彼女、意地でも酒を飲む

「久しぶりのお風呂はどうでしたか?」


 風呂から出てきた燐華さんに聞く。


「いやー最高だったよー。ありがとうね、美湖ちゃん」


 燐華さんはそう言いながら冷蔵庫からビールを取り出し、テーブルに置いた。

 俺はそのビールを無言で取り上げる。


「あー! ケチー!」


「ダメですよ。頭の怪我が治ってないし、酔って動き回って怪我が開く可能性もあるから禁止って医者に言われてるんですから」


「むー……!」


 燐華さんは不満げな顔をしながらソファに座った。


「それじゃ、私は帰りますね」


「はい。美湖さんありがとうございました」


「じゃねー」


 俺は美湖さんを玄関まで見送る。

 そして俺はダッシュで燐華さんの元へ戻る。

 燐華さんが手に持っているビールを奪い取る。


「もーあと少しで飲めたのにー」


「燐華さんの考えはお見通しですよ。諦めて我慢してください」


 俺は奪い取ったビールを冷蔵庫に戻す。


「しょうがないなぁ。じゃあタバコを……って、あれ?」


 燐華さんがキョロキョロする。


「タバコは没収させていただきました。もう少し怪我が治るまで酒もタバコも禁止です」


「えー意地悪」


 燐華さんは不貞腐れ、ソファで横になってしまった。


「じゃあ、俺もそろそろ帰りますね」


 俺は立ち上がると、持ってきたトートバッグに燐華さんの家にある酒を入れ始める。


「えーそこまで徹底するのー?」


「当たり前ですよ。怪我の治癒が優先です」


 俺は次々と酒を回収する。

 酒の量が多く、トートバッグはパンパンになってしまった。


「ちゃんと安静にしてるんですよ。それと、明日の朝迎えに来ますね。それじゃ、お大事に」


 俺はそう伝え、燐華さんの家を出た。



「……ふっふっふ。甘いなぁ、志永くんは。甘いよぉ」


 燐華は一人で笑いながら立ち上がると、ソファのクッションを取り外した。

 クッションの下には、大量の酒が収納されていた。

 大量の酒の中から日本酒の瓶を選び、取り出す。


「さーて、入院して飲めなかった分飲むぞー!」


 燐華はフタを開け、がぶ飲みし始めた。

 それから三十分後、アルコールにより怪我が痛み、泣きながら志永に電話するのだった。

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