第十四話
【最後の約束】
「友達も、家族も、未来も失った俺に、これからどうやって歩いていけるというのか?」
ニュース映像では、あの爆発の後の煙と瓦礫が繰り返し流れていた。画面の隅から流れるアナウンサーの声は依然として平静で、まるでこれはただの天気災害の報道であるかのようだった。
『初歩的な調査によると、今回の空爆事件は、ある国の空軍が物資輸送中に誤差を起こし、ミサイルが航路を逸れたことによって発生した……現在の推定で、死傷者数は三万七千人を超え、さらに二千人以上が行方不明となっている。』
俺は家のソファにぼんやりと座りながら、その数字が意味のない雑音のように耳を通り抜けていくのを聞いていた。怒りも、涙も、反応もなかった。あの名前たち、あの声たち、あの笑顔たちは、とうに炎と煙に飲まれ、この静けさだけが俺を包み込んでいた。
俺には、いったい何が残っているのか?
俺は家を出て、目的もなく、都市の廃墟を彷徨っていた。なぜか、足はあの地区の公園へと俺を導いた——そこはかつて、遥が最も好きだった遊び場だった。
今や、それはただの封鎖された焼け野原だ。
警戒線が四方に張り巡らされ、救護員と捜索隊が忙しなく動き回っている。封鎖区域の外では、泣き叫ぶ市民たち——犠牲者の家族たち。ある者は号泣し、ある者は地面に崩れ落ち、またある者は呟いた。「どうしてこんなことに……?」
だが、悲しみの隙間から、怒りの声が湧き上がり始めた。
「俺たちは力を集めて、やつらに反撃するべきだ!」 「もう待てない!やつらは俺たちの家族を奪ったんだ!」 「俺たちには力が必要だ!家族を守るために!復讐だ!」
それらの声は、堤防の崩壊のごとく周囲に広がっていった。いくつかの政党や団体はこの機を利用して、憎しみと戦意を扇動し始めた——「正義」や「故郷を守る」という名目で、人々の感情を煽る。
俺は人ごみの中に立ち、血走った涙の目を見つめ、復讐の旗を掲げた腕を見つめていた。
これが戦争の、最も現実的な姿なのだ。
そうして間もなく、最初の兵団が現れた。
この軍団は、爆発で家族と故郷を失った人々が自発的に組織したものであった。正規の階級も、制式の装備もない。あるのはただ一つの共通した信念——復讐。
彼らは自らを——ブリュートシュヴェルト(Blutschwert)と名乗った。
「苦しみから再生し、血と刃で正義を取り戻す。」 これが彼らのスローガンであり、彼らの存在理由でもある。
灰燼の刃(ブリュートシュヴェルト)の構成員は各地から集まった。かつて医者だった者、教師だった者、そして大多数は一般市民だった。彼らは戦争のために生まれたわけではない、だが今は戦争のために生きている。彼らはその痛みと憤りを武器に変え、あらゆる敵に対して宣戦布告をした。
政府はこのような行動に黙認を選び、裏では資源や情報を提供した。民衆も彼らの行動を賞賛し、彼らを英雄として讃えた。街には彼らのシンボルが貼られ、若者たちはこぞって加入を望んだ。それはまるで、止めようのない狂気の奔流のようだった。
俺は街角に立ち、壁に貼られたポスターを見つめた。スローガンの下には、地面に突き立てられた一振りの剣。
「灰燼の中から、鋼鉄は生まれる。」
それは救いではない、生まれ変わりだった——歪んで、焼け付くような再生。
ある者はこのブリュートシュヴェルトを「民の意志の具現」と呼び、またある者は「復讐と狂気の象徴」と呼んだ。彼らの出現は、平和という幻想を切り裂く稲妻のごとく、この災難を取り返しのつかない方向へと押し進めた。
だが俺にはわかっていた——すべてはまだ始まりにすぎない。
あの夜、俺は家に戻り、テレビを消し、すべてのカーテンを引き、暗闇に俺を呑み込ませた。部屋の中央に座り、両手で焼け焦げて壊れた犬の首輪を抱きしめた——遥が生前一番好きだった噛んで走り回るもの。その金属部分には、まだかすかに熱が残っていた。まるで消えきらない余熱のように。
俺の世界は、すでにすべての意味を失っていた。
だが、俺はまだ生きている。
なぜだ……?
時々、俺は考える
なぜ天は俺をこの場所に生まれさせた? なぜ俺が俺である必要があったのか? もしかしたら、俺の存在は、まだ始まっていない何かのためにあるのかもしれない。 もしかしたら、俺も彼らに加わるべきなのかもしれない。 もしかしたら、この戦争に俺の最後の温度まで呑み込ませるべきなのかもしれない。
この混乱と絶望の中で、答えは次第に明確になっていった——
俺は顔を上げ、壁に貼られたポスターを見た——炎に包まれた剣と、その言葉。
「苦しみからの再生。」
俺の中には、すでに答えがあった。
俺は立ち上がり、闇の中へと歩き出した。
あの日から、俺は軍団に加わり、見慣れた仮面とコートを纏い、過去の俺を硝煙と鮮血の下に埋めた。「復讐」の名のもとに、俺は次々と戦に参加し、銃弾と爆炎の中を駆け抜け、痛みと怒りを、引き金を引くその一瞬にすべて託していた。
あの時、俺たちは五百万人いた。圧倒的な勢いで、何も恐れぬと謳われていた。 だが今、残っているのは——七百人だけだ。
名前、顔、共に歩いた足音……それらは次々と戦場で消えていき、最後まで倒れず残っているのは俺ひとりだけとなった。
彼らが言ったように、もしかすると—— 俺はすでに「悪魔」になってしまったのかもしれない。
俺の両手は、とうに血で染まりきっている。 敵の血、仲間の血、そして罪なき者の血。 最後に太陽を見たのがいつだったのか、夢に泣き声も爆音もなかったのが何年何月だったのか、思い出せない。
「正義」?「平和」?「希望」? それらの言葉は、俺にとってはもはや触れられない幻影にすぎない。 ただ一つ、戦争はまだ終わっていない——それだけが俺を動かし続けていた。
時々、俺は思う—— この戦争は、本当に復讐のためだけなのか? それとも、ただ俺が死ぬ理由を探しているだけなのか?
その瞬間——彼は目を覚ました。
目を開けると、見慣れた天井が目に映り、周囲は静まり返っていた。警報音も、爆発音も、燃える匂いもない。
彼は身を起こし、ぼんやりと周囲を見回す。
ここは彼の家——清潔なリビング、整然とした家具、窓の外には暖かな日差しが差し込み、通りからは子供の笑い声と車輪の音が聞こえる。
戦争は?爆発は?あの血と炎は?
彼は立ち上がり、ゆっくりとリビングの入り口へ向かい、ドアを開けたその瞬間——
遥が見えた。
「おはよう、遥……」彼は一瞬戸惑い、それからゆっくりと口元が緩んだ。「俺……夢を見てたみたいだ。すごく長い夢を。」
遥は尻尾を振りながら、いつものように嬉しそうに駆け寄ってきて、彼の胸に飛び込んできた。彼はひざまずき、ぎゅっと遥を抱きしめた。まるで、この光景が再び消えてしまうのが怖いかのように。
その日、彼は遥を連れていつも通り外に出た。街を散歩し、馴染みのパン屋を通り過ぎ、遥は以前と同じように店先で座って待っていた。二人でご飯を食べ、夜になると静かにソファに横たわった。
「なんだか……現実味がないな。」彼は小声でつぶやいた。「これは俺の幻覚なのか……?」
遥は彼を見つめていた。吠えることも、返事をすることもなく、ただその澄んだ瞳で静かに見つめていた。まるで、すべてを理解しているかのように。
「まるで……俺の言ってることがわかるみたいだな。」
彼は遥の頭を撫でながら、指先を少し震わせた。
これは夢なのか、それとも現実なのか。彼にはわからなかった。
けれど、もしこれが夢なら——
「もう少しだけ、いさせてくれ……いいか?」
彼は遥に寄り添い、その温もりを感じながら目を閉じた。まるで、永遠にこの静かで穏やかな世界に浸っていられるような気がした。
——ちょうどその頃、現実では。
「患者さん、大量出血です!血圧が急激に低下しました!」
手術室内では、警報音が鳴り響き、心電図の波形が激しく点滅し、長く尖ったアラーム音が空気を切り裂くように鳴っていた。
「急げ!輸血300ミリリットル!止血鉗を持ってきて!」
医療スタッフが慌ただしく駆け回り、レックスの身体が手術台の上で微かに痙攣していた。激しい痛みで胸が上下し、傷口から血が流れ出し、ガーゼを染めていた。
外で待つ人々は不安げに見守っていた。
「彼まだ持ちこたえられますか?」ジェニーが切迫した口調で尋ねる。
「現在、出血が深刻です。全力で救命します。」
桜井は祈るように手を組み、
ジョナサンたちも手術室の前に集まっていた。
「俺も手伝う。以前、医者をしていた。」ジェニーが言った。
「でも……」
「このままじゃ、間に合わない。」ジェニーが言い切った。
「わかった、入って消毒して、手を洗って着替えて。」
ジェニーは唇を引き結び、心拍モニターの不安定なデータを見て、低く指示した。
「絶対にここで死なせない。何があっても彼を助け出す!」
——そして、あの夢の中。
レックスは遥の頭を撫でながら、久しぶりの安らぎに包まれていた。
窓の外には心地よい日差しが差し込み、遠くで風鈴の音が聞こえた。
彼には、現実の緊迫した声も、混乱や悲鳴も届かなかった。
ただ光と影の中に座り、静かに呟いた。
「もう一日だけ……こうして過ごせたら……」
風がふっと吹き抜けた瞬間、
背後の景色が、炎に包まれた地獄のような光景に変わった。
彼はすべてを思い出した。
炎の海の中、彼は瓦礫の中央に立っていた。かつての街並みは焼け焦げ、建物は崩れ落ち、周囲で炎が咆哮していた。
「……ああ、そうだったな。」彼は低く呟いた。手が震え、目の前に浮かぶのは、見慣れた顔——両親、そして遥。
「俺……ずっと逃げていたんだ。」
その背後から、犬の鳴き声が聞こえた。彼が振り返ると、遥が炎の端に立っていた。炎に飲まれていない、あの優しい姿のままで、尻尾を振って彼を見ていた。
次の瞬間、遥は背を向けて走り出した。
「待って、遥!」
彼はその方向へ駆け出した。瓦礫と煙を踏み越え、名前を叫び続ける。だが、景色は次第にぼやけ、空は灰色に染まり、炎は消え、ただ白い霧だけが広がっていた。
「行かないでよ……」
彼の声はかすれて嗚咽混じりになり、足取りは重く、身体は何かに引きずられるように動けなくなっていった。
——現実では、心拍モニターが鋭く長い音を発した。
「心停止!」
「すぐに除細動器を!いち、に、さん——放電!」
レックスの身体が電気ショックで跳ね上がり、血圧が再び動き出す。ジェニーの額には汗が滲み、モニターを食い入るように見つめていた。
「お願い……あなたには、あなたを待っている人がいるの……」
——夢の中、レックスはついに霧の中で足を止めた。
彼が顔を上げると、遥が前方に静かに座っていた。まるで、彼を待っていたかのように。
「もう……帰る時間か?遥……」
遥は立ち上がり、彼に近づいて、そっと彼の手を舐めた。
そして、夢の光が徐々に退いていった。
遥の姿も、ゆっくりと消えていった。
その瞬間、彼はついに堪えきれず、声を上げて泣いた。
「会いたかったよ……一緒に年老いていくって、約束したのに……いろんな所に連れて行きたかったのに……」
「ごめんね……ごめんね……遥…」
遥は彼の手の上に前足を重ねた。
そして一声、吠えた。
その瞬間の俺には、確かに遥の心の声が聞こえた気がした。
「俺は空の上で待ってる。でも今のお前はまだ死んじゃいけない。だから、生きて。どこにいても、何をしていても、俺はお前を愛してるだ。」
そう言い残して、遥の姿は完全に消えた。
そして——レックスは病室で目を覚ました。
皆が歓喜した。
「レックス!」
レックスは目を大きく見開き、大きく息を吸い込んだ。まるで、深い海の底から浮かび上がったように。呼吸は荒く、額には冷や汗、目尻には涙の跡が残っていた。
「レックス!」ジェニーが最初に駆け寄り、目に涙を浮かべて彼の手を握りしめた。
桜井とジョナサンもすぐに駆けつけ、病室は言葉にできない感動と安堵で満たされた。
「ほんとに……目を覚ましたんだな……このバカ野郎、マジで俺たちをビビらせやがって……」
桜井は歯を食いしばり、震える声でそう言った。
レックスは見慣れた顔を見つめながら、しばらく黙っていた。ただゆっくりと手を上げ、まるで自分がまだ生きているかを確かめるように。
「俺……まだ、生きてるのか……?」
ジェニーは静かに頷き、涙を流した。「あなたは……乗り越えたのよ。本当に乗り越えたの。」
レックスはゆっくりと窓の外を見た。
雲の切れ間から陽光が差し込み、病床に降り注いでいた。その光は、信じがたいほど温かく、まるで夢のようだった。
彼は小さく呟いた。
「遥……聞こえたよ……俺は、生きるよ……見ていてくれ。」
皆が彼の生還を喜ぶ中、彼の視線は、陽光の中に浮かぶ影に釘付けになった。
そこには、尻尾を振る犬の姿が見えた気がした。
それはほんの一瞬だった。
だが、その温もりは、永遠に彼の心に刻まれた。
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