謎の刺客



吹き飛んだ跡はちゃんと爆心地と言った感じで、そこにトレイルの姿は無かった。


「……やった、のか?」


「いや、生きてるよ。上手いこと吹っ飛ばされるくらいの撃ち方をしたからな」


「……そうか」


ホッとした。

いくら襲ってきているとはいえ、相手は守るべき人だ。……良かった。



「……フッ。嬉しそうだな」


「あ、すまん。助けてもらったのに」


「気にすんな。わかってるよ」



その後、俺は足を引きづりつつ、グランデに肩を貸してもらいながら、帰った。


戻った後は、すぐに治療を受けさせられた。


病室に寝かされ、今日一日安静にしているように言われた。その後、三味さんとグランデがお見舞いに来てくれた。


「……まさか、休日を与えたその日に怪我をして帰ってくるとは思いませんでしたよ。首輪でも付けた方が良いですか?」


「いや、不可抗力ですよ……。あんなの、誰にも予測できませんって」


「確かにそうですね。普通なら、予測するのは不可能でしょう」


「……普通なら?」



「ま、お前はまだ修行が足りてないってこった」


グランデが口を挟んできた。


「異能のエネルギーを、本格的に扱うようになると、なんとなく流れが見えてくるんだ」


「……その通り。だから、貴方もいずれはエネルギーの流れが読めるようになり、今日のような事も回避できるようになってきます」


「……マジすか」


「まぁ、異能者ってのはすなわち、「異常な能力を持った奴ら」の事だ。人間離れしてんのが普通って所だ」



……それは確かにそうなんだろう。

実際、俺が遭遇してきた異能者達は、皆人間離れした身体能力をしていたし。


かく言う俺もその1人なわけだし……。




「……ま、今日は安静にして、明日からまた修行を続けようぜ」


「ゆっくり休んでくださいね」


「……ありがとうございます」





───────────────────────



皆が寝静まる宵の頃。

俺は、不意に目が覚めた。


トイレに行きたくなったのだ。


「……夜って妙にトイレに行きたくなる時あんだよなー」


そんな風にボヤきながらベッドから降りて、足をちょっと引きづりつつ移動する。


しかし、足がある程度回復し始めている。もうあと数十分くらいで回復しそうな速度だ。


「……あの医者も異能者か。名前、今度聞いておこう」



ゆっくりトイレまで移動して、用を済ませて手を洗う。


一連の流れをこなしている時に、俺は不意にトイレの窓の方を見た。



すると、そこからは闘技場のような場所が見えた。



そしてそこで、エオリカが風の力を振るって1人修行しているのが見えた。


「……うぉぉ……」



無言で、風の異能をあらゆる手で使いこなすエオリカ。全身から漂わせる強者のオーラが、ひしひしと伝わってくる。


というか、気迫が大きすぎるのか、なんだかオーラが可視化されて、見えているように思えた。


素晴らしく、猛々しく、恐ろしい男だ。


「……アレくらいを目指さないとな」


そう、俺もあれくらいは強くならなければならない。男として、リーダーとして。



「……しっかし本当にすごいな……」


猛々しいその身体からは考えられないほどしなやかな動きをする。風という性質のエネルギーを扱うには、流れに乗る動きが必要なのだろうが……


あの動きは凄すぎる。風の流れそのもののように思える。流れを遮らない美しい動きをしているのだ。



暫く見入っていると、エオリカの前方からエオリカに近づく黒い影に気づいた。


「……誰だ? グランデか?」




近づいてきたのは、黒髪の、赤いマントを着た軍服姿の青年だった。


「……やぁ、エオリカ。元気そうで何よりです」


「……お前は……」


エオリカが気付き、攻撃態勢に入る。


「……おや。今日は貴方に用事があるわけではないのですが?」


「黙れ。貴様が来たのは、どうせガンドを狙ってのことだろう」


「……まぁ、そうですが。今日は、そういうわけでもありません」


「……なんだと?」





「ガンドさん、聞いていますね? 私はフォリと言います。以後お見知り置きを」


「……ちっ。流石に気付いたか」


気付かれた?

ってか、エオリカも気付いてたのか。まぁ、わかるって言ってたもんな……。



「……とある事情により、僕は貴方と決着をつけねばなりません。ただし……今のままではアンフェアです」


「なので、こうします。1週間後の夜、修行を積んでまたここに来なさい。……その時、勝負しましょう」



……………………1週間。

1週間後に勝負……すなわち決闘か。


「……貴方の性格なら、逃げるわけはありませんよね。よろしくお願いしますよ」


「では、私はこれで」




「待てっ、逃すか!」


エオリカが風のエネルギーで攻撃しようとした時には、すでにフォリはいなくなっていた。

俺はその場に飛び出して、エオリカの近くに駆け寄った。


「どこ行った?」


「奴は足が速い。すでに逃げ切った頃だろう。追っても無駄だ」


「……一体なんなんだ? 奴は」



「……奴は、"破砕"の幹部だ」


「……!?」




───────────────────────



「トレイル、大丈夫?」


五十の辻、神剣城組の屋敷にて。


「大丈夫です。お相手が、手加減してくれたようで」


「流石に正面突破は無理だったわね……」


「そうですね。しかし瞳さん、貴女まだここにいたのですね……。おかげで助かりましたが、一体何を?」


「……ちょっとね」


「……"破砕"周りの調査ですか?」


「!? ……どうして??」


「少し調べたんですよ。破砕関連で、我々のメンバーに他に因縁のある者はいないか」







「……貴女、"破砕"の幹部に、知り合いがいるでしょう……?」


「……!!」

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