9. ポンド・フィールド事件②
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「初仕事かぁ……」
月下、夜風吹き抜ける中、蒼狼隊本部の前では大勢の者達が列を組んで並んでいる。彼らは、カウボーイやカウガールの格好をし、腰には剣や魔法の杖を装備したならず者達であり、彼らの胸には国王の正式な認可をもらっている証たる保安官バッジがつけられていた。
彼らの前には、俺とアルさん、レミ姐さんの3人が立っており、俺達は彼らを見渡しながら来るべき時を待っていた――。
今回の作戦は、騎士団と協力して、機械派の奴らを迎え撃つ。そのようにアルさんは、言っていたが……。
「遅いな……。もうとっくに待ち合わせの時間を過ぎてるぜ? アルさん……」
「うむ。どうしたものか……」
騎士団の連中は、一向に来る気配がなかった。既に30分は待っているものの……暗闇から彼らが姿を現す様子はなく、俺達は結局そのまま1時間以上の時を外で立ったまま過ごした。
いつの間にか時刻は、真夜中となって建物の灯りや人の気配もなくなってきていた……。徐々に隊士達の中にあくびをする者や立疲れを感じて片足を上げたりする者も現れた。
「おせぇな……」
休めの姿勢で仁王立ちしていた俺は、ふと目を開けて空を見上げると既に月は、落ち始めていた。夜風も寒さを増してきて、隊士達の疲れもピークになってきていた。
――どうする? この状況を切り抜けるには……。
俺は、ちらっとアルさんの方を見つめた。彼も騎士隊が来ない事に慌てた様子で、あちこちをキョロキョロしていた。そんなアルさんの隣では、レミ姐さんも下を向いて考え込んでいるみたいだった。
――こういう時は……こういう時、副長である俺が、しっかりしねぇと……!?
だが、そうは思っていても自分自身、隊士達にどんな風に声をかけて良いのか分からなかった。
「お前ら……」
すると、俺が口を開き始めた次の瞬間――
「蒼狼隊隊士達よ! 聞けぇぇ! 先程、国王直属の騎士隊は、急用により出動が困難になったと連絡をいただいた! よって……俺達は、これから単独で「ポンド・フィールド」に向かう!」
隊士達が、ダリウスさんの方を見つめる。彼は、大勢の隊士達がいる目の前でそう宣言し、俺達を驚かせた――。
「ダリウスさん……!?」
「師匠、これはどういう……!?」
混乱する隊士達の目の前で俺とアルさんが、ダリウスさんに尋ねると彼は、落ち着いた態度で告げた。
「……聞いての通りだ。騎士隊は、もう来ない。となれば、俺達の手でやるしかなるまい」
「しかし! これは、騎士隊との連携! 国王陛下からの命令です! 師匠! 我々の独断で動いて良いものではありません! 騎士隊は、きっと来てくれます! 今行っても、たかだか15人程度の我々では、機械派の者達を鎮圧する事など――」
すると、その途端にダリウスさんの目つきが変わった――!
「この……馬鹿弟子がッ! まだ分からんか! 俺達は、騎士隊に見限られたのだッ! 王都での俺達の評判を貴様も知っておろう! あれだけの誹謗中傷を受けて……お前は、まだ分からんというのか! それで、この隊の局長が務まると思っているのかァ!」
アルさんは、下を向いてしまった……。そんな彼に俺も同情した。
――流石に言い過ぎだぜ! ダリウスさん! この隊の局長は、アンタが何と言おうとアルさんなんだ! アルさんが待つというのなら俺達は、待つだけだ!
そう言いたかった……。けど――。
「騎士隊が来ない今、俺達だけで機械派を鎮圧するしかない。そうして、手柄を得て……国王にもより認められて……王都での評判を回復し、知名度を上げる……! そうしなければ、俺達は一生このままだ! 人数が足らない? 独断で動かない方がいい? 知った事か! 今、動くんだ! 今、やらなければ……俺達は、このまま一生……便所水をすすり続ける屈辱を受け続ける!」
今回ばかりは、ダリウスさんの言い分が正しい。俺にも、そうはっきりと理解できた。俺の傍では、総長のレミ姐さんも首を縦に振って賛同している様子……。
「確かに一理ある。……ここは、ダリウスさんの言う通り、私達だけで動きましょう。ね? アルス?」
レミ姐さんが、アルさんに優しくそう告げるとアルさんも落ち込みながらも小さな声で返事を返した。
それを聞いて俺は、早速隊士達に告げる――。
「よしっ! それじゃあ、出陣の準備だ! お前らァ! 気合入れろよ!」
「おぉ!」
「はいはい……。暑苦しいですよ。クロウさん?」
元気よく返事を返してくれる看護長のエリカ。そして、うざったそうでありながらも少し楽しみそうにしている一番隊組長の白夜。残りの隊士達も気合十分な返事をくれた。
それを聞いて俺は、レミ姐さんの方を振り返る――。
「……作戦は、さっき姐さんが説明してくれた通り、挟み撃ちで行く。……問題ないよな?」
「えぇ。私もそれで行くつもりだったの。……アルスの事、頼んだわよ? 元勇者さん」
姐さんが、小声で俺にそう言った。俺は、親指を立てて、彼女にだけ聞こえる程度の声で言った。
「……あぁ、任せろ!」
俺は、再び隊士達を見渡す。もうとっくに準備も万全。その表情も真剣そのものとなっていた。
――よしっ! それじゃあ……。
「これより……ポンド・フィールドへ向かう! 一番隊は、アルさんと一緒に裏口へ! 二番隊……ダリウスさんの部隊は、俺と来いッ! 作戦開始だァ!」
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