聖人“君主“のリベンジ天下

@qoo_nyan

第1話 それぞれの転生

 西暦223年 白帝城はくていじょう 永安宮えいあんきゅう

 

 病床に伏していた蜀漢の皇帝 劉備玄徳りゅうび げんとくは、瞼が重くなるのを感じゆっくりと目を閉じた。


 あぁ、私は少しでも天下安寧のために生きられたのだろうか……。

 私の民たちは幸せだっただろうか……。

 忠義を尽くしてくれた皆に、あの世で会えるだろうか……。

 

 病に蝕まれ、あんなに重かった身体が、突然宙に浮くように軽くなった。

 

 死とは、こんな感覚なのだな……。


 そうしみじみと思っていた次の瞬間、瞼の裏の景色が真っ白な光に包まれた――――。



 

 響きわたる激しい怒号、苦しむようなうめき声、生々しい血の香り。


 ……ん……、随分騒がしいな……。あの世に着いたのだろうか……?

 

 劉備は長い眠りから叩き起こされたような感覚だった。

 身体がしっかりと地に触れる感触。吹き抜ける微かな風。どうやらどこかの地に横たわっているようだ。


 ゆっくりと上体を起こし、視界に眩しさを感じながら目を開く。


 するとそこにあったのは……。



 今まで幾度となく目にしてきたような、激しい戦場の光景だった…………!?


 「はて……?」



 

 

 西暦2023年 現代の日本


 キーンコーンカーンコーン



 今日も退屈な学校は終わったことだし、中華の乱世に身を投じることとしよう。

 秀一郎は心の中でそう呟き、慣れ親しんだ下校ルートを辿りながらお気に入りの小説を開き、いつものようにその世界へ没入していった。


 叛沢はんざわ 秀一郎しゅういちろう 15歳 高校1年生。

 友人たちと遊ぶ時間も削り、幼少期からあらゆる学問や知識を身につけてきた孤高の天才高校生(友人はいたことがない)である彼が、自身のバイブルとして愛して止まないのが 『三国志』 だった。

 中でも、貧しい身分からその人間性を武器に皇帝まで成り上がった劉備玄徳には、自分にないものを数多く持っていると感じており、強い尊敬と羨望の念を抱いていた。

 

 この日もいつものように、愛する三国志の世界に浸りながら、退屈な日々にさらされた心を潤していく、はずだった――。

 

 

 「あ…… 危ない!!!!」

 

 耳に突き刺さるような声とクラクションの音によって、秀一郎はこっちの世界へ引き戻された。

 

 「ふぇ?」


 強い衝撃を全身に感じた次の瞬間、目の前を空と雲がゆっくりと流れていくのが見えた。

 

 今日はこんなにいい天気だったんだ。

 

 翼が生えたのかと思うくらい身体は軽く、このままどこへでも飛んでいける気がした。

 しかしそんな思いも虚しく、秀一郎の身体は急降下し、目の前には硬いアスファルトが……!!


 ……ん?……あれ?……痛くない?

 

 そう思った瞬間、目の前が真っ白な光で包まれた――――。



 

 空気を割るような大勢の叫び声、苦しそうな嗚咽、うめき声。

 

 ……う……、なんだ……?僕はたしか……。

 

 振動する地面に両手をつき、ゆっくりと目を開きながらその場に立ち上がる。

 

 するとそこにあったのは……。



 ドラマや映画でしか見たことのないような、見るも無惨な戦場の光景だった…………!?



 「…………はぁ!?!?!?」

 

 秀一郎はここに至るまでの記憶、目の前の状況を瞬時に分析。だが何度考えても、浮かび上がるのは1つのワードだった。

 

 「異世界転生……?」


 そんな感じの物語はよく目にするが、あれはフィクションだろう…… 実際にこんなことが起きるなんて……。


 しかし、その場で悠長にしている時間はなさそうだった。視界の中で次々と人間が殺し合い、その矛先は今にもこちらへ向いてきそうだ。


 「考えるのは後だ……!」

 秀一郎はなるべく人目につかないよう、急いでその場から離れることとした。

 

 しばらく進んで行くと、秀一郎は微かな潮の匂いに気がついた。


 海か……!小舟があれば逃げられるかもしれないが、ある意味賭けかもしれない。なんだか大勢いるが、陸の方が無難か……?


 そう考えている時だった。秀一郎の目の前で、突然爆発が起きた。


 「ぬわっ……!?」

 

 「見慣れない顔つきに服装だねぇ。クレドポステリア軍の新手かな?」

 ニヤニヤした男が、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。その手には何やら赤い光が灯っている。


 なんだ……?化学兵器……?いや、異世界なら相場は魔法か……。

 

 「あ、あの……とりあえず、敵では……な、ないと、思います……。はは……。」

 

 「思う?」


 あー終わった…… 怖すぎてまともな言い訳が1つも浮かばない……!!


 「まあいい。とりあえず邪魔だ……、死んでおけ。」


 男は秀一郎へ大きな赤い光を放った。


 さようなら、異世界……。


 秀一郎が早くも第二の人生を諦め目を閉じた、その時だった。ものすごい勢いで飛び込んできた青年が、そのまま秀一郎の身体を抱き上げ光をかわしきる。


 「ふぇ……!?」

 

 「何だ?」

 男が目を細める。

 

 その青年は秀一郎をゆっくりと地に下ろし、静かに声をかけた。

 「間に合ってよかった。怪我はないか、童よ。」


 腰を抜かし尻餅をついた秀一郎は、驚き言葉も発せられずにいた。


 「おいそこのお前、どこの誰だ?」

 男は青年へ問いかける。


 「…… 身分上、本来あまり名乗りなどしないのだが、この世では問題なかろう。」


 そして青年は続けた。


「―― 中山靖王劉勝ちゅうざんせいおうりゅうしょうの末裔、性はりゅう、名はあざな玄徳げんとくと申す!――」



 「……………………。」


 

 「……………………。」


 

 「……………………ファッッッッ!?」

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