第6話 アルバムの中の面影

 ——数ヶ月後。


 夏休みが近づいてきたころ。

 七海は、部屋の片隅に積んだままだったダンボールに目をやった。


 「……そろそろ、ちゃんと整理しなきゃ」


 久しぶりに箱を開けてみると、懐かしいものが次々と姿を現す。色褪せた写真、折れたしおり、昔の手紙。そして、底から出てきた一冊のアルバムが、七海の手を止めた。


 「これ……高校の卒業アルバムだ」


 卒業してから、まだ半年も経っていないのに。

 ページをめくるたび、もうずいぶん前の出来事のように思えた。


 ふと、とあるページで指が止まる。


 「……あ、蒼井先輩」


 バスケ部の集合写真。

 その中に、ユニフォーム姿の少年がいた。精悍な顔立ちと、自然な笑顔。どこか憧れのようなものを感じさせる一枚だった。


 「どれ、俺にも見せて。……あ、健人だ」


 鏡の中から陽葵が声をかけてきた。懐かしそうに目を細める。


 「やっぱり蒼井健人先輩だったんだ。友達がファンで、試合も見に行ったことあるよ」


 「そうなんだ。バスケ部では結構人気あったもんね」


 「陽葵って、健人先輩と同級生だっけ?」


 「うん。でもなんで俺だけ呼び捨て?」


 陽葵が苦笑する。七海は肩をすくめた。


 「今は私の方が年上だから……って言ったら怒る?」


 「ちょっと傷つく」


 そう言って、陽葵は笑った。けれどその目は、どこか懐かしいものを見ているようだった。


 「健人はね、ただの同級生じゃない。……親友だったんだ」


 ぽつりと漏れたその言葉に、七海は自然と耳を傾けた。


 「見た目はちょっと近寄りがたいけど、実はすごく面倒見がよくてさ。後輩の面倒もよく見てたし、俺がバカなことすると、すぐ怒ってくれて」


 「……なんか、想像できるかも」


 七海はアルバムの中の彼の笑顔を見つめながら、小さく頷いた。


 「それに、よく美咲と三人でつるんでたな……」


 陽葵の声が少しだけ、遠くを見つめるようになる。


 「美咲って……白波美咲先輩?」


 「うん。生徒会の」


 「そっか、三人仲良かったんだ」


 「文化祭の準備とか、よく手伝ってた。健人の練習終わりに三人でコンビニ寄ったり、美咲が無駄に張り切って『私が一番仕事できる!』って言い張ったり」


 ふふっと、七海が笑う。


 「そういうタイプだったよね、美咲先輩。……意外と子どもっぽいとこもある感じ」


 「そう。強がりで、すぐ張り合ってくるんだ。俺と健人がじゃれ合ってると『私もやる!』って割り込んできて」


 陽葵の声が、ふっと柔らかくなる。


 それは、懐かしさだけじゃない。

 どこか、胸の奥が少しだけ痛むような、そんな響きだった。


 「……もしかして」


 七海は、そっと口を開いた。


 「陽葵が好きだった人?」


 問いかけた途端、陽葵は一瞬だけ動きを止めた。


 そして、ゆっくりと微笑む。


 「……うん」


 その笑顔は、少し寂しくて、だけどどこか優しかった。


 七海は写真の中の美咲を見つめる。

 眩しいほどの笑顔。青春の真ん中にいるような輝き。


 ——この人に、想いを伝えられなかったことが

 彼を鏡の中に縛りつけているのかもしれない。


 ふと、そんな考えが胸をよぎった。


 「……ねえ」


 七海は、まっすぐ陽葵を見つめる。


 「もし私が、その……美咲先輩に会えたら。陽葵のこと、伝えてあげようか?」


 言葉にするより先に、気持ちが口をついて出ていた。


 鏡の中で、過去に囚われたままの彼に。

 少しでも何かをしてあげたいと思った。


 「えっ……」


 陽葵の瞳が、大きく揺れた。


 「本当に……? それ、すごく……うれしい、かも」


 彼の声には、隠しきれない想いが滲んでいた。

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