第4話 この後、めちゃくちゃ〇〇〇〇した。
「……ねぇ、ちょっとどいてくんない」
「ご、ごめんなさい!!」
教室のドアの前でタムロする女子は霧野の冷ややかな声を聞き、慌てて蜘蛛の子を散らす。
さっきまで賑やかだった教室の雰囲気は一気に静まり返った。
「おっかねぇなー。めちゃくちゃ圧あるんだよな、霧野さん」
「あはは……」
道角は今の一部始終を見ながら呑気な声で言う。そして俺は苦笑いをすることしか出来なかった。
▪️
「今日の夜ご飯何? 私、めっちゃお腹空いたんだけど。陽賀の料理はいつも美味しいから楽しみなんだよねー」
我が家のキッチンにて、霧野は満面の笑みでそう言ってくる。
いや、気持ちは嬉しいんだけどさ……
「なんでやねん」
「ん、何が?」
「霧野さ、学校と家とで結構キャラ違くない?」
「……カステラって美味しいよねー」
霧野は目を泳がせながら露骨に話題を変えようとする。現実逃避しようとしても無駄だぞ。
「普段は割と冗談も言うし口調も明るいのになんで学校だとトゲトゲしてんの?」
「……元々死ぬ予定だったから、なるべく人と関わらないようにしようと思ってたの。人と関わろうと思える精神状態でもなかったし」
俺は人参の皮を包丁で剥きながら、霧野の話を聞く。
「でもさ、もう死ぬつもりはないんだろ? なら今からでも友達作りすればいいじゃん」
「……しい」
ん、なんだって? 声が小さくて聞こえないんだが。
「今更キャラチェンとか恥ずかしくて出来ないんだけど!! 今まで話し掛けてくんなオーラを出してたのに『私、霧野透。よろしくね〜』とか無理でしょ」
「たしかに」
想像してみたら確かに無理があった。教室での霧野のイメージは「金髪で話しかけんなオーラを出してる怖い人」だ。
「まぁ、無理に友達を作る必要もないしな」
霧野は腕を組みながらウンウンと頷く。
「あ、お風呂溜まったから先に入ってきて。俺はカレーを作らなきゃいけないからさ」
「やった! 今日の夜ご飯はカレーなんだ!! じゃあお風呂入ってきまーす」
ガッツポーズをし、霧野は洗面所へドタドタと走って行った。
学校でもこんな風に振る舞っていたら霧野は人気者になれるだろうに。
そんなことを考えていると、俺は自分の嫌な感情に気づいてしまった。
俺はみんなが知らない霧野の一面を知っている。そのことに優越感と独占欲を感じてしまっていた。
……俺、気持ち悪いな。
▪️
「俺、今日バイトだからいつもより遅く帰るわ。二十一時くらいに帰ると思う」
「オッケー。じゃあ映画でも観て暇を潰しておくね」
陽賀はそう言い、先に家を出て学校へと向かう。
私と陽賀はいつも時間をずらして登下校をしている。その理由はもちろん私と陽賀の関係を隠すためだ。
年頃の男女が一つ屋根の下で一緒に暮らしているということがバレたら絶対に変な噂が立つ。有る事無い事吹聴され、好奇の視線に晒されるなんて真っ平ごめんだ。
……二十一時まで何しよう。映画を見ても良いけど、本屋さんに行って小説を買っても良いな。
以前までは小説をまともに読むことの出来ない精神状態だったけど、また読書を楽しむ心の余裕が出来て本当に良かった。
よし、私も登校しよう。そろそろ行かないと遅刻してしまう。
貰った合鍵で玄関の戸締りをする。
映画か小説か……悩むなぁ。
▪️
結局、私は小説を買うことにした。
放課後、学校から電車で移動して大きな書店で小説を買う。
「ご利用ありがとうございました」
レジでお金を払い、私は店を出る。
この小説、本当に面白そうなんだよなー。この作者の小説は全部面白いから今回も期待できる。早く読みたい。
休み時間の暇つぶしにもなるし小説を買っておいて良かった。興味があったら陽賀にも貸してあげよう。
私はルンルンと鼻唄を唄いながら家に帰るために駅へと向かう。
「良いじゃ〜ん、俺と遊んでいこうよ」
「さっきから嫌だって言ってるじゃないですか!! 私は早く帰らないと行けないんです。離してくださいっっ!!」
駅に着くと男性と女子高生言い争っている声が聞こえてきた。
若い赤髪の男性が女子高生の腕を強く掴んでいて、女子高生は男性の手を必死に振りほどこうとしている。
あの女子高生、私と同じ制服だ。……っていうか、私と同じクラスの子じゃない?
まぁ、私には関係ないか。
陽賀ならこういう時、女子高生を助けようとするのだろうが私は違う。わざわざ喋ったこともない同じクラスなだけの女子を助ける義理はない。
「……しつこいですよ、赤髪のお兄さん。その子嫌がってるじゃないですか」
気づいたら私は女子高生の腕を掴む赤髪の男性の手を掴んでいた。
「あ⁉︎ んだよテメェ。お前みたいなペチャパイはお呼びじゃねえんだよ。とっととどっか行け!!」
ぶち殺す。コイツは本当に殺す。別にペチャパイじゃないもん!! Cはあると思うもん!! 人が気にしてることを言いやがって。
毎晩一緒に寝てるのに陽賀が襲ってこないのはそれが理由なのかも……って頭を悩ませてたのは秘密だ。
「あ⁉︎ お前こそ何様だよ。もうすでに警察呼んでるからな。そっちこそどっか行け!!」
「チッ!!」
赤髪のゴミカスは舌打ちをしながら女子高生の手を離し、逃げるように走り去っていった。
ふー、めちゃくちゃ気分が悪くなった。早く家に帰って小説を読もう。
「あ、あの……同じクラスの霧野さんだよね? 助けてくれてありがとう」
同じクラスの女子高生は頭をペコりと下げて感謝を伝えてくる。
「……どういたしまして。気をつけて早く帰りな」
久々に同級生から「ありがとう」って言われた気がする。私は嬉しくて顔がニヤけてしまいそうなのを隠しながら冷静に返答する。
これも誰かさんの影響を受けたおかげかな?
「あれ? 霧野さんが持ってる本って『紫陽花のような愛でした』じゃない?」
「知ってるの⁉︎」
「知ってるも何も、大ファンだよ!! 霧野さんもこの作者の本好きなの?」
クラスメイトの女子は興奮した様子でこちらを見つめてくる。
「……大好き。この作者の作品は最新作の『紫陽花のような愛でした』以外全部読んだ」
「私もだよ!! 霧野さん、この後用事ある? 暇ならこの作者の作品について語り合わない?」
……この子、グイグイ来るな。
私は時計を見て時刻を確認する。
「良いよ。じゃあ、あそこのカフェで何か食べながら話そっか」
「うん!!」
クラスメイトの女子は嬉しそうにそう言い、私の腕に抱きついてきた。
だから、距離感。ちょっ、柔らかいものが当たってるんですけど!! これが持つ者と持たざる者の違いなのか……。
そんなことを思いながら私たちはカフェへと向かった。
この後、めちゃくちゃ友達作りした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます