第19話「家出」

 その後はまた畑仕事したり、魔法の練習したり。

 遠出して生き残った人がいないかとか、何かないか探したり。

 時々はハカタ町に行ったり、カンナちゃんとハルスがこっちに来たり。

 一緒に遊んだりハルスと飲んで話したりの毎日だった。


 ああ、家族だけでなく友達もできて幸せだわ。

 ここへ来れてほんとよかった……。




 そして三ヶ月が過ぎ、そろそろ収穫の時期となったある日。

「あーもう、なんであんたそんなに頑固なのよー!」

「どうでもいいだろ!」

 向こうに勉強しに行ってたライラとリオル君が帰って来ていたが、なんか喧嘩していた。

「ちょ、どうした? 落ち着いて話してくれ」

 俺は二人の間に立って聞いた。


「あ。ううん、なんでもないよ」

「何でもない事ないでしょ!」

「ああもう、うるさいよ!」

「なによー!」


「だから落ち着けー!」

 俺が怒鳴ると二人共黙った。


「で、何があったの?」

 改めて尋ねた。


「あのね、リオルに」

「もういい!」

 リオル君は二階へ駆けて行った。


「なあ、何があったんだ?」

「あのね、いいかげんリオルもパパの事パパって呼びなよって言ったの」

 ライラがそんな事を言った。

「え、なんでそんな事を?」

「いやさ、パパはリオルも自分の子供当然って思ってるだろし、それでね」

「いや、それは言うもんじゃないだろ」

「うー、そうかもだけどさあ。リオルだって嫌じゃないはずなのにって思ったらつい」


「きゅー!」

 ココがなんか慌てて飛んできた。


「え、どうしたんだ?」

「きゅ、きゅ」

 うーん、なんかあったのは分かるが察しきれん。


「えと、紙とペン持ってくるからそこに書いて」

 そう言うと、


「……もういいや。あのね、リオルお兄ちゃんが出てったの」


「え!? な、なんだって!?」

「てかあんたいつの間に喋れるようになったのー!?」

 俺達は二重の意味で驚いてしまった。


「もうずっと前からだよ」

「え、じゃあなんで黙ってたの?」

「それは後で言うから、今はお兄ちゃんを。飛翔呪文で飛んでったけどそんな遠くまで行けないと思うよ」


「どっちの方行ったか分かる?」

「あっち」

 ココが北東の方を指した。


 というかリオル君、そんな呪文まで使えたんだ。

 ハルスが言ってたが、飛翔呪文ってコントロールが難しくてあいつの知る限りだと統一軍の大賢者しか使えなかったらしいし。

 って、今はそんな場合じゃない。

 

 俺達は車に乗ってその方向を目指した。


――――――


 一方、リオルはどこかの平原のど真ん中にいた。

「ここどこだろ?」

 どうやら適当に飛んでいたようだった。


「ねえ」

「!?」

 誰かがリオルに声をかけた。

 振り返るとそこにいたのは、彼と同い年くらいの黒髪の少年だった。

「ねえ君、この辺りに住んでるの?」

 少年が尋ねる。

「ううん、えっと……」

「もう、こんなとこまで来てってあれ、その子は?」

 今度は桃色の髪で、やはり同年代だろう少女が駆けてきた。


「なんか迷子みたいなんだけど」

「違うって。ちょっと家出しただけ」

 少年の言う事を訂正するリオル。


「え、家出? うわあ、凄い!」

「ねえあなた、家出って事は近くに家があるの?」

 少女がリオルに尋ねた。


「テンオウ村ってところ」

「え、それってどのあたり?」

 少年が首を傾げ、

「ぼくもよく分かんない」

 リオルも首を傾げた。


「あの、そこってここからだと南西に歩いて一日よ?」

 少女がやや驚きの表情になった。


「そうなんだ。コノミってほんと物知りだね」

「それはいいから。ねえ、一人で歩いてきたの?」

 少女、コノミがまた尋ねた。


「ううん、魔法で何も考えずに飛んだらここに来たんだ」

「えええ!? ちょっとあなた、魔法使えるの!?」

 今度は盛大に驚くコノミだった。


「やっぱり凄いの? 魔法使いってもうあんまりいないって聞いてるけど」

「私も練習してるけどまだまだだし、使える大人は町で一人だけだもん」

「僕なんかまったく使えないからそれでも凄いって。あ、そうだ。僕はスグルでこっちはコノミって言うんだけど、君の名前は?」

 少年、スグルが尋ねた。


「リオル。十歳だよ」

「あ、僕と同い年だ」

「私は一つ下よ」

 スグルの後にコノミがそう言う。


「そうなんだ? コノミちゃんの方が年上かと思った」

「むうううう、皆それ言う」

 スグルがむくれ顔になり、

「それだけ私が大人っぽいのよ」

 コノミが得意気に言った。


「そうだけどさあ。ってリオル、家出してきたならうち来ない?」

「いいの?」

「うん。僕さ、同い年の子に会ったの初めてなんだ。だから友達になりたくて」

「ぼくの村にも同じ年の子いなかったなあ。うん」


「うーん、ほっとく訳にもいかないからいいか」

 

 リオルはスグルとコノミの後に着いていった。

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