2話「スイーツの洗礼!?実技試験で泡立つ友情!」

「はいはーい、静かにーっ!」


教室に突然響いたのは、耳に心地よいけど妙に響く、鈴のような声。


「なになに……今度は誰……?」


陽菜がひょこっと顔を上げた先にいたのは、キッチリした白衣姿の青年。

黒縁メガネに、端正な顔立ち。だけど、その目元にはなぜかほんのりクマ。


「初めまして。今日から君たちの実技指導を担当する、翔太先生です。よろしくね」


「…………え?」


陽菜は一瞬で硬直した。いや、というか凍った。


(兄が、先生!? ちょっと待って、聞いてないんですけど!?)


「お兄――じゃなかった! 先生!? えっ!? えええっ!?」


思わず変な声が漏れて、周囲の三人も「へ?」と陽菜を二度見。


「ん? 春野、なんか知り合いなの?」


「いやいやいやいや、そんな、まさか……っていうか、そこ聞かれちゃう!?」


陽菜がテンパって手をぶんぶん振る一方、翔太はというと……


「春野さん? なにか?」


――と、完全に他人のふり。

プロだ……兄なのにプロすぎる……!


「ってか、先生イケメンじゃね?」

「こ、これは料理番組に出てくる天才パティシエ枠……!」

「うちの兄がそんな枠で現れるとか聞いてないんだけど!!」

陽菜の心の中はすでにパンク寸前。


その騒がしさをよそに、翔太は黒板にチョークでさらさらと書く。


《初回実技試験:生クリーム泡立て・チーム戦》


「チーム戦て、ちょっと待って!? 初日から!?」


「はい。時間内にちょうどいい固さのホイップを完成させてもらいます。

チームで失敗したら、連帯責任で放課後まで洗い物してもらいます」


「うわ、ブラックすぎる!」

「いやでも、スイーツの世界って厳しいから……」

「納得しないでーっ!」


「ちなみにチーム分けは……この教室の座席順で。

春野、さつき、いつき、隼人の4人が第3班だな」


「うわっ、いきなりフルメンバー来た……!」


「はいはーい、気合い入れていくよ!」

と張り切るさつきが、泡立て器を手に取った瞬間――


ブンッ!(全力で回しすぎ)


ビシャッッ!!(生クリーム、陽菜の顔面直撃)


「……………え」


「おおおい、初っ端からやらかすんかーい!!」


「えっ、ご、ごめん陽菜! でも今のは事故であって、狙ってないからね!?

……いや、ちょっとだけ狙ってたかも!」


「どっちなの!?」

「この顔で接客とか絶対クレーム来るやつ!」


さつきが半泣きで謝り、隼人は後ろで笑いを堪え、いつきは無言でタオルを差し出した。


「……これ、毎日こんな感じなの?」


「たぶん、もっとすごくなると思いますよ」


いつきの冷静な一言に、陽菜は乾いた笑いを漏らすしかなかった。


けれど、その笑いの中にはほんの少し、確かな“楽しさ”が混じっていた。


(なんだろ……この感じ。ワチャワチャしてるのに、悪くない)


そうして泡立てが再開された。

生クリームは……またもや、さつきが強くかき混ぜすぎて分離しかけたけど。


「やっぱり私がやるー!!!」

「ちょっと陽菜! 落ち着いて! そんな顔で泡立てないでーっ!」


ノリとツッコミが飛び交うキッチン室。

その先で、陽菜の“何か”がゆっくりと動き始めていた。

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