第33話 一時撤退
「こいつ、魔力切れで、さっきからずっと寝てる……」
ジルが苦笑いしている。
「……凄い神経だ。こんなところで寝れるなんて、大したもんだな」
カルも目が点である。
「それよりも、握っている手、離した方がいいぞ。起きたら怒られるかもしれないぞ」
「…確かに」
「おい、一緒に来た、あの獣人何者だ! もう、あっちに行ったぞ!」
グリアが叫んだ。
彼女は傷だらけであった。肩で息をしていて、辛そうである。
「彼女は味方だから安心して。グリアは、ここで休んでいてくれ。俺も加勢に行ってくる」
「わかった。頼む…」
そう言うと、グリアはその場に座りこんでしまった。
前線では、レッドベアー三頭に対して、三人で挑んでいる。
各々が少し離れたところで、1対1といった形で戦っており、皆、防御するので精いっぱいである。
そこに、カルとジュノーが加わった。
ジュノーのスピードは、レッドベアーとは比較にならない。
あっという間に、レイピアで脇腹を引き裂いた後、後ろに廻って太ももを斬った。
その後にカルが、二、三太刀あびせて止めを刺す。
この繰り返しで、三頭全部を仕留めてしまった。
モルトン他2名は、力尽きてその場でぐったりしている。
暫くは、動けそうもない感じである。
カルとジュノーは、三人には特に声をかけず、エスティルらのもとに歩いて戻って来た。
「まだ寝ているにゅ…」
ジュノーが、エスティルの顔を覗き込んでいた。
そこへ、シャルティエットが駆けて来た。
彼は少し先まで、探索にでていたが、異変に気付いて急ぎ戻って来たのであった。
取りあえず、その場の者に、カルはチームAとBの状況を説明し出した。
マーレとエレンが捕まった件、そして一時撤退する件も伝えた…。
「見捨てるつもりなの!」
エスティルの声である。
途中から聞いていたらしい。
彼女は疲れた目をしながらも、詰め寄ってきた。
「エレンらは殺される可能性はないと思うにゃ。このまま、チームCのみで戦い続けたら、ここのみんなも捕らわれてしまうのにゃ」
「でも、…カルはどう思っているの!」
「今、二人を救い出すことは、流石に無理だと思う。今から撤退しても、村まで無事に戻れるか分からないくらいだ」
カルは心苦しくて、視線を合わせられない。
現状を理解してもらいたいこともあって、チームAの救出に行った際の、ゴブリンの多さ等を皆に伝えた。
「おいおい、そんなに多いんじゃ、こちらも数を揃えて一掃作戦でも練らないと、太刀打ちなんかできないぜ」
喋ったのはモルトンである。
シャルティエットが戻ってくるのを見て、前衛の三人も集まって来ていた。
他の二人も、撤退に賛成している。
「エスティル様、我々のチームだけで進んだら、格好の餌食となってしまいます。それにどこに行けば助けられるのかも、わからないのです。ここは皆と一緒に撤退しましょう」
「シャルティエット、あなたは、エレンを助けたくないの!」
エスティルは涙ぐんでいる。
エスティルは、彼女とは仲が悪い。
けれども、全く持って、大嫌いという訳ではない。
直ぐにでも、エレンを助け出してあげたいという気持ちに嘘はない。
マーレという娘も一緒に助けてあげたい。
カルはあの娘が気になって、助けに行ったのに、こんなことになってしまって…。
エスティルは、理屈では撤退が最善策だと理解できているが、いろいろと心情的な部分で賛成が出来なく、悲しくて仕方がなかった。
見かねて、グリアが何か言おうとした、その時である。
「お、お--------------い、助けて、助けてくれ~」
鼻下に髭のある大きな男が走って来たのである。
「た、頼む。この先に、みんなが捕らわれているんだ! 助けに行ってくれ。なっ、頼む、頼むから、全員で行って助けよう」
モルトン、ギズ、ビグルの傭兵三人は、この男を知っている。
「あ、モルトンじゃねえか、頼む、みんなで助けに行ってくれ。みんなで行けば、必ず全員助けられる」
三人は冷ややかである。
「お前は、そんな情のある奴だったか。……戦場で、お前は味方の命なんて気にしたことなんてなかっただろ。そんなお前がみんなを助けて、くれってどういうことだ」
モルトンは怪訝な顔をしている。他の二人も同様である
「何言ってんだ! 相手は魔物だぞ、人族の命の方が大事だろ」
「お前なら黙って逃げ去り、追っ手を俺達に向けさせる位のことはすると思ってな」
「モルトン、言い過ぎだろ」
カルが止めに入った。
「いや、カル殿、この男は信用なりませぬ」
シャルティエットも、モルトンと同意見のようだ。
エスティルはこの男に見覚えがあった。
そう、街でぶつかった三人組の一人である。
当然、良い印象は無かった。
シャルティエットは続けた。
「先程、探索魔術を使いましたが、この先に敵の拠点はありませぬ」
「あるとしたら罠なのにゃ、引っ掛からないのにゃ」
「な、なんだと……!! な、何を言っているんだ。俺が嘘ついているとでも言うのか!この先で捕まっているんだぞ。みんなで助けに行ってくれよ。頼む」
「お前が先頭なら、考えてもいいぜ。大方、俺達が向かったら、すぐに逃げ出すんだろ。……まさか、お前、ゴブリンと取引なんかしてないよな?」
モルトンは全くもって、この男を信じていない。
「へへっ、お前はな。俺と同じ目をしているんだよ。信じる訳ないだろ」
傭兵の一人が笑っている。
「ぐっ、ビグル、お前……」
「何だよ、後ろ……来ているじゃんかよ!」
後方の木の陰からホブゴブリンが現れた。
グリアのクローが白銀色に輝きだす。
彼女のクローは、上質のミスリルから造られたもので、魔力を注ぐとコーティングがされ、硬度と切れ味が増すのである。
「ギャブァーーーーー」
ボブゴブリンが雄叫びを上げた。
体型は逆三角形で、上半身の筋肉が大きく発達している。
首から肩にかけての筋肉は異様である。
全員、剣を抜く。
「レッドベアーの次は、ホブゴブリンかよ。それにしても、ありゃ強さそうだな。おい」
一言呟くと、モルトンは剣を構えた
「う、うわ、俺は味方なんだ、た、助けてく…れぇ……」
鼻下に髭のある大男は、ホブゴブリンに駆け寄りつつ大声をだしたものの、伝わらない事がわかると逃げ出した。
そこへ一閃、ホブゴブリンのロングソードが彼を貫いた。
「グブッ」
男は吐血し、即死したようだ。
ホブゴブリンは、ロングソードを投げ払うように振って、大男の死体を宙へと飛ばすと、ニヤリと笑みを浮かべた。
「マジか、あんな死に方………魔物なんかと取引するからだ」
モルトンは、この戦いが最後になるかもと思いつつ、剣を握りしめた。
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