第5話:屋上での対峙
宇宙船の一件から数日が経ち、学校はなんとか授業を再開した。
半壊した校舎は応急修理され、校庭の残骸も片付けられたものの、生徒たちの間では「謎の光で宇宙船が消えた」って噂が止まらない。俺はできるだけ目立たないように過ごしていた。エターナルブレードは木刀の形でカバンに隠し、妹の美月には「変なことは聞くな」って釘を刺しておいた。
「普通の高校生活を守るためだ。我慢しろ、俺」
そう自分に言い聞かせていたけど、厄介な影が迫ってきていた。
放課後、教室でカバンを整理していると、聞き慣れた声が響いた。
「黒崎刃斗、少し話があるわ。屋上に上がってきてくれる?」
振り返ると、そこに立っていたのは柳生十兵衛。黒いコートを羽織り、腰に太刀を携えたその姿は、いつ見ても異様だった。ポニーテールの黒髪が揺れ、鋭い目が俺を射抜いている。2年生の副会長であり、日本国政府防衛局暗部局長。俺の秘密を嗅ぎつけている危険人物だ。
「……なんですか、副会長。急に呼び出すなんて」
俺は平静を装って答えたが、内心は警戒心MAXだ。
「いいから来て。話は屋上でするわ」
十兵衛はそれだけ言うと、踵を返して教室を出て行った。太刀の鞘がカツンと鳴る音が、不気味に響いた。
(まずいな……あの宇宙船の一件、どこまで感づいてるんだ?)
俺はカバンを肩に掛け、エターナルブレードがちゃんと隠れているか確認してから屋上へ向かった。階段を上がるたび、心臓が少しずつ速くなる。
「ここでバレたら終わりだ。けど、逃げたら余計怪しまれる。冷静にいけ、黒崎刃斗」
そう呟いて、屋上のドアを開けた。
夕陽が傾く屋上には、十兵衛が一人で立っていた。
太刀を携えたシルエットが赤い空に映え、まるで時代劇の剣豪のようだ。彼女は俺を見ると、太刀の柄に手を添えて口を開いた。
「黒崎君、単刀直入に聞くわ。宇宙船が消えた日、貴方はどこにいたの?」
「だから、トイレに隠れてたって言ったじゃないですか」
俺はフードを軽く被り直し、淡々と答えた。
「ふぅん。トイレね。でも、面白いデータがあるの」
十兵衛はポケットからタブレットを取り出し、画面を俺に見せた。そこには屋上付近で観測されたエネルギー波のグラフが映っていた。
「この異常な波動、分子レベルで物体を分解する力よ。自衛隊にもない技術。偶然にも、貴方が『トイレに行った』時間と一致するわね」
冷や汗が背中を伝う。こいつ、ほぼ確信してるじゃないか。
「偶然ってやつですよ。俺、ただの新入生です。そんな力、持ってるわけないでしょ」
俺が誤魔化すと、十兵衛は太刀を軽く抜き、刃を夕陽に反射させた。
「そうかしら? 貴方のカバンにある木刀……ただの木刀じゃない気がするわ。私、剣術の心得があるから分かるのよ。あれ、普通じゃない」
「剣道部用だって言いましたよね。副会長、疑いすぎじゃないですか?」
俺は一歩下がりつつ反論した。すると、十兵衛は太刀を鞘に戻し、鋭く笑った。
「疑うのが私の仕事よ。国家の安全に関わるなら、新入生だろうが容赦しない。もし貴方が何か隠してるなら、正直に話す方が賢明ね」
彼女が一歩近づいてくる。太刀の気配が空気を重くしている。
「隠してるなんてないですよ。ただの高校生が、宇宙船を消せるわけないじゃないですか」
俺は平静を装って笑ったが、心の中では次の手を考えていた。
(まずい……こいつ、どこまで知ってるんだ? ここで魔法使ったらバレるけど、黙ってても追い詰められる)
「そうね。証拠がない以上、貴方をどうこうはできない。でも、黒崎君、私の目はごまかせないわよ」
十兵衛は太刀の柄を軽く叩き、俺に背を向けた。
「何か思い出したことがあったら、私に報告してね。でないと、次はもっと厳しく聞くわ」
そう言い残して、彼女は屋上を去った。太刀の音が遠ざかる中、俺は息をついた。
「柳生十兵衛……厄介すぎる。分子分解がバレる前に、どうにかしねえと」
夕陽に染まる屋上で、俺はエターナルブレードを握り、次の策を練り始めた。
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