第29話 二人の熱血キャラと、現れた亜美
クラス全員への聞き取りから一カ月。
あの日以来、
度重なるLIINEでの呼び掛けに、返信は無いものの既読は付く。だから分かっているはずなのだ。
今日が合唱コンクール当日なのだと――。
「2年生の部で1組の出番は、5クラスある中でのトリになったぞ! 強い印象を残せる絶好の出番だ。練習の成果も着実に出て、良い仕上がりになってるとオレは思う。あとは全力を出し切るだけだ!」
教壇から生徒らを見渡し、三浦が胸に握り拳を当てて熱く語る。それからキラキラと輝かんばかりの瞳を、一人ひとりの目に合わせて行く。学園の合唱コンクールは、各学年別、クラス別で順位が付けられるのだ。
小規模な学園内のコンクール。とは言え、青春時代の1ページに輝かしい足跡を残してやりたい。そんな思いで生徒以上に
けれども教室は静まり返っている。
(あー……読めましたよ、ミュウーラの思惑が。生徒たちからもやる気に満ち溢れた何らかのコメが返るのを待ってるんですね)
「先生」
「なんだっ!」
満面の笑顔の口元からこぼれる白い歯が、キラリンと輝く錯覚を起こしそうな生気漲る表情に切り替わった三浦だ。そのまま勢い良く、声の主に顔を向ける。
「今は、本番までの最後の貴重な練習時間です。先生が私たちを応援してくれるのはとても嬉しいですが、そろそろ練習に移らせてください。発声練習もしておきたいので」
「あ、ああ……。そうだな、貴重な時間だったな」
静かな正論に熱血ムーブを粉々にされた三浦は、しおしおと引き下がるしかない。
からり
ふいに教室の後方扉が開いて、教室中の注目がそちらに移る。
「亜美……」
ぽつりと呟いたのは
「
流れた微妙な空気に、三浦が明るく声を張り上げた。
「そうね。一緒に歌いましょう? 私、ちゃんと弾き熟せるようになったの。声を掛けてくれた亜美にも聴いてほしいわ」
続いた恵利花の言葉に、亜美がキュッと唇を噛む。
「あたし……ちょっと様子見に来ただけだから。AIが、そう言って。……ちゃんと来たし、もぉいいわ。あたしはステージには上がらない。別のとこで聞いてる」
そう言うなり、くるりと踵を返して出て行ってしまう。
しんと静まり返る教室。後を追おうとする者も、咄嗟に声を掛けようとする者すらも居ない。
沈黙した教室に、薮のタブレットをタップする音だけが、妙に大きく響き渡る。
その音で、ハッと我に返った三浦が慌てて亜美の後を追い、生徒らは最後の練習を開始した。
眠り姫が、動いてる。
画面を真剣に見詰める薮の口が、声もなくそう告げる。
けれど周囲の生徒らは、誰も気付いてはいない。いや、
「何? ナニ? なに? 何っ、薮りん!」
迷いなく突っ走ろうとする
「はいはい、
騒動以来どことなく距離の縮まったツインテールのピアニストに、にっこりイイ笑顔で阻止された。そのまま薮の元へ向かった恵利花は、今度は「タブレットは逃げませんから・ね」と鮮やかな手際で彼をも練習に巻き込んだのであった。
すぐに各パート別の練習が始められ、
確かに、練習時間は僅かだったようで、曲の全体像を確認しているうちに、あっという間に本番の時刻となった。
「
教室から、コンクール会場の講堂へ移る間際、三浦が2年1組の面々の前に再び姿を現して、エールを送る。恵利花と
「眠り姫が、やけに活発に動いてるんだ」
深刻な声音ながら、両手を胸の前で組み合わせてワシワシと動かし、落ち着かない様子の薮だ。本番直前と云うこともあり、愛用のタブレットを熱血ピアニスト・恵利花に一時預かりされてしまっている。本来なら、愛機を奪われた薮に同情すべきであろう
「いつからですか?」
必死で平静を装った
「え、と。今朝から? 登校前にも凄く動いていて、しばらく静かだったのに学園に来たらまた動いてて」
「眠り姫は、問題児AIさんなんですよね? 何やってるんでしょう」
「分からない。大した動きはしていないと、思う。学園内の設備を勝手に動かすような悪事はやってないし。細々と個人にメッセージを伝えるくらいの動きしか見られないから」
「メッセージ?」
その言葉に、ふと引っ掛かりを覚えた
けれども、無情な合唱コンクールのタイムスケジュールと、ツインテールの熱血ピアニスト・恵利花によって、答えを出す前に思考の流れから強制的に引き離されてしまった。
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