第21話「だって……だし」
その後、なんとか山道を進んでいた。
上へ行くほど細くなってて、懐中電灯持ってきてなかったら危なかった。
いや魔法で照らす事もできるけど、今の俺じゃ長持ちしないからな。
ふう、もう少しで頂上のようだな。
そこで一休みするかと思った時。
ガラッ
「え? うわあああ!」
油断して足を踏み外してしまった!
ああ、こんなとこで……。
……皆、ごめん。
……あ、あれ?
いつまで経っても地面に落ちない?
「おい、大丈夫か?」
「え、あ?」
なんかごつい顔の人とネズミっぽい顔の人が俺を受け止めてくれてた。
「す、すみません。助かりました」
俺は二人に降ろされた後、礼を言った。
「いいって事よ。なんか崩れた音がしたんで来てみたらちょうどあんたが落ちてきたとこだったんだ」
「ほんとギリギリでやんしたね」
二人がそう言ってくれたが、それ凄いだろ。
「ところであんた山には慣れてねえようだが、なんでこんな無茶したんだよ?」
ごつい人が尋ねてきた。
「あの、実は息子が家出したんです。おそらく山の向こう側に行ったと思うので、それでです」
「そういう理由だったのか。そりゃ心配だろうが、おとっつあんがこんなとこで死んだら息子さんが一生後悔するだろうが」
「……そうですね」
少し焦りすぎたかもしれないな。
「ま、とにかくそこに山小屋あるんで休んでけや。夜が明けたら俺らも麓に降りるつもりだったから、案内してやるよ」
俺は二人の後に着いて行った。
名前聞いたらごつい方はゴリアンさんで、ネズミ顔の方はズーネさん。
なんかそのまんまって感じだな。
着いた場所は質素な山小屋。
「さ、湯しかねえでやすがどうぞ」
ズーネさんが木のコップを渡してきた。
「ありがとうございます。あの、お二人はここにお住まいなのですか?」
家具とかは見当たらないが。
「いいや、俺らは旅の者だよ。どっかにいい土地ねえかなあって探しててな、都ならどうかって思ったんだ」
「あっしの故郷で植えてた穀物を育てられるとこって、なかなかねえんでやんすよ」
二人が続けて言ったが、
「あれ、その故郷ではダメなのですか?」
「故郷も疫病で全滅しやして、土地が荒れすぎてあっしが生きてる間に回復する見込みも無くてねえ」
ズーネさんが俯きがちになって言った。
「そうでしたか……うちの周りは結構いい土地らしいから、もしかするとですけど」
いざとなったらココに頼んでもできるし。
「お、そうなのか? じゃあもし都がダメならそっちへ行ってみるか」
「そうでやすね。さ、眠れなくても横になってた方がいいでやすよ」
「ええ、そうします」
――――――
少し時を遡り。
リオルはスグルやコノミと夕飯をとっていた。
「これだけでごめんね。食糧あんまりないんだ」
スグルが申し訳なさそうに言う。
リオルの前に置かれていたのは一切れのパンと、野菜くずが入ったスープ。
「ううん。美味しいよ」
そう言いながら思った。
正秀と会う以前はこんなものだったと。
食事が終わり、
「さてと、後で井戸で水汲んでそれで体洗おうね」
「うん」
町長と言ってもたくさん食べられず、お風呂なんて贅沢もできないんだな。
-本当に自分は恵まれているのだなと改めて思うリオルだった。
「私は部屋で体拭くから。じゃあおやすみ」
コノミは自分と母親の部屋へ戻っていった。
「ねえ、コノミちゃんのお母さんってこの家で働いてるんだよね」
「そうだよ。リナお姉ちゃん達の世話したり他の仕事したりね。だから僕がコノミの面倒見てるの」
「面倒見てもらってるっぽいけど」
「うううう、皆そう言う」
またむくれ顔になるスグルだった。
そしてリオルはスグルの部屋に行き、用意された寝床に入った。
「ねえ、スグルのパパとママってどんな人だったの?」
リオルは少し気になったみたいだった。
「二人共強くて優しかった。あ、母さんは大酒飲みだったなあ」
「そうなんだ。僕のパパは頭いい人で、ママは力持ちだったなあ」
「なんかどっちも母さんの方が凄いね。そうだ、今一緒にいる家族は?」
スグルが聞くとリオルは俯いた。
「あ、ごめんね。家出してきたんだよね」
「うん。けどコノミちゃん、じきに来るとか言ってたけどなんでそう思ったんだろ?」
「コノミは魔法使えるだけでなくてね、神様や精霊の声がたまに聞こえるんだって」
「うわあ、それって物凄いよね」
「けどコノミはいつでもがいいなあだって」
「もっと大きくなったらできるんじゃないかな」
「かもね。さ、もう寝ようか」
「うん」
(リオルが一番凄いんだけどなあ。だって……だし)
心の中で思うスグルだった。
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