まってしまった。


振り向いた先で、立ち止まっている彼女は俯いていて……階段下で見上げるようになって少し見えた表情は、口を引き絞って何かを我慢しているような感じに見えた。


「…………あっ、ううん、なんでもないなんでもない。ゴメンね。それで──」


僕も足を止めていたことに気付いて顔を上げた彼女は、明らかに『なんでもない』感じではなかったけれど、まあ分かりやすく無理な笑顔を浮かべて、話を続けた。


普段も、確かにナイフは装備しているそうだけど、基本はMPが回復する間、地図担当や荷物持ちをしているらしい。


「だから、午前と午後に2〜3発ずつ、計5回ぐらいが今の限界かも」


ふーん……そんな感じなのか。


まあ、その辺は実際にその威力を見せてもらって、どう立ち回るかは検討しようか。


階段を抜けて1層に到着すると、僕はいつものように5層へ向かうべく、『エレベーター』のある小部屋へと向かおうとした。


すると──


「あの、日野くん? 最短ルートってこっちだと思ったんだけど……」


そう言って、委員長は十字路の正面である北の通路を指差していた。


あれ、委員長って藤箕ふじみダンジョン来たことあったんだ?


……と思ったけど、どうやら来るの自体は初めてらしい。


「探索予定のダンジョンは、事前に地図を手に入れて地形は把握しておくべき、って教わるの」


へー、流石はプロ冒険者の育成機関って感じがする。


でも委員長は今、手元に地図とか持ってないんだけど……覚えてるってこと?


「……うん、地図担当ってことで、いつも行く予定の階層については覚えておくようにしてる、かな」


地図だって荷物になるし、リュックから取り出す手間がかかったりする、と考えると、暗記しておくに越したことはないけど……なんか専門職みたいに覚悟決まってる感じだな。


「まあ、でも、こっちが空いてる、から」


「空いてる……? そうなんだ」


首をかしげつつも、僕の方がこのダンジョンには慣れているからということで、委員長はそのままついてくることにしたようだ。


実際のところ、入口から一番近いエレベーターは、十字路を西にいってすぐの台座がある扉のところではある。


でも、朝になってからエレベーターを降りてくる冒険者は結構いるみたいで、扉を開けようとしたところに、偶然同じタイミングでそういった人たちと出会でくわすってことが何回かあって。


なんか、同じ人と顔を合わせたら気まずくなりそうだと思って、僕が5層や10層から降りてくる時に出てくる小部屋の方へと変えたら、以降は他の冒険者と出会でくわすこともなくなったので、こっちを使うようになった。


もしかして、あっちは20層辺りから降りてくる用なのかな? と予想している。タワマンや高層ビルの高層階専用エレベーターみたいな。


Eランクにもなったし、実際どうなのかはそのうち確認できることだろう。


さて、入口すぐの十字路を東に行って、横道へと入ってすぐの小部屋に、僕がいつも使う方のエレベーターの扉はある。


「……あの、日野くん」


後ろからの委員長の声に振り向くと、小部屋に入る手前で立ち止まっていた。


「あの、手伝いをお願いした立場だし、疑うつもりはないんだけど……こんなところで何をするの?」


その顔は、若干険しいものになっていた。


…………ああ、そうか。


そういえば、これが僕に取っての初めてのパーティでの探索だから、大事なことを忘れていた。


あれね、報連相ってやつ。報告、連絡、相談。


ソロだったから、ずっと不要だった手続きってやつだ。


これから何をするかを共有しておかないと、そりゃ不安がるとは思う。申し訳ないことをした。


まして女子だし、下手したら人気ひとけの無いところに連れ込んで、立場を利用していか・・がわ・・しい・・真似でもしようとしていた、と思われていたのかもしれない。


「そうだね、説明を、忘れてた」


とりあえず、今は5層に向かっていることと、こっちからも移動できることを説明しておく。


しかし──


「……でも、この先って行き止まりでしょう? 5層に行くなら、北に向かうしか無いと思うんだけど」


そう言って、委員長はその場を動こうとはしなかった。


うーん、もしかしてこの先にある扉はあまり知られてなくて、冒険者ギルドの管理する地図にも描かれてないのだろうか?


でもまあ、こういうのは『百聞は一見に如かず』ってやつだよね。


「嘘だったら、何か、おごるから」


……【説得】スキルとか持ってないから、思いついたのがそんな小学生みたいな言い回しになってしまったけど、委員長は黙ったまま頷いて、ようやく足を動かしてくれた。


さて、今日は小部屋にファットラットもいなかったので、そのまま台座の前まで到着した。


台座へと手を触れると、いつものように壁に埋め込まれた扉が横へとスライドして、中央に水晶のある部屋に入れるようになった。


それを見て、委員長は呆然といった表情を浮かべていた。


「…………嘘、そんな」


いや、5層に行くエレベーターが実際あるんだから、全然嘘じゃないでしょ。


ほら、早いところ入らないと、扉が閉まっちゃうから──


帰還・・部屋・・の扉が外から開くなんて、どうなってるの……?」


…………帰還、部屋?


エレベーターじゃなくて?

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