第43話 可能性を信じあえる相手がいるから沸き上がる力
ヴー・ヴヴヴー
亜美のスマホが鳴る。
そこには、差出人不明のメッセージが届いていた。
『あなたのことを本当に分かってあげられるのは、わたしだけ』
ひゅ、と息を飲んだ亜美に
「いやぁぁぁっ!!」
「くぅっ! まだこの中に居るんですね!?」
ガツンと嫌な音を立てたスマホを脇目に、周囲を見渡しつつ、
計算機室に置かれたマザーコンピュータ。その本体ともいえるCPUが収められた冷蔵庫状の
「削除をかけても、次々に復旧して来るっ!? なんでっ」
叫ぶ薮の声は悲観に染まり始めている。
「ちっ……! 今度こそ、十四年前のカタを付けてやりたいのにっ!! どんだけ執念深いんだよぉっ!!!」
ハテアイが吠える。
「僕がっ、書き込んだゼロが、消されて行く!」
「幾ら書き込んでもっ、きりがないっ!!」
薮とハテアイが、揃って絶望的な状況を訴える。
そんな中、それまで黙って状況を見守っていた綾小路が、手にした愛用の500mlミネラルウォーターのペットボトルの底を前に向け、飲み口側をこん棒を構える格好で振り下ろして
「ゼロの上書きなんて、もともと削除じゃないのよ。ソコに残ってるんだから。物理的になんとかしなきゃ! 精密機械に致命傷を与えるには、水よ!」
彼女の手にした水がたぷんと音を立てる。
「物理的に!? 確かにそうです!! わたしとしたことが、この心強い味方のことを忘れていましたっ」
言いながら、
「ちょっと待ってよ! 物理って言ったって、この箱、こんないっぱいあんのよ!? 綾小路先生と、
亜美の言葉に、
「ならない。一部は壊せるけど、全部は無理だ。筐体の10台全部を壊さなきゃ。あいつはちょっとでも残すと増殖する」
「ひと欠けのデータが在ったら100体に増えちゃうんですね!」
「っ!? ……うん、さすが
そんな風に緊張感から解放されたのは、ハテアイも同様だった。
「完全駆除するしかないねぇ、どうしよっか。アメフラシアメリン、何か良い案は無い?」
軽口で、慣れ親しんだ彼女のハンドルネームを呼んで見せる。隣で、ムッとした表情を見せる薮に、ニヤリと笑う余裕までみせる。だが、当の
「うにゅぅううっ、エピペンはひとつ。美魔女先生のお水も小さなボトルひとつきりっ。対するハコは十台。どう考えても足りないし、眠り姫はどんどん増殖するし、危機的状況待ったなしですよぉ!? こんなときこそAIの頭脳を使いたいけど、敵対相手がAIなんて……」
決定打は水。けれど数が足りない。
「アメフラシアメリン、一世一代の大舞台を、何とか成功で乗り越えたいのですぅ。ハムはむハムスターな可愛いカッコ良い薮りんが、自分の能力に迷いを持たないで済む様に、絶対に何とかしたいんですよ!」
頭を両手で搔き毟ってブツブツ呟きながら天を仰ぐ
「ね、ねぇ。アメフラシアメリン……?」
流石にこれ以上独白をさせたのでは、取り返しのつかない黒歴史になりかねないと、ハテアイが声を掛けたところで――
「はっ!! アメフラシっ!!! なのです!」
「ちょーっ!? まって、待って!?
綾小路が慌てて呼び止めると、そこでようやく急停止する。けれど爛々と輝く瞳は、やりたい衝動を雄弁に物語って、すぐにでも行動再開をしようとする未来しか見えてこない。
「何をしたいのか、とにかく説明して! 良いアイディアを思い付いたのかもしれないけど、今の勢いで扉に突っ込んだら、激突した惣賀さんが目を回す未来しかないわ。ものごとを成功させるには、根回しと協力が必要よ。まずは説明!」
「はっ! 確かに、薮りんなら言えばすぐにどうにかなるって信じてました! けど、そうですね、ここには薮りん以外にも美魔女先生にミュウーラ、出会い厨さんに、謝れない系女子の碇さんが居たのでした」
酷い人物の認識である。大きくため息を吐きたい衝動を抑えつつ、綾小路が「何をやろうとしているの?」と話を促せば、
「とにかくここから脱出するのです! 扉のロックを解除してください!!」
けれど、まだ説明が足りない。しかも、要求は無茶振りも良いところで、困惑したハテアイがぱちぱちと大きく目を瞬かせながら小首を傾げる。
「え? けど、
「出られれば、良いんです! とにかく。それから眠り姫には永遠の眠りをプレゼントするのです!!」
「簡単に言うけど、そう上手くなんて行かないよ」
「ううん。惣賀さんに僕は協力したい。僕のために頑張ってくれて。僕の力を信じてくれて。本当に嬉しかったから。せめて一瞬でも、さっきみたいな隙が生まれたら何とか出来る。一瞬でも権限を取れたら、その間だけ扉を開放することも出来る。きっと」
渋るハテアイをよそに、薮が力強く言い切ってみせた。妙に力に満ちあふれ、揚々とした薮は、おそらく
「アツいねー。若いねー」などとぶつくさ言いいながらも、ハテアイは頰を緩める。自分の時には得られなかった、可能性を信じ合える関係を結ぶ相手を得た彼らに、眩しい視線を向けながら、自身も可能性に向かって進む決意をする。
「分かった分かった。ボクも協力する。けど難しいよ? あれは三浦の体当たりと、生徒たちのDDoS攻撃が合わさったからできた、滅多にない好機だったんた。あれくらいの破壊力あるタイミングを作らないと、扉は開けられない」
「これで、一瞬の隙くらいは作れないかしら?」
綾小路が、チャプンと音を立ててペットボトルを持ち上げてみせた。
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