第28話 川遊び

 試験が終わり、夏休みが目前に迫った日の帰り。


 7月だというのにうだるような暑さの中、蝉の声を聞きながら通学路を歩く永嗣えいじと志筑。この所の暑さで、冷房の無い部室に留まるのが厳しかったため、2人で大人しく帰ることにしたのだ。


「こっちは暑さもヤバイな……」


 夏の制服は半袖のポロシャツにズボンだが、薄手の生地であっても暑さは厳しい。


「この所本当に暑いですからね。虎地君のご実家の方はもっと涼しかったんですか?」


 志筑の質問に永嗣は汗を拭きつつ首を振る。


「いや、暑いには暑かったけど、ここまでじゃなかったと思う。部室だって、学校の中の日が当たらない部屋なら窓開けてればそこそこ涼しかった気がするし」


 授業中は冷房が効いていたが、それが無くなると日陰であってもかなりの暑さだ。幸い下宿はしっかり冷暖房完備なので、少なくとも帰れば暑さは凌げる。


「羨ましいですね。まぁ、山の方は避暑地としても有名ですし、それも頷けますけれど」


 彼女の頬に汗が伝う。時間はそろそろ日が沈むころだと言うのに暑さはまったく弱まっていなかった。


「お兄ちゃん!」


 進行方向から声がして、永嗣が顔を上げると見知った顔が歩いてくる。


「よう、花。今帰りか?」

「うん。お兄ちゃんたちも?」

「ああ。さすがに暑いんで部活は中止だ」


 苦笑いする永嗣に花も頷く。

 永嗣の通っている高校と花の小学校は目と鼻の先だ。時間が合えばこうして会うこともある。


「そっか。冷房効いてないと学校の中も暑いもんね。」

「そうなんだよなぁ。実家の方はもっと涼しかったよな」


 永嗣の言葉に苦笑しつつ頷く花。白いノースリーブに短パン、幅広の帽子を被っているがそれでも暑そうだ。


「そうだね、森の中とか涼しかったし。川も近くにあったもんね」

「川……。そうだな、川遊び行きたいな」


 川と聞いて永嗣が呟く。


「川ですか?河畔公園なら近いですが」

「あぁいや。確かに河畔公園なら近いし、そっちでもいいけど。人も多そうだしな。」


 志筑の言葉に首を振る永嗣。


「河畔公園なら市民プールもあるよ?」

「泳ぐならそうだな。けど上流の方なら川辺でも涼しいだろ。電車使えば割とすぐだし、夏休み入るからさ、行ってみないか?」

「そうだね。それじゃあ可愛い水着にしようっと」


 花はすぐに頷く。


「はは、学校じゃないしそういうのもありだな。そうだ、志筑さんも一緒に行かないか?」

「えっ?私もですか」


 永嗣に言われ戸惑う志筑。


「あれーっ?志筑お姉ちゃんは行かないの?水着になるのが恥ずかしいのかな」


 ニヤニヤと笑みを浮かべながら志筑を見る花。


「み、水着……わ、私も行きます!」

「おし!じゃあ決まりだな。いつ行くかは後で連絡するぜ」


 楽しそうな永嗣に、志筑はそっと花に耳打ちする。


「えっと、私も一緒でいいんですか?」


 すると花は笑顔で答える。


「この間はお兄ちゃんとデートしたから、学校で一緒のお姉ちゃんと対等くらいでしょ?今度は抜け駆け無しで行こうと思って」

「そ、そっか。その……ありがとうございます」


 志筑は思わず丁寧に頭を下げてしまうのだった。


§


 夏休みに入ったばかりの昼下がり。

 

 志筑綾香しづきあやかは1人、水着を買いに服屋を訪れていた。この辺りでは有名所のアパレルチェーン店である。

 ショーウィンドーには夏らしい涼し気な装いのマネキンが並び、中には水着の物もある。ただ志筑自身は然程ファッションに気を使っておらず、目立たず無難と思われる服を買うようにしていた。ただ、それも高校生になったのだから服くらい自分で選べと母親から言われて仕方なくそうし始めただけで、中学までは母親の選んできた服を特に気にせず着ていた。

 高校に入ってからは休みだろうが外出時はほぼ制服で、洗濯の為と強制されて仕方なく私服に袖を通すといった具合である。

 だからこそ、ゴールデンウィークに永嗣達と出かけた際も気にせず制服を着ており、花に「女子力が低い」と言われ初めてそれを自覚してショックを受けたわけで。


(水着……どう選べばいいのか全然わからないよ……)


 意を決して店までやって来たはいい物の、どんな水着を選べばいいのか皆目見当が付かず途方に暮れていた。


「あら?志筑ちゃんじゃない」

「あ……、珠貴さん。こんにちは」


 志筑は見知った顔を見てほっとする。


「今日はお買い物ですか?皆さんも一緒に」


 珠貴の背後では永嗣の式達が水着を選んでいる。


「そうなの。皆水着持ってないでしょう?だから買いにね。女の子の買い物だから永嗣君はお留守番なの。がっかりした?」

「い、いえそんな」


 にこやかに言う珠貴に慌てて手を振り否定する志筑。


「志筑ちゃんも水着を買いに来たのかしら?」

「は、はい。ただ、その……どんな水着を選んだらいいかさっぱり分からないもので」

「そうなの。それじゃあ私が見立ててあげましょうか?」

「はい。ぜひお願いします」


 志筑にとっては渡りに船だ。永嗣が居ないのも今は好都合である。


 それから永嗣の式達と志筑は、珠貴に相談しながら水着を選んで行く。


「毛玉ちゃんはこれがいいかしら」

「おお!よくわからないけど、いいと思う!」


 毛玉が試着した水着はワンピースタイプで下にスカートが付いている幼児向けの水着だ。


「とっても可愛いです。よく似合ってます」

「ありがとう!」


 志筑も絶賛の可愛らしさだ。


「美亜子ちゃんはこの辺なんかどうかしら?」


 珠貴が差し出したのはホルターネックのワンピースタイプで、大人っぽい水着だ。


「うーん。デザインの良し悪しは分からんが、もう少し動きやすそうな方が良いな」

「そうねぇ。それじゃあこれなんかどう?」


 次に選んだ物を試着して見る美亜子。セパレートで上はタンクトップ状、下はホットパンツ状のスポーティな水着だ。


「ふむ、悪く無いな。これにしよう」

「す、すごいですね。引き締まってますし、脚も長いですし……」


 志筑の言う通り、引き締まったアスリート体型で脚もスラリと長い。身長も高めなのでスタイルが良く、志筑は圧倒されてしまう。


「クロベェちゃんはやっぱりこういうのが良いかしら」

「いや、我は水に入るつもりはない」


 水着を見もしないで首をふるクロベェ。風呂は少しずつ慣らしているものの、やはり水に入るのは抵抗があるようだ。


「こういうのは雰囲気が大切だから着たほうがいいわ。万が一濡れても水着なら気持ち悪くないでしょうし」

「むぅ……仕方ない。これも経験か」


 クロベェはしぶしぶ水着を試着する。黒いワンピースでフリルの装飾が付いており、普段ゴスロリで過ごす事の多いクロベェには良く似合っていた。


「クロベェさん、素敵です。よく似合ってますよ」

「そうか?まぁ志筑がそう言うなら大丈夫であろう」


 誉められて喜んでいる、というわけではなさそうだが、その水着に決めたようだ。


「摩耶ちゃんは……そうねぇ、この辺りはどうかしら?」

「ほう。いろいろなタイプがあるのう」


 式達の中で一番楽しそうに水着を選んでいたのは摩耶だ。なんなら志筑より女子らしい反応とも言える。

 珠貴がチョイスしたのはフレアトップ、チューブトップ、キャミソール風といずれもトップスが特徴的な3つのビキニ。


「ふむ。どれも良くて迷うが……これなんかどうかのう」


 フレアトップを選び試着してみる摩耶。色は白とオレンジのツートンカラーだ。


「摩耶さん、本当にお綺麗ですね。明るい色が似合います」

「誉められるとこそばゆいのう。うむ、気に入ったからこれにするか」


 摩耶の水着も決まりあとは志筑だけとなる。


「志筑ちゃんに似合いそうなのはこの辺かしら」

「こ、こんな派手な水着、私には無理です」


 珠貴が選んだのはクロスホルターのビキニ。首の後ろとパンツの両サイドが飾り紐になっている。解けても脱げる心配は無いが、布面積は少なめだ。


「も、もっと布面積が多いものでお願いします。ワンピースタイプとか」

「そう?志筑ちゃんは着やせするタイプだし、ワンピースタイプにしちゃうとむっちりして見えちゃうからセパレートの方がいいと思うわ。布面積が多めだと……これかしら」


 思案しつつ珠貴は次の水着を渡す。


「そ、そうですね。これくらいなら……」

「ふふ、それじゃあ決まりね。永嗣君の反応が楽しみだわ」


 笑って言う珠貴に、志筑は困ったように笑い返すしかなかった。


§


 夏の日差しを受けて、青々と茂った木々の間を流れる清流。

 下宿の近くにある河畔公園の川、その上流にある支流の1つ。いくつかある川遊びの出来るスポットの中では山間にあるため人が少ない穴場である。


「おお!こりゃすごいな」

「本当だね。景色も良いし水もきれい」


 川を見て歓声を上げる永嗣に、花も頷く。


 遊べる場所は比較的川幅が広めで流れが緩やかになっており、対岸の崖下は深みになっているものの、川岸は深くても大人の腰程度と川遊びには最適であった。ここより上に行くと急流になっており、下流は大き目の岩が多く浅瀬になって居るので、釣りなら上流、深いところへ行きたくないなら下流へ行けば良い。


「珠貴さん、今日は連れてきて下さってありがとうございます」

「いいのよ。せっかくの夏休みですもの」


 志筑が頭を下げると珠貴は楽し気に笑う。

 今日は大き目のレンタカーで珠貴が運転してきたのだ。


 荷物を降ろし、キャンプテーブルや椅子を用意し終わると永嗣達はさっそく水着に着替える。

 涼し気な格好ながら水着ではない珠貴さんはここで留守番だ。


「バーベキューの準備をしておくから、お昼には戻って来なさいね」

「了解です。そんじゃ魚取ってくるか」


 水中ゴーグルに銛まで用意し、準備万端で川へ向う永嗣。準備運動をしているうちに、着替え終わった女子達がやってくる。みんな水着姿にサンダル履きだ。


「お兄ちゃん!花の水着どう?」

「おっ、可愛いな。よく似合ってる」

「えへへ、でしょう」


 セパレートタイプで腰にフリルの付いた水着で少し恥ずかし気に笑う花に、永嗣も笑顔で答える。


「永嗣殿、ワシらも水着なんじゃが感想はないのかの?」


 摩耶の言葉に振り返る永嗣。4人の式達も各々水着に着替えている。


「おう、皆いい感じだな。毛玉も可愛くなってるし、美亜子もよく似合ってて美人だ。クロベェは清楚な感じだし、摩耶は明るい色が似合っててきれいだぞ」

「ふむ。まぁ及第点にしておいてやろう」

「こりゃ手厳しいな」


 腰に手を当てた摩耶が大仰に頷く。毛玉と美亜子は嬉しそうだが、クロベェは水辺故か少し憂鬱そうだ。


「あの……虎地君。私、変じゃないですか?」


 最後尾からおずおずと顔を出したのは志筑だ。腕辺りまでフリルが来ているオフショルダーのビキニで、下も大き目のフリルが太ももやお尻を隠しているデザイン。


「ああ……その、全然変じゃないよ。よく似合ってるし、すげー可愛いよ。うん」

「そ、そうですか。よかった……です」


 顔を赤らめる志筑に永嗣もなんとなく恥ずかしくなってしまう。


 そんな様子を見て花は永嗣の背中を押す。


「ほらお兄ちゃん、さっそく泳ぎに行こう!」

「お、おう。そうだな」

「ワシも久しぶりに泳ぐかのう」

「摩耶泳げるのか」

「川の近くに住んでおったから暇つぶしにな」


 楽し気にそう言う摩耶を引きつれ、3人で川へと入る。


「えと、私は泳げませんので浅瀬の方に居ますね」

「オイラも泳いだことない」

「俺もだな」


 川岸に近い浅瀬で止まる志筑と、一緒に居るのは毛玉と美亜子だ。


「クロベェ殿は来ないのか?」

「我は遠慮しておく……」


 人の姿になって居ても猫だ。川の近くまで来るが水に入ろうとはしない。


「この辺りなら足首くらいまでしか水がありませんから大丈夫ですよ。試しに足だけでも入ってみては?」

「冷たくて気持ちいいぞ!」

「う、うむぅ……」


 志筑と毛玉に促され、恐る恐る足先を川へ浸けるクロベェ。


「この辺りは生温いな」

「ふふ、流れの無い所は温まってますからね」


 おっかなびっくりと言った様子のクロベェに思わず笑ってしまう志筑。

 そこへ知らない子供たちがバシャバシャと飛沫を立てて川へ入って行く。


「ニャア!」


 飛沫がかかって驚いたクロベェは一目散に川から離れる。


「あ、大丈夫ですか?クロベェさん」

「わ、我はやっぱり遠慮しておこう!」


 志筑の声に答えつつ珠貴の待つところまで走って戻ってしまった。


「まぁ、クロベェさんは仕方ないとして、浅瀬で遊ぶなら濡れてもいい靴を履いた方がいいですね」

「そうなのか?」


 苦笑しつつ言う志筑に毛玉は首を傾げる。


「泳ぐなら邪魔になりますけど、足が付くところだと石やガラスなんかがあったら危ないですからね。流れもあるのでサンダルだと脱げ安いですし、履き替えた方がいいでしょう」

「なるほど。では取りに戻るか?」

「そうしましょう。勢いで来ちゃいましたけど、荷物にいろいろ用意してあるので」


 結局3人もクロベェに続いて珠貴の所へ戻ることになった。


 珠貴の所へ戻ったクロベェ、志筑、毛玉、美亜子の4人。クロベェは猫の姿に戻ってキャンプチェアで丸くなる。「昼飯になったら起こしてくれ」と完全に投げやり。

 志筑、毛玉、美亜子は珠貴の用意していた麦わら帽子、ライフジャケット、スニーカーを身につけて、さらに水中ゴーグルも持って今度こそ準備万端。


「さすがですね。ライフジャケットまで準備されてたなんて。でも、どうして最初から出さなかったんですか?」


 志筑の問いに珠貴は笑って答える。


「ふふ、だってせっかくの水着が隠れちゃうでしょう?最初はちゃんと永嗣君に見せてアピールしないと」

「そ、それは……まぁ……はい」


 言われて少し顔を赤らめ目を泳がせる志筑。最も、相変わらず長い前髪で目線は分かりにくいが。


「あぁ、それとこれも持って行って」

「バケツですか?」

「ええ。永嗣君魚捕ってるんでしょう?入物が必要だと思って」

「ああ、確かに。でも本当に捕れるんでしょうか?」

「大丈夫よ。彼の実家の方では自然の中で遊ぶしかなかったでしょうから、川遊びなんてしょっちゅうやってたでしょう。魚を捕るなんてお手の物だわ」

「それは……まぁお手並み拝見ですね」


 志筑も永嗣の行動力には信頼を置いているが、銛で川魚を捕るというのが今一イメージ出来ていない。川で魚と言ったら釣りだろうと漠然と思っていたので、永嗣が銛を片手に川へ入って行くのも実に不思議な光景であった。


 それから3人でまた川へ戻る。


「うーむ。志筑殿は泳げないのだったな?やはり泳ぐ練習は大変なのか?」


 足下くらいが浸かる浅瀬で美亜子はそう言って唸る。


「ふふ、どうでしょうか?私は運動そのものが苦手ですけれど、美亜子さんなら少し練習すれば泳げるようになりそうですね。まずは水に入ることに馴れると良いと聞いたことがあります。ちょうど水中ゴーグルもありますし、深くないところで潜る練習をしてみましょうか」

「ほう。言われてみれば水に潜ったことなど無かったな。そもそも身体が浸かるほどの水など風呂でしか入ったことがないしな」

「そうですか。お風呂で潜るのは止めた方が良いかもしれませんが、ここなら存分に潜れますからね。泳ぐ練習も、流れのある川よりプールの方がやりやすいでしょうし、そのうち市民プールで虎地君に教わるのも良いですね」

「おお!オイラも泳ぐ練習するぞ!」


 毛玉も嬉しそうに手を上げたので、3人で水中ゴーグルをつけ、志筑の腰ぐらいの深さで潜ってみる。ただ、志筑の腰ということは、美亜子なら太もも、毛玉なら首辺りの水深だ。

 近くの川辺にバケツとライフジャケット、帽子を置いて、3人で輪になるよう手をつなぎ潜ることにした。


 息を止め、屈むようにして水中へ頭を潜らせる。瞬間、音がゴボゴボと濁って聞こえづらくなる。視界はゴーグル越しで少し曇りつつもお互いの姿が確認できる。それから下を見れば完全に丸くはないものの角の取れた石がごろごろと積り、深みの方は砂地になっている。石はところどころ藻が生え、時おり魚が泳いでいるのが見える。


 息が苦しくなって水から顔を出すとお互いに顔を見合わせた。


「すごいな。川の中というのは初めて見たが、奇麗なものだ」

「はぁはぁ、ふふ、確かに。私も川に潜ったのは初めてで、なんだかすごく面白いです」

「オイラ水族館で川の中っていうの見たけど、自分で潜ると全然違うな!すっごく楽しいぞ!」


 3人で笑っていると、永嗣が川から上がってくる。


「おっ、3人とも楽しそうだな。浅いとこで潜ってたのか?」

「はい。虎地君はどうでした?」

「俺か?見ての通りだ」


 永嗣が左てを上げると、手に3尾の川魚が握られている。種類はイワナ2尾にヤマメが1尾。どれも頭や身体に銛で刺された傷があってぐったりしており、辛うじて息がある程度だ。


「おお。やるものだな大将」

「すごいぞエイジ!」

「いや、実家の方でやってた川より深くてだいぶ苦戦したぜ。あと入物持ってきてなかったのは失敗だったな」

「あ、入物でしたら珠貴さんからバケツ預かってますよ」

「まじか。助かるよ」


 川から上がった志筑が近くに置いてあったバケツを差し出すと、永嗣はそこへ魚を入れた。


「おお。主殿あるじどのもなかなかの収穫だったようじゃのう」

「おかえり摩耶。って、まじかよ……」


 摩耶は片手に1尾ずつそれぞれヤマメとイワナを持っている。もちろん永嗣と違って銛は持っていないし、オシャレな水着は泳ぎやすそうには見えない。


「すごいですね。素手で捕まえたんですか?」

「うむ。まぁ山に住んでおったときは時おり食うのに捕っておったからな。姿が変わって少々勝手が違ったが、馴れればどうということはないわい」

「やるなぁ摩耶殿。後で泳ぎを教えてくれ」

「オイラも魚捕りたいぞ!」

「ほほほ、いくらでも教えてやろう。すぐにとは行かぬだろうが、コツを掴めばどうということはないからのう」


 摩耶は魚をバケツに投げ入れつつ言う。永嗣が捕った魚と違って傷はないため元気に跳ねている。


「あれ、そういや花は?」

「一緒に川に入ったが、ワシは見ておらんのう」


 永嗣が問うと摩耶は首を振る。


「花ちゃん1人なんですか?」

「花殿なら先ほどその辺りを泳いでおったと思うが」

「エイジ、あれ!」


 志筑と美亜子が首を傾げる中、毛玉が指を差す。

 見れば花は川に流され深い方に。なんとか戻ろうと泳いでいるが、そのうち頭が見えなくなる。


「志筑、これ頼む!」

「虎地君!?」


 永嗣は銛を志筑へ渡すと川へ飛び込んだのだった。

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