第4話 ドワーフ工房で超改造! 物理が効かなきゃ地面ごと殴れ!

「工房まではもうちっとじゃ。気を抜くんじゃないぞ、マッスル坊主!」


ドワーフのガンテツさんは、短い足でひょこひょこと森の獣道を進んでいく。


その後ろを、俺はアルティメット棍棒を軽々と担いでついていく。


だいぶ遅れて、息を切らしたゲオルグさんが必死に追いかけてきているのが気配で分かる。


頑張れ、ゲオルグさん。


「で、厄介な奴らってのは、どんなのが出るんだ?」


俺が尋ねると、ガンテツさんはニヤリと笑った。


「まあ、見てのお楽しみじゃ。お前さんのその『力任せ』と馬鹿デカい棍棒が、どこまで通用するか、見ものじゃのう」


なんだか試されているような言い方だ。


望むところだぜ!


と、意気込んだ矢先。


前方の空間が、ゆらりと陽炎のように歪んだ。


そして、半透明の人型の影が、すぅっと何体も現れた。


「うおっ!?なんだあれ!?」


実体がない!?幽霊か!?


「ほうら、出たぞ。アンデッドの一種、『レイス』じゃ。物理攻撃はほとんど効かんぞ?」


ガンテツさんが面白そうに言う。


物理が効かない?


まさか!そんなアンフェアなことがあるか!


格ゲーならクソキャラ認定だぞ!


レイスたちは、甲高い叫び声と共に、冷気を纏ってこちらに襲いかかってきた。


ゲオルグさんが追いつき、聖印を切りながら叫ぶ!


「マッスル様!危険です!それは物理攻撃が……!」


うるさい!物理が効かないなら、効くようにすればいいんだろ!


「どりゃああああああ!!」


俺はアルティメット棍棒を、レイスたちがいる空間ごと、地面に向かって全力で叩きつけた!


ズドゴオオオオオオン!!!


凄まじい轟音と共に、地面が陥没!


土砂と衝撃波が、レイスたちを巻き込んで吹き荒れる!


「キシャアアアアア!?」


物理攻撃は効かなくても、地面に叩きつけられた衝撃や、吹き飛ばされた岩石は別らしい。


レイスたちは、なすすべもなく衝撃に飲み込まれ、霧散していった。


「……」

「……」


ガンテツさんとゲオルグさんが、唖然として俺と、巨大なクレーターと化した地面を見ている。


「な?物理が効かないなら、地面ごと殴ればいいんだよ」


俺がドヤ顔で言うと、ガンテツさんは腹を抱えて笑い出した。


「ぶっはっはっは!なるほどのう!物理が効かぬなら、存在している空間ごと叩き潰すか!お前さん、最高じゃ!」


ゲオルグさんは、頭を抱えてうずくまっている。


「もう…私の知っている物理法則が…常識が……ああ……」


彼の精神が心配だ。


その後も、工房への道中では、素早い動きで飛び回る怪鳥『ハーピィ』の群れや、硬い岩石の体を持つ『ロックゴーレム』などが現れたが、


ハーピィは、棍棒で起こした衝撃波でまとめて叩き落とし、


ロックゴーレムは、アルティメット棍棒の一撃で文字通り粉々に粉砕してやった。


結局、どんな相手だろうと、俺のパワーの前には敵ではなかったのだ。


「ふぅ、着いたぞ。ここがワシの工房じゃ」


ガンテツさんが指差した先には、岩山をくり抜いて作られたような、頑丈そうな扉があった。


扉を開けると、中は意外と広く、壁には様々なトンカチやヤスリ、設計図らしきものが掛けられ、部屋の中央には巨大な炉と金床が鎮座している。


いかにもドワーフの工房、といった雰囲気だ。


「さて、マッスル坊主。その『アルティメット・なんとか』をこっちに寄越せ」


「おお!頼むぜ、ガンテツさん!」


俺はアルティメット棍棒をガンテツさんに渡す。


ガンテツさんは、自分より遥かに大きい棍棒を軽々と(ドワーフ基準で)受け取ると、矯めつ眇めつ眺め始めた。


「ふむ……やはり荒削りじゃな。じゃが、それが逆に良い味を出しておる。素材の良さを殺さんよう、手を加えるとするか」


ガンテツさんは炉に火を入れると、様々な道具を使い、アルティメット棍棒の改良作業に取り掛かった。


カン!カン!ゴウン!ゴウン!


工房内に、力強い槌音と、何かの機械が動くような音が響き渡る。


俺は、その作業を興味深く眺めていた。


ゲオルグさんは、隅の方でぐったりしている。


しばらくして、ガンテツさんが汗を拭いながら振り返った。


「よし、できたぞ!」


そこには、以前よりもさらに禍々しく、そして力強いオーラを放つ棍棒があった。


全体的な形状は変わらないが、グリップ部分には握りやすそうな革が巻かれ、打撃部分には何やら鋭いスパイクのようなものが取り付けられ、さらに表面にはルーン文字のようなものが刻まれている。


「名付けて、『アルティメット・パワー・イズ・ジャスティス・改』じゃ!試しに振ってみろ!」


「おおっ!サンキュー、ガンテツさん!」


俺は生まれ変わった相棒を受け取る。


ズシリ、と手に伝わる重みは以前と変わらないが、グリップのおかげで格段に握りやすい。


重心も調整されたのか、振り回した時の安定感が違う!


「こいつはすげぇ!力が、みなぎりまくるぜ!」


俺が工房の中で軽く(俺基準で)振り回すと、風圧だけで壁にかけてあった工具類がガシャガシャと落ちた。


「おっと、危ない危ない」


「坊主、試し振りは外でやれと言うたろうが!」


ガンテツさんに怒鳴られ、俺は改良された棍棒を担いで外に出た。


すると、タイミングが良いのか悪いのか。


「グルオオオオオオ!!」


工房の入り口付近に、巨大な影が現れた。


体長10メートルはあろうかという、全身が紫色の鱗に覆われた、巨大なトカゲのような魔物。


口からは、絶えず毒々しい色の息を吐いている。


「げっ!『ポイズンリザード』じゃねえか!こいつは厄介じゃぞ!毒のブレスも吐くし、鱗も硬い!」


ガンテツさんが叫ぶ。


よし、最高の試し相手だ!


「見てろよ、ガンテツさん!こいつで試させてもらうぜ!」


俺は「アルティメット・パワー・イズ・ジャスティス・改」を構える。


ポイズンリザードが、毒のブレスを吐きかけてきた!


「危ない!」ゲオルグさんの声。


だが、俺は回避などしない!


「うおおおおお!」


棍棒を高速回転させ、風圧でブレスを弾き飛ばす!


そして、そのままの勢いでポイズンリザードに突撃!


「食らえ!アルティメット・パワー・インパクトォォォ!!!」


改良された棍棒の打撃部分が、ポイズンリザードの硬い鱗に突き刺さる!


バキィィィィィン!!!


甲高い破壊音と共に、ポイズンリザードの巨体がくの字に折れ曲がり、はるか彼方へと吹っ飛んでいった。


森の向こうで、小さな爆発のような音が聞こえた気がした。


「……」

「……」

「……」


俺、ガンテツさん、ゲオルグさんの三人は、しばし呆然と、ポイズンリザードが消えた空を見つめていた。


「……やり、すぎたかのう……」


ガンテツさんが、ぽつりと呟いた。


俺は、棍棒についた紫色の鱗の破片を払いながら、満足げに頷いた。


「いや、完璧だ!威力も使いやすさも、格段に上がってる!さすがだな、ガンテツさん!」


「は、はは……まあ、ワシの手にかかればこんなもんじゃ……」


ガンテツさんは、少し引きつった笑みを浮かべている。


ゲオルグさんは、もはや何も言うまい、とばかりに天を仰いでいた。


「マッスル坊主、お前さんに一つ、面白い情報をやろう」


ガンテツさんが、気を取り直したように言った。


「この森のさらに奥、古代遺跡の近くには、『オリハルコンゴーレム』なるものが眠っているという伝説がある」


オリハルコン?なんか強そうな響きだ!


「そいつを倒せば、もしかしたら、そのふざけた棍棒をもっと強化できる素材が手に入るかもしれんぞ?」


「本当か!?よし、次はそいつだ!」


俺の新たな目標が決まった瞬間だった。


さらなるパワーを求めて!オリハルコンゴーレム、待ってろよ!


俺は、改良された「アルティメット・パワー・イズ・ジャスティス・改」を肩に担ぎ、古代遺跡とやらを目指して、再び森の奥へと歩き出すのだった。


もちろん、ゲオルグさんの「お待ちくださいぃぃぃ!」という叫び声をBGMにして。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る