幼馴染が異世界にいった 残された私はどうすれば……

杉山

第1話 ほかにもスキルあるだろ

 加藤竜二かとうりゅうじは、青空のど真ん中に浮かんでいた――いや、正確には"浮かんでいた"というのは過去形である。

 今の彼は、地面に向かってノンブレーキで自由落下中なのだった。


「あのクソ女神! クソはクソだと最初から気づいてたが、異世界のスタートがいきなり空中ダイブってどういうことだよ!  雲をこんな至近距離で見るの、富士山以来だぞ!」


 そう叫んでみたが返事はない。風だけが彼の怒りの絶叫を引き裂いていく。

 あの女神、どうやら放り投げるだけ放り投げて、あとは放置プレイらしい。


 思えば最初から話は噛み合っていなかった。


 竜二は、元の世界で寿命を全うした……らしい。だが、死んだ日の記憶は煙に巻かれたように靄がかっている。詳細は謎のままだ。


 気がつけば、真っ白な背景に囲まれた異空間に立っていた。

 急な見慣れない景色の登場に驚いたのを憶えている。

 そこにいたのが、金髪ロングで羽衣姿、ザ・女神という見た目の女性。背景に溶け込んでて最初ちょっと見逃してしまった。

 便宜上、以後“女神”と呼ぶ。


「あなたは死にました」


 第一声がこれである。死んだばかりの人間にしては、あまりにもぶっきらぼうな挨拶だった。

 それが神としての態度なのかと半ば呆れる。

 だが女神はそんな竜二を置いてけぼりにする。


「ですが、あなたの生前の行いには目を見張るものがあります。ゆえに、別世界で第二の生を授けましょう」


「は?」


「別世界での、二度目の生を与えます」


「聞こえてるわ!!」


 唐突すぎて意味がわからない。

 どうやらこれは、噛めば噛むほど味がでるでお馴染みのスルメのように定番な、異世界イベントらしい。


 そもそも“目を見張るような行い”に心当たりなど一切ない。


「ちょっと待て。唐突に死んじまったから二度目の生は普通に嬉しい。それなら元の世界に戻してくれよ」


 女神は首を横に振った。


「それはできません」


 その一点張りである。もう何を聞いても無駄そうな雰囲気がビンビンと伝わってくる。


 だが、竜二にはどうしても確認したいことが一つだけあった。


「おい、


 ……だが、女神はそれにも答えなかった。

 代わりにギフトがどうとか、次の世界はこうだとか、壊れかけのラジオのように一方的に喋り続けるばかり。


 竜二はため息をついた。

 死に際に関わっている――気がする彼女の安否だけは確認したかったが、別の世界に転移する自分とはもう関わることもない。


「元気だといいな」


 感傷に浸るにはちょっと柄じゃない。だから、この程度の想いにとどめておくことにした。


「もういいから、さっさと次の世界に連れてけよ」


 女神の未だに続く独演会を遮ってそう言うと、空間に裂け目が出現した。女神は何も言わず、目線だけで“入れ”と促す。


 ここにいても結局は元の世界に帰れない。それならば入るしかないのだろう。

 竜二は行動第一主義。即ダイブした。


「それではリュージ、世界を救ってください」


 その台詞とともに裂け目が閉じた。


 ――おい待て、今さら爆弾発言かよ!?


 竜二が学んだ教訓、それは「神は存在しないのではなく、人間に興味がないだけである」だった。無視は当たり前、召喚した人の状況を明らかに把握してない。こんな思考になるのは当たり前のことだった。


 その後、竜二はぐにゃぐにゃした空間を通らされた。酔いそうだったので、目を細めて小走りで移動。

 不幸中の幸い、出口は意外と早く見つかった。


 そして、入るときと同じような裂け目から飛び出したが――空中。

 現在に至る。


 疑問は山積みだ。

 世界がそんなにピンチなら、なぜ神サマは自分で動かない?

 なぜ地上からじゃなくて空からのスタート?


 だが全部ひっくるめて、あの女神がクソであるという結論に無理やり着地した。


 まあ異世界転生とギフトってワード、興奮しないわけがない。

 一度死んだ身だ。人生の続編をもらえるなら、そりゃ使い倒すしかない。


 元の世界に未練もなし。

 できなかったことをやってやろう。

 文句は、詰んでから言えばいい。


 竜二は気持ちを切り替えた。不平不満だけでは飯は食えないことを、身をもって知っているのだ。


「でもさすがにこれは文句言うけどな!!」


 上空ダイブの恐怖は、さすがに洒落にならなかった。

 もともと高所恐怖症なので、これは本当に無理ゲー。


 なのに呼吸はできるし、寒くもない。重力はあるのに他の物理法則はどっか行ってる。それが逆に気持ちが悪かった

 十中八九、女神の言ってた“ギフト”の影響だろう。


 数分の絶叫アトラクションののち、ようやく地面がはっきり見えてきた。

 辺り一面、見渡す限りの緑。動物の姿もない。ただの草原……のはずだったが、一部を除いては。


「なんでピンポイントで、魔物みたいな奴のど真ん中に落ちるんだよ」


 空中スタートだけでも悪意感じてたのに、これはもう確信犯だ。

 途端にあの女神の笑顔が、害意の塊に思えてきて腹がたった。


 接触まであと60秒。竜二は腰にぶら下がっている剣に手を伸ばす。

 女神からギフトとは別にもらった、スタンダードな鉄剣だ。


 接触まであと10秒。剣はスルッと抜けた。使ったことはないけど、持ち方はゲームで学習済み。


 剣は力じゃない、センスだ。そして今回に限っては――ギフトとやらの初披露の場でもある。


 そして半分ほど聞き逃していた女神の話を無理に思い出す。

 確か――

「このギフト発動時にはこう叫ぶのです」


次元斬じげんぎり!!」


 魔物に剣が触れた瞬間、それは霧のように消滅した。

 まさかの即死チート。さすがクソ女神、無駄に盛ってくる。


 だが落下の勢いは止まらない。


 轟音を残して、竜二は地面に衝突。

 普通の人間なら、当然即死コースである。


 しかし彼には、もう一つのギフトがあった。


 衝突点には隕石級のクレーター。そこからひょっこりと、竜二の手が伸びる。


「大丈夫か」


 のんびりした声とともに、初老の男が手を取ってくれる。

 意外にもすんなりと這い上がる竜二。砂と草まみれだが、傷一つない。


 これもギフト――『自由に落下フォールイズフリー』のおかげ。

 外部からのダメージを完全シャットアウトする、いわば無敵の盾だ。


 こうして加藤竜二は、最強の矛と盾を同時に手に入れたのであった。


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