灰色の安寧

 やがて進み続けると、そこに大きな虚ろが現れる。今まで以上の暗闇が中を支配して、まるでこれ以上は行き当たりばったりで対処するしかないと言わんばかりである。何と面倒だろう。でも私には進むしか選択肢が残されていないのだから、この暗闇に身を委ねるしかないのである。ふと私は気付いた。『これらは果たして全て私の思考なのか?』と。もしそうであれば、私はとんでもない思想家かぶれな痛々しい人間なのだということを思い知ることになるし、そうでないならばこの思考は誰のものなのか、そもそもこの思考はいつから私を支配したものなのか、それを考えずにはいられなくなるだろう。でも、ここには今は私一人しかいない。それならば元来から自覚してこなかった、自分自身の新たな一面なのだと納得するほかはあるまい。

 暗中模索というのは、一般的に見てとても苦痛なものである。それは当然と言えば当然で、そこに何があるのかはおろか、そこに何かあるのかすらもわからずに手を動かし、探り続けなければいけないのだ。これを苦痛と言わずに、何と呼べばよいだろう。だが目の前に聳えるのは闇しかいない。お先真っ暗、というものだろうよ。だからこそこれを受け入れるしかない。進むべき道がこれだけならば、私はそれを納得し、直ちに足を踏み入れる必要があるのだ。


 ひんやりとした空気に包まれ、私は改めてその愚かさを思い知ることとなる。少し考えればわかることだった。暗闇の中というのは、存外寂しいのだ。まあわかったところで、この場には私しかいない。どちらにせよその理解は意味のないものでしかなかった。今思えば、今私が歩いているこの線路、見た目の綺麗さのわりに随分と使われていないのだろう。そうでなければ、光の一つも当たらないような状況で放置されるわけがない。そう考えれば、私が置かれた状況は随分と異質とも言える。どこからともなくここへ呼ばれ、気付くころには私は放置された暗闇の中に一人である。何とも意味の分からないことだろうか。しかも出口も経緯も思い当たらず、ただ進むことでしか状況を理解できない。しかもここで誰かに助けを呼ぼうと今の今まで思い至らなかった辺り、私は随分と孤独なようだ。そうして私は何となしに、自身のポケットをまさぐり始める。すると今まで重さの一つも感じられなかったのに、そこから自然と自分の携帯電話が現れるではないか。今そのことに気づくなんて、随分と遅かったじゃないか。お前の人生もそうだったのだろう?誰かの助けを借りようとせず、自身の力だけで乗り越えようとし続け、気付けば自分以外誰もいなくなる。いつもそうだ。

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