38. 愛しています……
再び俺達は、走り出す。白夜達の待つ洞窟に向かって下り道をいくつも下り、逆に上り道をいくつも駆け上がった。
すると、その先に……。
「副長! 彼らは……」
1人の隊士が、指を指した方角には、俺達と同じ腰に剣をさしており、西部劇のガンマンのような恰好をしている者達が立っていた。
蒼狼隊の隊士では、ないが……しかし、間違えなく俺達と同じ元冒険者のはずだ。おそらく、旧国王派の徴兵で、集まって来た元冒険者であろう。
隊士の1人が、彼らに手を振って声をかけた。
「おーい! 大丈夫かー!」
しかし、それに対して彼らは無反応。ただ立っているだけだったのだ。
――おかしい? どうして、何も返事がないんだ?
俺は、奴らをジーっと見つめた。しかし、どれだけ待っても何も反応がない彼らに俺は、気づいた。
「全員伏せろ――!」
その時、前に立っていた旧国王派の格好をした者達が、急に魔法陣から銃を取り出して、俺達へ銃口を向けると一斉に引き金を引いてきた。
「危ない――!」
その際、レミ姐さんの声が聞こえた気がし、俺はすぐさま顔を上げた。見ると、そこにはアルさんの体の上で血を流して倒れているレミ姐さんの姿が……。
「レミ姐さん……?」
銃声が止んだ事を確認してから俺が駆けつけると、彼女は既にアルさんの体の上で目を細めている。
「レミ姐さん! 何処を撃たれたんだ! しっかり! しっかりしろ! おい! お前ら! ボさッとしてねぇで! レミ姐さんの体を診てやってくれ!」
だが、そんな中で彼女の目は……細くなっていく一方だった。
「レミ……ア……?」
そんな彼女の下でアルさんが、レミ姐さんの名前を呼ぶと――。
「……危なかったぁ。もう少しで撃たれちゃう所だったんだよ? アルス……」
「レミア……。おい……目を開けてくれ。レミア……」
「ほんっとうにアナタは……いつもいつも……世話の焼ける人……なんだから……」
レミ姐さんの目が完全に閉じた――――。
「レミ……ア……?」
アルさんの声にも反応がなくなってしまった。更に彼女の体は、もうピクリとも動かない。
「姐……さん……?」
強い風が吹き抜ける。木々がざわめき、草が踊り狂う。眠る彼女の体を受け止めた状態で、アルさんは涙を流した……。
「レミアアァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァア!」
止まらないアルさんの涙。隊士達も……悲しそうにしていた。
「……なんで、だよ」
なんで……こんな事になっちまうんだ。どうして……レミ姐さんなんだ? あの人が、何をしたっていうんだ? ずっと隊のため……アルさんのため頑張ってきた人なのに……。どうして姐さんが、俺より先に……。
1人の隊士の呟きが、俺の耳にも届いた。
「……レミア総長、凄く嬉しそうだったのに……」
その時、俺の目に姐さんとアルさんが指にしている指輪が見えた。思い出した。……昨日のあの嬉しそうな顔。幸せそうな顔……。達成感に満ちた顔……。
これが、死亡フラグ……? ふざけんな……。こんな……こんな理不尽な事……あっていいわけが……ない!
立ち上がり、俺は前方に立っている奴らを睨みつける。すると、彼らはまだ生きている俺達を見て慌てふためいている様子だ。
「おい! せっかく、旧国王派を裏切ったってのに!」
「蒼狼隊程度ならすぐにでも倒せるって言ったのは、お前じゃねぇか!」
「はぁ!? 俺を責めるのかよ!」
そんな奴らの会話を聞いて俺は、ゆっくりと刀を抜いた。
「蒼狼隊全隊士に告ぐ。……直ちにレミ姐さんを運んで……アルさんを護衛しながら目的地を目指す事。異論は、認めん」
すると、アルさんが――
「クロ!」
「アルさん……すまねぇ。先に行っててくれ。俺は、ちょっと野暮用ができた。後ですぐに合流するから……アンタは、レミ姐さんの傍にいてやってくれ」
心配そうな瞳を浮かべるアルさんを横目に俺は、隊士達に言った。
「……いけぇ!」
すぐさま、彼らはレミ姐さんを持ち上げ始める。その後でアルさんを立たせてあげたりして、移動の準備をし始めると、それを待ってましたと言わんばかりに奴らは、銃を撃って来た。
だが――
「おっ、おい! なんだ……あの野郎!? 俺達の銃弾を刀で斬ってやがんぞ!」
目を丸くして驚く奴らは、何度も何度も撃って来るが、俺はその全てを刀で切り裂く。魔法もスキルも使わない。いや、こんな奴らに使うもんか。こんな奴らなんかに……。
「おい……アイツ、こっち来るぞ!」
「にっ、逃げろ!」
「逃げろぉぉぉぉぉ!」
奴らが、銃を置いて何処かへ逃げ去ろうとするのを俺は、後ろから全速力で追いかける。そして、一番とろい奴からまず最初に腹に刀を突きさして、殺した。
「ヒィッ!」
奴らの返り血が、俺のカウボーイの服にもつく。刀を引き抜いて、俺は震えたまま足腰が固まって動けない奴らを睨みつけながら帽子を被り直す。
「逃がさねぇよ……。お前らみてぇなクズ……逃がすわけねぇだろ!」
俺は、更に前から順番に奴らの腹を刀で抉り、掻っ捌く。その度に帽子についた血を落としながら1人1人地面に倒していった。
斬り終えた奴らは、血を流したまま倒れていたが、まだかろうじて呼吸はできていた。そんな奴らを見おろして、今度は1人1人喉元に刀を突き刺していく――。
「ヒィィィィ! ごめんなさい! ごめんなさい! こうするしかなかったんです! こうするしか……もう生きる道がなかったから……」
「あぁ……?」
最後に残ったソイツの姿が、あの豚騎士と重なった。俺は、心の底から溜息をついて、ソイツを睨みつける。
「お前、確か……蒼狼隊程度なら倒せるとか何かほざいてたよな?」
「ヒィィィ! ごめんなさい! ごめんなさい! ゆるしてぇぇぇぇ!」
「話になんねぇな。お前らみたいなやつらを見ていると……本当に……イライラが収まらねぇ! 信念も理想も……何も持ってねぇくせに……」
その後、俺は奴の喉を掻っ切り、もがき苦しみながら息絶える様を見た。だが、敵討ちを終えた俺の心は、晴れやかとは言えなかった。返り血まみれになった刀を拭いて、俺は再び歩き出した。
――早く……帰ろう。
と、一歩を踏み出したその時だった――。
「勇者クロウ! 覚悟ッ!」
背後から聞き覚えのある声がする。振り返ると、そこには――。
「お前は!?」
ポンドフィールドで戦った軍服の男が、俺の背後から迫って来ていた! 奴が、機械仕掛けの掌からレーザーを撃ってきたのを俺は、かわそうとしたのだが――
「くっ! しまった……!」
自分の右肩に食らってしまい、そのまま地面の上を横転して、奴から十分な距離を取ると、すぐさま俺達は、互いの武器を向けて睨み合う。
「テメェ……よりにもよって今来たのかよ? この義手野郎……」
対して、奴は余裕そうな笑みを浮かべて言った。
「ふっ、カリギュラから聞いていたぞ。いつでも相手になるとな……。貴様如きに生意気な事を言われたお返しだ。相手をしてやる」
「ふざけんな……。これから逃げなきゃならねぇ時に……。この義手野郎」
すると、軍服の男は義手にエネルギーらしき光を込めながら告げた。
「義手野郎ではない。俺は、アマデウス。新政府軍の将軍だ。感謝しろ。勇者クロウ……いや、元勇者クロウと言った所か? 将軍であるこの俺が、直々に貴様を血祭に上げてやるのだ。逃がすと思うなよ」
その時、アマデウスの顔を見た時、俺は察した。そして、肩の痛みをグッと堪えながらもう一度、刀を握り直して俺は、告げた。
「誰が逃げるかよ……。お前を倒して……先へ進む! 邪魔するってんなら……誰だって斬る!」
そうして、俺達は互いに決闘を始めた――。
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