大好きなあなたに、最期にお願いがあるのです

月橋りら

第1話

わたくし、あと三ヶ月で死ぬらしいですわ」


そのような重要なことを、さも重要でないかのようにけろりと言い放った女性が、庭園で優雅にお茶をこくりと一口飲んだ。


そして、それを告げられた婚約者であろう男性が、言葉を失い目を丸くして驚いていた。


「…もう一回言ってくれないか」

「ええ。私はあと三ヶ月で死ぬそうです」


相変わらず澄ました顔でさらっと言ってのける彼女に、男性はふぅ、とため息をついた。


「つまり、余命三ヶ月だと?」

「はい」

「…そんな大事なことを、なぜ気軽に言えるんだ」


呆れたとも悲しいともとれる顔をして、男性はもう一度相手の女性を見た。


「なぜって……特に、理由など」

「あるだろう。そもそもなぜもっと早く言わない」

「それは……」


彼は気づいていた。

彼女が、一ヶ月前にはすでにーー彼女自身が余命わずかという事実を知っていたことを。



〈一ヶ月前〉


「セシル様。ルアーナ様が、健康診断を受けたようです。これは、その検査結果です」


セシルの秘書、ラズールが一枚の紙を渡してくる。


この国の貴族は、男女身分年齢を問わず三年に一度、健康診断を受けることが義務付けられている。特殊な理由がない限り、生まれた瞬間から三年後、そしてそのまた三年後……というように。


そして彼、セシルとその婚約者、ルアーナは同い年で今年十八になった。


「何か問題があったのか?」


セシルは秘書に問い尋ねる。


検査結果は、セシルの場合、従者と護衛も兼務する優秀な部下であるラズール、ルアーナの場合、彼女の護衛と身の回りの世話をする一番親しい侍女であるリナがまず自分の主人の検査結果を受け取る。


そして結果を確認した後、ラズールとリナはお互いの主人の体調の問題点について報告する。

この行動は、たとえ婚約者といえど無礼かつ不可解なものであるがーーこれはセシルとルアーナの両親が命じたものだから仕方がない。

「婚約者なのだから、お互いの体調不良については必ず知っておきなさい」と双方の両親が言ったのだ。


ラズールもリナも、少なからず主人に相手の体調不良を報告する。


そして、ラズールの場合、彼がたいした問題ではないと判断したら、セシルに報告されずに終わるか、もしくは口で言う、のみだ。


しかし、わざわざ今回彼が紙をリナから預かってまでセシルに報告してきたということは、なにか大きな問題が起きたに違いない、とセシルは確信した。


「はい、大いに問題があります」

「それは、今までの中で最も?」

「はい。最もです」


少し顔を歪めて言うラズールに、セシルはどことなく違和感を感じた。


「紙を貸せ」

「はい」


ラズールから渡された一枚の健康診断の結果。


〝氏名:ルアーナ・ライモンダ〟

〝余命四ヶ月〟

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