2つの流星 その①


グランデベント帝国は、現在からおよそ60年前、現代の皇帝が現れるまで、戦争国家だった。



数多の国と戦争し、物を奪い、人を奪い。そうやって国を潤す悪質極まりない国家であった。


そんな国を変えたのが、現代の皇帝だった。

グランデベント第33代の皇帝である彼は、グランデベントの軍部を解体し……ギルドを取り込み、法律を整備し、帝国という国そのものを変えていった。


その結果、帝国は今の姿へ変化していった。

……でも、そんな帝国にはまだ、影が残っていたの。



それが、帝国最強のギルドにして、悪意の巣窟と言われる……"破砕"だったの。




"破砕"は、33代皇帝の長男、皇太子「スカムバグ・グランデベント」によって創設されたギルド。


彼の持って生まれた才能と求心力で、"破砕"は創設後みるみる内に成長し、他の国のギルドを圧倒するほどの戦力を得た。


……それだけの力を得て、帝国の看板ギルドとなった破砕は、他国間の戦争に介入し、講和を進めたり、侵略されている国家に援軍を向かわせたり、英雄のような振る舞いをするようになっていった。



……ただ、それは罠だった。

奴らは、別の目的のために、戦争に参加していたの。



……それに皆が気付いたのは、あの"事件"が起きた時だった……。


──────────────────────



3年前。

ユーグレドキ連邦国付近"とある戦場"にて。



私たち"五十の辻"は、エルファニア王国の"闇王"エビル・ウチェッロの軍"ダークネイションズ"と共に、ユーグレドキ連邦国付近の内紛の鎮圧に駆り出されていた。


その頃、私は入団後1年でまだまだ新人というような立ち位置だった。とは言っても昔から実力は折り紙つきで、ギルドの中ではかなりの実力派だった。


私はこの戦場で、ダークネイションズの、実力的に化け物みたいな連中の中に紛れ込んで雑魚と呼んでも差し支えない敵兵士を狩っていた。



そんな時、そいつらの中に紛れ込んでいたのが"エイド"だった。



その頃のヤツは大した実力がないくせにタフで、ダークネイションズの者達でも手を焼いていた。


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「"ゴッドノイズ"!!」



怒号が響き、悪辣なノイズ音と共に放たれた白い光弾がエイドに命中する。


その技を放ったのはディーテ・アルテア。ダークネイションズの1人で、「堕ちた天使」と呼ばれている男だ。淡麗な容姿で白髪で、まるで天使のように見えるからだ。



エイドが立ち上がるのを見ると、ディーテは舌を鳴らす。


「まだ立ち上がってくるか……!」



ディーテが再び光弾を放ち応戦するその様を、私は遠目から見守っていた。



「……あの化け物みたいなダークネイションズでも最強筆頭のディーテさんの攻撃を受けて、耐えているなんて……」



「応戦しても、私じゃあまり力になれそうにもないけど……戦闘でうちの人員は皆疲弊してるし、一旦引いて様子を見た方が良いかもね……」




「その必要はないぜ、先輩」


一旦引こうと考えていた私の頭に、声が響いた。勝ち気な口調からはまるで想像もつかないその可憐な声の主は、この時私の後輩として入ってきた……白黒の魔女服を着た女の子。


彼女の名前は"霧ヶ峰陽奈"。


「アイツはタフなだけで、大した実力は無い。その証拠にアイツ、さっきから全く反撃しないだろ?」


「……確かに、そうだけど……」


「なら話は簡単だ! 僕と先輩とで奴を拘束すれば良いんだ! 先輩のお札と私の魔法なら余裕だぜ!」


「……まぁ、やってみる価値はありそうね。良いわよ、乗ってあげましょう」


「よっし!! そうと決まれば早速突撃だー!」


「あっ、こら!!」


走っていく陽奈の後を追って私は飛び出した。

陽奈の言う通り、その頃大した実力の無かったエイドは、拘束するのは簡単だった。



「"ミストパージ"!」


陽奈が技を撃ったと同時に、私はお札を3枚懐から取り出し、投げる。それは三角形を作り、エネルギーを溜めていく。


陽奈の撃った技は霧を放出する物で、その霧は丁度エイドを取り囲むように動いていた。


ただ、マジックミラーのようになっていて、こちら側からはエイドの姿がよく見えるようになっていた。


それゆえに……


「"シラミネ邪封印"!!」


エイドを拘束するのは簡単だった。


お札と魔法による連携で拘束したエイドを、そのままディーテが連行し、この内紛は終わりを告げた。





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「助かったよ。ありがとね」


「あはは! 正直魔法を出せるかは賭けだったけどね!」


「……は?」


「あの魔法、この前開発したばっかりで……」


「ちょ、ちょっと! そんな危ない賭けしないでよ!」


「まあまあ、成功したんだから良いじゃん〜」



「ちょっと、2人とも」


こんな話をしながら、帰路につこうとする私達を、ディーテさんが呼び止めてきた。


「はい?」


「どうしたんです?」


「……いや、ちょっと。あの男の様子が変なんだ」


「……え?」



そう言われて、エイドを見てみると。


……そこにいたのは半分がエイド、半分が知らない金髪の女の人、というように分かれた、まさしく化け物のような生物。


……私は、声を上げる事すら忘れ、ただ呆然と見ていた……。

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