第6話 悪趣味な二人

 美しい草花に囲まれた庭園の中、俺はリエルに案内されて魔女のテーブルの前までやって来た。

 リエルは、相も変わらずに微笑んでいる。

 

「よく来てくれたのう。途中からじゃが、成り行きは見ておったぞ。ん、ゴホッ、ゴホッ、」

 魔女の第一声を聞いて焦った。

 どの時点から見られていたのだろうか。

 俺は言葉が出なかった。


「……ふ~む。それにしても、お前さんみたいな者は初めてみるのう」

 そういうと魔女は笑みを浮かべながらティーカップを口もとへ運んだ。


 カルは魔女の笑みを見たためか、なぜか上手く話しだせない。

 別に、魔女に何かされている訳でもない。と思う。

 魔女の第一印象は、一言でいうとお婆さんであった。


「私の名はメリーザ。ゴホッ」

 

「カ、カルと言います。こ、この度は、お招き頂きまして、あ、ありがとうございます」

 咄嗟に名乗り返した。

「そんなに緊張せんでもええよ。ん、ゴホッ」

「あ、お体の調子、………だ、大丈夫ですか!」

「ああ、大丈夫じゃよ。大丈夫。それよりも、カルよ、腕は痛くなってきてないかえ」

 そう言われて、カルは驚いた。

 特段、痛い素振りもしていないのに言い当てられたからだ。


 メリーザ様の話によると、森の結界内では痛みが生じるのは仕方がないという。

 実は痛みが徐々に増してきており、俺はその理由を聞く余裕はなかった。


 取り敢えず、直ぐに応急処置をしてくれるという。

 丁寧に感謝の意を伝えているところに、いきなり、場を制するような大きな嗄れた声がした。


「お、おおう、もう来てたのか! 思ったよりも早いお着きじゃな」

 小柄だが、体躯がガッチリした爺さんが、笑顔で割り込んで来た。

 ジロジロとこっちを見ている。はっきり言って、目つきも悪く髯モジャで少し怖い。


「あなた様は?」

「儂はヨルブという。お前、酒は好きか? 飲ぉむか? がっ、ははははっ」

 もう既に酔っぱらっているようだ。


「いえ、傷が痛くてそれどころでは」

「何じゃあ、この酒を飲むと治るぞ! 早く飲め!」

「本当ですか!」

「知らん!」

「………」

「がはははっ」


「ヨルブ様は飲みたいだけですから、あまり気にしないでください」

 リエルが苦笑いしている。

「………」

 酔っぱらいと真面目に話した自分が馬鹿だった……。


「飲まんのか、飲うまんのか、残念」

 そう言いながらも、ヨルブは一人で飲み続けた。


 リエルが痛みについて、教えてくれた。

 彼女の話によると、森には『結界』が張られており、この結界内に魔人が侵入すると、その肉体は焼かれてしまうのだという。

 今の俺の腕には、魔人が発した魔術『黒炎』で生じた火傷に、魔人の返り血が交じり合った汚い傷がある。この傷が、結界に反応して痛むのだという。

 そうなると、一つ疑問点がある。

 あの魔人は森の中で戦っていた。………平然としていたように見えた。よくわからないが、まあ、今はどうでもいい。


 そんなことよりも、応急処置のほうが大事である。

 今から行う応急処置はというと、まずは、交じり合ってる部分を焼いてしまい、その後に治癒魔術をかけるのだという。それって、本当に元にもどるのだろうか、またもや疑問に思ったが、もう任せるしかない。

 メリーザが一度奥に入り、暫くした後、戻って来た直後に応急処置が始まった。

 リエルに促されるまま、俺はベットに寝ると、いきなり、ヨルブが物凄い力で縛ってきて、その直後、俺は火魔術で腕を焼かれた。


「うわわわー、があああっ!!」



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 目を覚ますと俺は縛られたままベッドに寝かされていた……。

 部屋には誰もいない。


 どうやら、俺はすぐに気絶してしまっていたらしい。

 縛られたままということは、意識の無い状態で暴れていたのだろうか。

 ………迷惑かけっぱなしだな。


 それにしても、黒炎よりも熱かったというか、一瞬で死んだかと思うほどであった。

 もう、腕に痛みはなく、見ると火傷の跡もなかった。

 どうやら、気絶しているのを幸に全部治してもらえたらしい。

 助かった。

 これで村や町に行っても討伐対象とならずに済む。

 人間として生きていける。


 いずれにしても、彼女らには感謝の念しかない。

 すぐにでも、お礼を言わなければと思っていたところに扉が開き、リエルが着替えを持って入ってきた。

 何気に嬉しそうな顔をしている。

「あら、お目覚めですか?」

 リエルはクスクス笑っている。

 きっと、気絶した時のことを思い出して可笑しいのだろう。


「あ、あのリエルさん。腕を治療してくれたお礼を言いたいのだけれど」

「どうぞ」

「え、あ。ありがとうございます。そ、そのメリーザ様とヨルブ様にも」

「メリーザ様とヨルブ様は、先程のテーブルにいらっしゃいます。ティータイムの続きをされていますよ」


「あの、体中ぐるぐる巻きなんだけど。これ」

 縛られていて、行くに行けないのである。


「芋虫みたいで、かわいいですわよ」

 またクスクス笑っている。


「そうじゃなくて、この縄を解いて欲しいんだけれど」

「そうなんですね。ごめんなさい。『かわいいアピール』をしているのかと思いました。『ぐるぐる巻き』どう?なんて」

「そんなん、しないです!」

「ヨルブ様をすぐに呼んできますね。それと、“さん”はいりません。“リエル”でいいですよ。ふふ。」


 やってきたヨルブは大斧を持っていた。

 どう考えても、大斧は縄を斬るには不適切である。

「あ、あの、縄を解いて欲しいのですが」

 俺は身動きができない状態なのだ。


 ヨルブは視線を合わせようといない。

「あ、あの、ちょっ!!」

 ヨルブは無言で大斧を振り下ろしてきた。


「うわあああああああっーーーーーーーーー」

 俺は狂気じみた声で叫んだ。

 振り下ろされた後、我に返って足元を見ると、寸断された縄だけが落ちていた。


 その直後である。

 リエルとヨルブが目を合わせた後、大笑いし出した。

 二人が大成功とかいいながら、ハイタッチをしている。

 何だこれ…。

 どうも、俺の反応リアクションが相当に可笑しかったらしい。


 後から聞いたのだが、ヨルブの大斧は魔道具であり、『縄のみを切る』という性能を試したかっただけなのだと。もし、間違って俺を斬ってしまったとしても、治癒魔術で治せるから大丈夫と2人は話していたが、治せたとしても、あんな大斧で斬られたら滅茶苦茶痛いだろう。…そう考えると、とんでもなく、悪趣味な2人である。迷惑このうえない。


 思い返せば、リエルは部屋に入ってきた時点で、『悪戯するぞという目』をしていた。

 実は、全てリエルが企んだことではないのかと邪推してしまう………。


 とは言っても、今一番頼れる人ではあるので、何されても文句はない。というかあっても言えない。

 因みに人ではないが。


 リエルが言うには、俺の腕は暫くリハビリが必要で完治には時間がかかるらしい。

 それだけ言うと、彼女は、もう、日が暮れるので夕食の準備があるからと、サッサと行ってしまった。

 詳しいことは夕食の時にメリーザに聞いてくれという。それまでは、部屋でゆっくりしていて構わないとのことだったので、俺は防具を脱ぎ、リエルが持ってきてくれた服に着替え、ベッドに横たわった。

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