あゝ神よ


ガンドが、エイドを倒した。

……しかし倒されたはずのエイドと交戦していたギークと火魔刃は、どうなったのだろうか。


その話は少し前に遡る……。


───────────────────────




「……はぁ……クソッ……」


「……このままやと埒があかんなぁ……」



ギークと火魔刃は不死身に近いエイド相手に苦戦を強いられ、既にダメージが蓄積し、ボロボロだった。


しかしエイドも流石に疲労の色が見えてきており、少しずつ効果的なダメージも与えられるようになってきていた。


「……異能の身体強化でここまで食いついてくるやつなんて久しぶりだよ……。中々だねぇ、君たち」


「……ああ、そうかよ」


何度も、同じように殴り合う。"赤眼族"の力により反射神経が異常に発達したエイドに、ギークと火魔刃は何とか喰らい付いている。


……しかしどうやらそれもここまでのようだ。



「……おい、ギーク。さっきからエイドの野郎が2人おるように見えるんやが、俺の気のせいか?」


「……ケッ。奇遇だな火魔刃。俺にも見えるぜ。……2人どころか、複数人いやがる」




なんと、エイドが1人、また1人と現れ始めたのだ。ニヤニヤしながら近づいてくるエイドの数は……7人。


「おいおい……流石に冗談キツいな……」


「だが……やるしか無いんじゃねえか?」




「いや、もう終わりだよ? 僕がこれだけ集まれば……君たちに勝ち目は無い!!」


『さぁ、これで終わりだ!!』



7人のエイドは、同時に異能のエネルギーの球をギーク達に向けて放ってきた。


四方八方から放たれたその球を、当然避けれるはずも無くギーク達はそれに被弾──────────




────────────するはずだった。



「……あ?」


「……い、生きとるな……」



『……な……お前は……!!』



四方八方から放たれた球を、全て両手で掻き消していた。その男。


美しい白髪が風に吹かれて舞っている。神々しいオーラを纏うその青年は……


『ディーテ・アルテナ!!』


「どうやら、良いタイミングだったようだね」



ディーテ・アルテナ。

闇王の配下の軍「ダークネイションズ」の一員であり……エイドに因縁を持つ者の1人だ。


「久しぶりだね、エイド君。どうやら随分と"増えた"ようだけど……一体何人の人を犠牲にして来たのかな」


『さぁね。それを答える義理は無いなぁ〜?』


「ああ。答えなくて良いよ。どうせ、今から全員解放するんだ」


『……はぁ?』





「"ゴッドノイズ"」



ディーテが光弾を放つ。するとそれを喰らったエイドの1人が宙を舞い、地面に叩きつけられたかと思うと、ガンドに倒された個体のエイドと同じように皮が剥がれる。中に入っていたのは黒髪の男性のようだ。



「……1人救出」



『……な、なんだと!?』



「……すげぇ……あの防御に全振りしたみてぇなエイドの装甲を、今の光弾1発で……!?」


「……ディーテ・アルテナ……やっぱ、大物やな。んで、あんたみたいなんが助けに来てくれたっちゅー事は……」


「察しがいいね。その通りだよ。君達のリーダーに頼まれたんだ。彼の頼みなら断れないからね」


「「!!」」


「彼もここに来ている。もっとも彼は、まずあちらの方……瞳君と陽奈君の方に向かったんじゃないかな」


「!? ……陽奈が、ここにいるのか!?」


「ああ」




「……さて。そちらは彼に任せて、僕達はコイツらを片付けよう。立てるな?」


「……もちろんだ」


「……俄然、やる気が出てきたで!!」




───────────────────────



さて。

そんなこんなで、ディーテ・アルテナが加勢したのでギーク達はどうにか助かったわけであるが……。


エイドが"増える"という事実が新たに発覚した。

つまりこれは、ガンド達も安心してはいられないということになる。


そして案の定……



「……な……なんだと……」



ガンド達の前に、無数のエイドが現れたのだ。

それも、ギーク達の時よりも、遥かに数が多い。


『ごめんねぇ〜? その個体はとても優秀だから、返すわけにはいかないんだぁ』


「……貴様ら……エイド……なのか!?」


「アンブラ……。3人を連れて逃げてくれ。ここは俺が食い止める」


「なっ、何を馬鹿な事を! 先程倒せたとはいえ、アレはエイドだぞ! 1人1人がさっきの奴と同じ実力を持っているんだぞ!!」


「わかってる。……それでもやらなくちゃならねえんだ」


既にガンドの髪は、先程と同じく緑色に変色している。覚悟は決まっているようだ。


「……駄目だよ、ガンド」


瞳が静かに口を開いた。


「駄目だよ。逃げなきゃ。大丈夫だよ、きっと他のギルドとかの人がなんとかしてくれるだろうしさ、逃げようよ」


「……いや、お前達だけで逃げろ」


「……嫌だ」


「……賛成じゃ。少なくともお主を置いていくわけにはいかん」


「良いから行けっ!! 命が惜しく無いのか!!!」




『お話ししてる場合かなぁ?』



エイド達が一斉に、ガンドに向けて手を翳す。異能のエネルギーがそこに込められて、黒く禍々しいエネルギーの球が生成される。


「……早く逃げろ」


ガンドが緑色のオーラを帯びる。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


ガンドは両手を前にして、在らん限りの力を込める。異能のエネルギー。風のエネルギーが大きな光弾を形成していく。色は鮮やかな薄緑。


「今俺が出せる全力の力を込める……」


「"風・翔・波"!!!」


光弾は大きな気の波動となって、エイド達に向けて放たれる。エイド達は一斉に禍々しい球を放ち、2つのエネルギーがぶつかり合う。


猛々しい薄緑の波動と禍々しい無数の黒い球のぶつかり合いはとてつもない衝撃波を生む。


「んぎぎぎぎぎぎぎ……」


しかし。

ガンドのエネルギー波は、徐々に黒い球に押され始めている。無数の球のエネルギー1つ1つがエイドが放った物なのだから、当然といえば当然だ。


「ぎぎぎぎぎぎ……!!」


押し返そうともがいたガンドだったが、あっという間に押され、エネルギー波は消えてしまった。


ガンドは冷静に、エネルギーで膜を張り、黒い球から自分と仲間達を守る。


「……クソッ……そんなにもたねえぞ。早く逃げろ!」


「……仕方ないな。逃げるぞ!」


「……ちっ。死んだら承知せんからな、ガンドよ」


逃げるため、アンブラとフェターリアが振り返ったそのタイミングで、瞳はあることに気づいた。


ガンドの身体の節々に、謎の切り傷が付いている。

しかも、それに気付いてすぐ、1つ切り傷が増えたのだ。


そこで瞳は、それが衝撃波による物だと気付いた。

ガンドは膜で防御してはいるが、エネルギーのぶつかり合いによる衝撃波で、ダメージを受け続けているのだ。


瞳はそこで我慢の限界が来たようだ。



「どうしてそこまでするの!?」


声を張って、そう叫んだ。

驚いたアンブラとフェターリアが振り返り、切り傷を視認した。


「おい、ガンド貴様……」


「お主、その傷はっ……!?」



「2人はわかるよ。親友と仲間なんでしょ。でも私は違う!! 陽奈だって! あなたにとってはただの他人じゃない!! どうしてそこまで身体を張れるの!?」


「同情なの!? 私達が可哀想だとかそういう理由!? それとも"五十の辻"に恩を売ろうって言うわけ!!? そんな事のためにそこまで身体を張るの!!? どうして!!?」





「……あーもう、面倒くせぇなこのヤロウ!!」


「同情だとかなんだとか!! んなわけねぇだろ! あのなぁ!! まずもって、人助けには理由なんてもんはいらねえんだ!!」 


「……だとしても身体を張る必要は……!」


「ああ。それだけじゃ身体を張る意味はない。けんどな。人には時たま、理由がなくても身体を張りたくなる時があるんだ」




「それはな……」


「……守りたいと思った時だ」



「はぁ……!?」


「何の理由も無く……いや、もしかしたらわかってねえだけで心のどっかにはあんのかもしれないが……とにかく、がむしゃらに、どうあっても守りたいってなる時があるんだよ」


「俺はこの街に来るまでにも、色んな人に助かってもらった。そういう人らの中にだって、同じような感情を持って動いた人もいただろう」


「……人間なんてそんなもんさ。どんなに取り繕っても、結局……助け合って生きてんだからな」






「……わかんない……」


「……わかんないよ……!!」




「わかんなくて良いんだよ」


「わかんなくても良いから、そこにいろ!!」


「……え?」


「……もう持たない……!!」



膜が、消えた。

アンブラが咄嗟に陽奈の前に立つ。

ガンドはフェターリアを手を引き、抱き抱えながら、瞳に覆い被さるように倒れ、目を瞑る。



「……瞳……!! ……フェターリア……!!」





白い光が辺りを包む。



ガンドは……もう駄目かもしれないと思いつつ、目を恐る恐る開けた。


そして、瞳とフェターリアが生きている事に気付く。目を閉じて、小刻みに震えている瞳と、呆然としたフェターリアを視認して、ガンドはハッと顔を上げた。


アンブラも無事だ。陽奈も無事らしい。何が起きたのか、アンブラは驚愕して目を見開いている。



ガンドはゆっくり立ち上がり、振り向いた。

そして、それを見た。




黒い球を1つ1つ巧みに弾き続ける男。

黒髪の、ウルフカットの男だ。異様にサラサラしている。真っ黒のジャケットにウルフカットがよく似合っていて、後ろ姿からでもオーラを感じる。



「……あ、あなたは……一体……?」


「……よう。新米にしちゃ、よく頑張ったな。後は任せて……休んでな」


「……瞳と陽奈の事、ありがとな」



「……その声、郡さん!?」


瞳が飛び起きた。


「知ってる……のか?」






「……知ってるも何も、あの人が"五十の辻"リーダーよ。……徳川郡司。……"神"と呼ばれる男」

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