第16話 魔法袋

4階は、売り場情報にあった通り、キャンプ用品やアウトドアグッズなどが展示販売されているようで、入ってすぐの売り場には、ダンジョンの壁を模した書き割りの前にテントを張った感じで、臨場感を出した展示がされていた。


また、煙を出さない調理器具の実演や、温めるだけのレトルト食の紹介などもされている。


ダンジョン内には、セーフエリアと呼ばれる安全地帯があり、そこであればモンスターが入ってこないので、安全に寝泊まりすることができる。


テントを張ったり煮炊きしたりするのは、主にそういったセーフエリアを想定しているようだ。


……もっとも、僕は他人のいる場で独り寝るなんて危険な真似は出来ないので、キャンプ道具を使うような場面とは縁遠そうではある。


ただ、日帰りとはいえキャンプ飯をするというのは、ちょっとだけ憧れなくもないので、帰りがけにでも見てみたい。


ちなみに、温めるだけのようなレトルト食品関連は、便利グッズが置かれた地下1階がメインの販売となっている。(と、店員さんが紹介している後ろの看板に書かれていた)


フロアに入ってすぐの展示をひと眺めしたところで、本来の目的であるリュックの売り場へと向かうことにした。


「リュックは、と……あった」


棚の上部にある案内板に、『リュック・ショルダーバッグ・ウェストバッグ』と記載されているのを発見し、矢印の示す右側の棚へと向かう。


売り場には、サイズ別に棚が作られていて、個人で持つものから荷物持ちポーター用の大型のものなど、様々なものが置かれている。


「……ゴツいな、これ」


背負子しょいこと呼ばれる、L字になった丈夫な金属製のフレームに荷物をくくりつけて運ぶものも売られていた。


テントなどの大型の荷物を運ぶのに、都合がいいらしい。


オフロード用のタイヤを取り付ける機能もあって、カートのように運ぶこともできるんだとか。


本職で荷物持ちポーターでもやるなら、こういったものを使うのだろうか……と思いつつ、『大は小を兼ねる』にしてもこれは無いだろうと、現実的なサイズのものへと視線を移す。


「40Lか25Lか……うーん」


サイドポケットあり、ボトルホルダーあり、2Lのペットボトル・お弁当箱・タオルが入るサイズ……といった条件だと、15Lでは微妙かなと思い、ひとつ上の25Lぐらいのものが丁度よさそうに思える。


しかし、さらに上の40Lは結構な余裕がある感じで、着替えとかも入れられそうな容量を持っている。


この先、泊まりがけとかになるようなら、これこそ『大は小を兼ねる』のかなー……とは思いつつ、『それはまだまだ先のことじゃ?』とも考えてしまう。


……まあ、ここは25Lでいいか。高々7千円と1万円だし、ギルドの本会員になった後にでも買いかえを検討しよう。


なお、魔物からの攻撃も防ぐ『魔物革』のバッグとやらも作れるらしいけど、オーダーメイドで50万からと書いてあったので即却下した。


ただ、ちょっと惹かれたのは……


「……魔法袋かぁ」


そう、どうやら容量は少ないながら、ダンジョン産の魔道具で『魔法袋』が売られているらしい。


『魔法袋をお求めの方は8Fまで!』と可愛らしい文字で書かれたポップが、棚を仕切る柱のところに貼られていた。


8階にある魔道具売り場に不定期ながら持ち込まれるらしく、購入者は国への登録が必要になるものの、金さえ払えば入手は可能なんだとか。


なお、お値段はというと……最小サイズのものでも100万円から。


でも、最小とはいえ縦・横・高さ0.5mほどの容量らしいので、125Lの荷物が入ると考えれば、それだけ容量を食う荷物が袋1つで持てるということに価値が出てくるだろう。


それこそ、小さめの組み立て式テントぐらいであれば、入れられそうなサイズだと思う。


何より、『魔法袋マジックバッグ』の名の通り、入れた荷物の重量は組み込まれた魔法により無効化・・・されて、持つのに袋自体の重量しか必要としない。


長旅では重要となるという水問題とか、必需品の食料とか、嵩張るけど削れないものを持ち歩くのに重宝するし、特に深い層を探索するとなれば人権・・とも言える道具だろう。


ただし……


「盗まれる危険性があるからなぁ……」


値段からも分かる通り、魔法袋は希少であり高価なため、他人の前で使えば窃盗の標的となり得る。


ダンジョンの中は、記録機材が意味を為さないこともあって、証拠が残りにくい。


そのため自衛は当然のこととして、なるべく信用のおける仲間と行動を共にすることが推奨されている。


それが逆に意味することは……自衛できないほどの高価な物品を、下手に持ち歩くべきでは無い、ということ。


まして、ソロ勢でやっていこうという僕にとっては、殊更に目立つようなものを持つべきではないだろう。


そう考えると、非常に見た目が地味でそこそこの容量である25Lのリュックは、今の僕にとって丁度いいのかもしれない。


……高価な魔法袋は、自分の身が護れるようになってからでいいかな、うん。


ちなみに、魔法袋を購入する際に国への申請が必要になる理由は2つあるんだそうな。


ひとつは、盗難にあった際の捜索目的だ。


ダンジョンで入手した魔法袋は、基本的に入手後の登録が義務付けられていて、登録後は専用のセンサーにより所有者を判別できるようになるという。


そのため、流通に乗せられた魔法袋もまた登録済みのため、盗んだものを売っても足がつくようになっている。


もうひとつは、犯罪に使われることを防ぐため。


当然ながら、魔法袋は大量の物品を袋ひとつに入れられるため、窃盗にはもってこいの道具になるだろう。


また、魔法袋に入っているものは、従来の金属探知機やセンサーにも反応しないため、密輸にも便利だし、テロリストに渡った場合は最悪の事態を引き起こすだろう。


そのため、魔法袋はそもそもダンジョンからの持ち出しを禁止していて、外で持ち歩けない刀剣類と同様に、冒険者ギルドの専用金庫へ預けることが義務付けられている。


もし店舗で魔法袋を購入する場合でも、試用は指定されたダンジョン(主に最寄りである上路ダンジョンになるけど)で行われることになるし、登録後は使用するダンジョンで受け取る流れになるようだ。


……もっとも、魔法袋の入手報告は冒険者の善意に依存しているのが実情で、仮に自力で入手したものを黙って使用していても、バレることは滅多にないらしい。


また、専用のセンサーがあるようなダンジョンの外に持ち出さない限りは、所有者であるかの判別がつかない、という問題もある。


そのため、探索中に魔法袋の使用者がいても、それが申請済みなのか申請なしで使っているのか、はたまた窃盗したものを使っているのかは、その場では分からない。


ただ、魔法袋を悪用・・した場合、基本的に冒険者証の取消や現行法での逮捕となるため、今のところ健全な利用がされているようだ。


そもそも、現状の『魔石バブル』とも呼ばれている状況下では、裏の人間も麻薬やら密輸やらと危ない橋を渡るよりも、よっぽど魔石を集めた方が稼げるんだそうな。


……まあ、これも匿名掲示板まとめサイトで読んだ内容だから、どこまで本当かは定かではないけど。


何にせよ、ダンジョンでいつ閉じ込められたり孤立したりするかも分からないし、金を貯めれば買えるのであれば、最小容量でも持っておきたいところだ。


もちろん、自力で入手できたら一番いいんだけど、そうそう運は回ってこないだろうし。


たしか、10層とか20層とかの区切りにいるボスを倒すとドロップすることがある、って話だったかな。


もちろん、それを狙ってる他の冒険者もいるし、そもそも勝てるほどに強くならなければ話にならないから、まだまだ先の話にはなりそうか。


「でもそうなると、やっぱり金かぁ……」


1階で観た『チェインテックス』にせよ『魔法袋』にせよ、色々と買いたいものが出てきてしまったな……。


遺産を引き出して先行投資、というのも考えなくはなかったけど、やっぱり趣味で続けていきたいから、なんかそういうのとは違うんだよな。


まあ、急ぐ必要はないし、ぼちぼちやっていけばいいか。


──リュックの会計を済ませた僕は、『チェインテックス』のパンフレットを貰ったり、今後必要になる『ヘルメット』を見たり、『定番商品』がある地下1階に行ったりと、いくつか寄り道してからデパートを後にした。

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