第5話 宣告
ある朝
「うーっ!うーっ!」
そんな父のうなり声で、アユムは目を覚ました。
(なんだ?)
とアユムは寝床から出た。そして、父の書斎兼、寝室に行った。
そこには、布団に寝そべって苦しそうにしている父と、父を気づかう母がいた。
母はアユムに気が付くと
「アユム。私とお父さんは病院に行く。アユムはいつも通り学校に行きなさい」
と、厳しい表情をアユムに見せた。アユムは
「僕も病院に行くよ!」
と叫んだが、母は
「いいえ、アユムは学校に行きなさい。大丈夫だから」
と、アユムを制した。
しばらくして、タクシーが来た。父と母はそれに乗り込んだ。不安のせいか、アユムはみぞおちに違和感があったが、黙ってタクシーを見送り、学校へ行く準備をした。
アユムは学校に行っても、父のことばかり考えていて、授業を受けても上の空だった。
学校が終わると、アユムは一目散で家に帰った。
家では母だけがアユムを待っていた。
「アユム、これから県立病院に行きましょう。お医者さんから大事な話があるそうだから」
そして、母とアユムはタクシーに乗って、県立病院ヘ向かった。
タクシーに乗っている間、母もアユムも何も会話をしなかった。アユムは不自然な沈黙で不安が増大したが、それでも何も言えなかった。
県立病院に着くと、母とアユムは消化器内科に行った。母がナースステーションにいる看護師に問い合わせると、看護師さんは、事務室のような部屋に母とアユムを案内した。
しばらくして、病院の寝間着を着た父が来た。そして、お医者さんと看護師さんが2人で部屋に入って来た。
アユム達家族3人と、お医者さんと看護師さんはテーブルを挟んで向かい合って座った。
お医者さんは、まるでテレビドラマに出てくる俳優のように、おごそかに話した。
「お父さんの命はあと3ヶ月です」
お医者さんはまずそう言ってから、父と母とアユムを順番に見て、また話を続けた。
「膵臓に大きなガンがあります。また、膵臓の周りにある血管にガンが浸潤してます。手術出来ません。あと、これだけガンが広がっていると、副作用が強い抗ガン剤を使うよりも、鎮痛剤のみを使う緩和ケアをお勧めします」
なぜか、父は意外と冷静にみえた。
母は大泣きを始めた。看護師さんがティッシュの箱を母に差し出した。
小学生のアユムは事態をよく理解できなかった。
お医者さんは真剣な表情を崩さず
「県立病院は明日退院して、緩和ケアを専門にやっているC病院に移ってください」
お医者さんと父の間で2~3やりとりがあったが、アユムは2人の言っていることがよく分からなかった。
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