第17話 古来剣術
カルは、『ボス』の方へ駆けていた。
途中、現れた敵に対しても、容易に切り伏せて進んでいた。
パルーは、カルの動きに気が付いた。
「もう、ガルツとエレンも追いついた頃合いだろうしな」
そう言うと、彼も丘の上を目指して駆けだした。
「ちっス」
パルーが追いついてきて、カルに小さく挨拶をした。
なぜか、笑顔である。
「あっ、さっきの」
カルは、正直、自分の身体能力に驚いていた。
駆ける速さもそうだが、敵の攻撃を避け、やすやすと斬り伏せる。
自分の意志で、ここ迄駆けて来たものの、ここまで動けるとは思っていなかったのである。
そんな凄い身体能力を持つ自分に、後から追いついてきたこの男。
カルは、不思議と全く、害意を感じてはいなかった。
『ボス』のいる丘の麓まで走ってきた二人は、坂道を上ることなく、同時に丘上へと飛び上がった。
一方で、『ボス』は、二人同時に相手をするのは不味いと感じたのか、カル達の方を向いたまま、逃げるように後方に跳ね、丘の下まで降下してしまった。
それを見たカルとパルーも、丘に着地すると同時に、『ボス』を追って丘の下へと飛び込んだ。
その時、空中にいた二人は揃って血の気が引いた。
小さなホーンラビットが、こちらに向かって跳ねて来ていたのである。
着地地点にも、多くのホーンラビットが角を押し出すように身構えている。
「こ、こいつ、逃げたんじゃなくて、おびき寄せるために下がったのか!」
空中で体制を変えられないカルは、そのまま突っ込むしかなかった。
「アイスクル・スラッシュ、三連斬!」
パルーが剣を振り切ると、氷の刃が起こり、跳んできたホーンラビットを数匹切り裂いた。着地すると、すぐに傍にいたホーンラビットをも斬り伏せた。
「あいつ、なんで、魔剣術を使わないんだ! 血塗れになっているじゃないか!」
カルは、飛び道具といえるような魔剣術は一切もっていなかったため、空中でホーンラビットと交錯し、角や爪で傷を負わされていた。
パルーはカルを見て驚いていたが、すぐに魔道具を使用した。
「風盾!」
彼の左小手に装備されている小さな盾は、実際は攻撃武具とも言えるものであった。周辺の風が急速に集まり、小さな竜巻を発生させ、敵を切り刻んでいった。これにより、周囲のホーンラビットは一掃されたが、小さなホーンラビットが次から次へと集まってきていた。
「これは、きりがないな」
とりあえず、パルーはカルを救おうと思い、見回したものの、落下地点には、もう見当たらなかった。
「ま、まさか、刺殺されたのか!……仕方ない、
風盾を使いながら、『ボス』の方へ向かおうとした時だった。
「ギグゲエエエーーーーッ」
『ボス』の太い右腕が宙に舞った。
「!!」
続いて左腕も飛んだ。
『ボス』は、のたうち回りながら、大きな悲鳴を上げ続けていた。
が、その悲鳴も直に止んでしまった。
悲鳴の代わりにゴトッと音がして、パルーが気が付くと、ぶっとい首が地面に転がっていた。
パルーはその場に着地していたカルを見つけた。
「ふむ。やるねぇ。あいつ。……血塗れだけど」
パルーは、自分が仕留めたわけでもないのに満足そうな顔をしていた。
「パルーーーーーーーー、後は私がやるから任せておいて~」
「ゲッ、エレンか」
パルーは、エレンの声を耳にすると、すぐさま岩の陰に身を隠した。
瞬く間に、先程放ったよりも多くの光の矢が降り注がれ、ホーンラビットは一掃されていく。
「あんた、バカなの!! またカルに当たっているじゃないの!」
追いついてきたエスティルが激怒している。
「ごめんなさ~い。また当っちゃたの? 一本当たったところで、死にはしないでしょう」
「あ、あのバカ女。三つも背中に刺しやがって! 早くヒールを……うっ」
カルの意識が遠ざかる。
エスティルが駆け寄り、ヒールで治療する。
辛うじて、カルは意識を保っていた。
「大丈夫?」
「な、なんとか」
「あの、バカ女、ふん掴まえて、とっちめてやる!」
「ちょ、一人にしないでくれ、傍にいて…死ぬかも知れない…」
カルは冗談ではなく、本当に死ぬかと思っていた。
「えっ、や、やだ。もう、死ぬ訳ないでしょ! 今、ヒールをかけたんだから」
エスティルは話を変えて誤魔化した。傍にいてと、言われて照れていたのである。
「で、でも。何だかんだ言っても、あんたって凄いのね。こんなのやっつけてしまうなんて。魔人の件も全くの嘘という訳じゃなかったのね」
エスティルは、安堵の表情へと変わっていた。
「はは、信じてなかったんだ。いててて」
「いててって、ヒールで傷はもう治っているでしょ!……出血した量は酷いけど」
『ボス』が死んだ途端、生き残っていたホーンラビットは、全て逃げ去っていた。
パルーは、二人を横目に大声を出した。
「お~い、片付いたよーー。こっちは、もういいよ~。みんな無事か~い?」
『銀翼』のメンバーに言っているようだ。
暫くすると、彼は収穫状況を確認していた。
ホーンラビットは、肉、皮、角等とギルドで換金できる部位が多いのである。
そんな中、村人達に声を掛られた。
今日、助けてもらったお礼として、今晩、酒宴を設けて盛大にもてなしてくれるというのだ。
その話を聞いて、ガルツは満面の笑みである。
踊り出しそうだ。
当然、カル達も声をかけられていた。
もう、陽が傾いてきているし、パルーは、カル達とも話をしたいと思っていたので、快く承諾し、皆で村へ行くことにした。
結構、近いのである。
歓迎会のメインディッシュは、ホーンラビットの丸焼きである。
村人達にとっては、この上ない大御馳走である。しかも、大量にあるのだ。
実際に襲われた村人達は、最初は毛嫌いして食が進まなかったが、宴会が進むと、逞しくかぶりついていた。
エスティルが、悲鳴を聞く度にヒールを連発していたことから、村人に負傷者がでていないこともあり、宴会は大いに盛り上がっていた。
エールやら地酒やらが振舞われ、みんな酔いも回ってきていた。
開始から約2時間経過。
……女3人は酔っぱらっていた。
「あんたは何! 魔物も人も関係ないわけなの! フ、ヒック」
エスティルは、カルに計4本も光の矢を当てたエレンに絡んでいる。
「エレンは、この機会に、もう、乱れ射ちを止めて欲しいのにゃー」
ジュノーも酔っている。
「なぁんで、二人に言われなきゃならないのよー! ヒック。あ、あんただって、悲鳴が聞こえる度にエリアヒールを連発して、その度にホーンラビットも回復してたのよ。全快してたのもいたわよ! ジュノーは、ジュノーで、何も言わずにいきなり、走って、先に行ってしまって、私が襲われたらどうするのよぉ--。フル装備なんだから、鎧は重いんだから、私、逃げられないんだからね! ウ、ウウー」
エレンは怒ったかと思ったら、今度は泣き始めた。
「あたいは、臨機応変に動いたのにゃ。動けるのは頭がいいのにゃ--、ひひゃはー、エレンよりもあたいの方が頭がいい証拠なのにゃー。ふひっ」
「な、なんですって~」
エレンが泣きながら、驚いた表情でジュノーを見る。そして泣く。
「なんで、私を責めるのよ~」
また泣く。
「全快してたってことは、私が凄いってことじゃない! 凄いのよ、私は! ね ぇ」
エスティルは、樽ジョッキを片手に胸を張って夜空に向かって喋っている。
なぜか、「凄いんだから—」と叫び始めた。
「おまえが、原因だったのか、にゃーっ、ふひっー」
ぐでっ。
ジュノーは力尽きて、椅子に座ったまま寝てしまった。
滅茶滅茶になっているので、男性陣は避難していた。
「大怪我していたのは、君だけだよ。カル君」
パルーが話かけてきた。
「仕方ないんですよ。僕は魔力量が少ないので」
カルは出血が多かったこともあり、栄養補給に重点を置き、酒には手を付けずに肉と野菜を食いまくっている。因に、服は血だらけで、ボロボロとなってしまったため、今は村人からもらった服を身に着けて、綺麗サッパリしている。
「確かに君は魔力が少ないみたいだね。でも、さっきの活躍は凄かったね。特にボスを斬った時の剣術、あれは古来剣術だろう。魔物を斬るのに魔力を一切感じなかった…」
「古来剣術?」
「おいおい、あそこまで、体得しておいて知らない振りもないだろう。俺は初めて見て感動したんだから」
「古来剣術じゃあ? 儂でも見たことないぞ」
ガルツが会話に入ってきた。
口もとには、肉の油がてかっている。
「現在、剣術と称されているのは、昔でいう魔剣術だ。それに対して、君のは昔でいう剣術。今でいう古来剣術だ。魔力は一切必要としない剣術だよ。一体どこで体得したんだい?」
パルーは、真剣な目で詰め寄ってきた。
(不味いな。この人が言っているのは、あの心の内で声がした時の剣術のことだろう。自分でも扱える理由が分からない、なんて言っても信じてもらえないだろうし。どうやってこの場を乗り切ろうか。)
「冒険者は自分の情報の話しはしない。と分かっていても聞きたくなっちゃうよね、あんなの見せられたらさあ。まあ、でも答える義務はないけどね」
(良かった、あきらめてくれるらしい。)
「それで、どんななのじゃ、ウップ」
(うわ~、酔っぱらい。どうしよ。逃げきれる自信がない。どうしよ)
カルはガルツを30分程ごまかし続けている。
(本当にしつこいな。この親父は)
パルーは笑っている。
自分で振り返ってみても、よくわからない。
ただ、あの『内なる声』が聞こえた後でも、別に肉体の自由が奪われる訳ではないのだ。
前世もしくは、前々世の俺だろうか?
声が聞こえるだけで、自分の感覚は維持できたままなのである。
ただ、戦いの際に体が誘導されている感じがあるくらいだ。
だから誘導がなくなると、何一つ剣士らしい動きができなくなってしまう。
いや、何一つ出来ないということもないか。
でも、この肉体が、これまで鍛錬されてきたからこそ、動けるのだ。それは間違いない。
いろいろと言われてみて、自分なりに少し整理していたところ、何か聞こえてきた。
「た、大変だーー! 大変なんだよーー」
大声で叫びながら、走ってくる人影が見える。
「はあ、はあ、はあ、き、聞いてくれ、カル!」
その者は、目の前で立ち止まり、息せき切っている。
「大変なことが起こっているに違いないんだ。い、いいか、よく聞け!」
「・・・って、君、誰?」
「へっ?」
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