第12話「異世界でドライブ」

「うわあ、やっぱ早いー!」

「景色が流れてる!」

「きゅー!」


 おお、皆はしゃいでいるわ。

 ああ、こうして子供とドライブってのもしてみたかったんだ。

 それが異世界で叶うなんてな。


 ここへ来てからほんと……俺なんかがいいのかなってくらいだわ。



 幸い広い道もあり、ナビのおかげであっという間に1/4程の所まで来て、気がつけば左手側に海が見えていた。


「あー、海だー」

 ライラが窓の外を見ながら言った。

「へえ、これが海なんだ」

「きゅー」

 リオル君とココは海見たことないんだな。

「皆、この辺で休憩しようか」


 ちょうどいい岩陰があったのでそこに車を停め、シートを広げた。


「あー、風が気持ちいいー」

「きゅー!」

 ライラとココが大きく伸びして言う。


「おじさん、どうかしたの?」

 リオル君が聞いてきた。

「ん? いやね、ここまでの間に村はあったけど……」

 誰もいないようだったな。

 得体の知れないもの(車)を見て警戒していたって訳でもないし。


「疫病で人が少なくなったんで他へ行っちゃったのかもねー」

「じゃあ、都にいったのかも」

 ライラとリオル君が続けて言ったが、


「え? 都ってどこにあるの?」

「東の方だって聞いたよ」

「へえ、ちょっと見てみよう」


 マップアプリで見ると家から北東に行った所に盆地があり、その北側辺りに都市らしき跡があった。


「まあ、王様達はもういなくてもかな」

「そだねー。土地はいいはずだしー」


「きゅ~」

 ココが頬ずりしてきた。

「ん? どうした?」

「お腹空いたって」

 

「ああそうか。じゃあ弁当食べるか」

 後部座席に置いていたバスケットを取り出した。


「これほんと美味しいねー、むぐむぐ」

 ライラがおにぎりを頬張りながら言い、

「うん。けどもうあんまりないんだよね」

 リオル君もゆっくり食べながら言う。


「そうだな。稲があれば作れるんだがなあ。ライラも知らないんだな」

「うん、稲なんて聞いた事ないよー」

 ライラが頭を振って言い、

「あ、もしかするとさ、町にならあるんじゃない?」

 リオル君が言う。


「かもな……あれ、ココは?」

 いつの間にかいなくなってた。


「一個食べた後であっちに飛んでったよ」

「なんか見っけたのかもねー」


「きゅー」

 話してたら戻ってきた。


「なあ、どこ行ってたんだ?」


「きゅー」

「なんかいた気がしたから見に行ったんだって」


「え、それで何がいたの?」

「きゅ~」

 ココが小さく頭を振った。

「ああ、なんもいなかったのか」

「きゅ」

 今度は頷いた。


「他の人いたらなって思ったけど、盗賊だったら嫌だよねー」

 ライラが言ったが、それもそうだな。

 盗賊じゃなくて狂暴な怪物とかも。


「きゅ~」

「もう一個おにぎり食べたいって」


「ああ、まだいっぱいあるからな」

「きゅー!」


 ココはそのあと三つ食べて満足していた。



 そして、再び車の中。

「あらら、よく寝てるねー」

「お腹いっぱいだからかな」

 ココはライラの膝の上でスヤスヤ寝ていた。

「皆も眠かったら寝てていいからな」


「ううん、流れる景色なんてサイコーだもん。寝たら勿体ないよー」

「お姉ちゃん、ココが起きちゃうから静かにね」

「はーい」


 ははは、しっかり者の弟と元気な姉って感じだなあ。

 はあ、ほんと幸せだわ。


――――――


 一方、どっかの岩陰。


「あ、が……な、なんだったんだ、あれ?」

「あ、アニキ、やっぱ盗みなんてしたから、天罰が下ったんでやすよ」

「そ、そうかもしんねえな。けど天罰できるなら疫病なんとかしろよ」

「……そうでやすね。けど死んでねえって事は」

「やり直すチャンスくれたって事かもな」

「そうでやすよ。アニキ、もう足洗ってまっとうに働きやしょう」

「ああそうだな。もう懲り懲りだ」


 どうやらこの盗賊達は正秀達を襲おうとしていたようだが、何故か真っ黒焦げになって勝手に改心していた。

 まあ、彼らに良心が残っていたからだろう。


「ああ、これは無事だった。よかったでやす」

 子分が懐から小さな袋を取り出した。

「おい、なんだそれ?」

「へい、あっしの故郷で植えてた稲って穀物でやす。なんとかこれだけ残ってたんでやすよ」

「へえ。それ美味えのか?」

「そりゃもうほっぺが落ちそうなくらいでやすよ」

「そうか。じゃあいい土地あったらそこで育てるか」

「へい」


――――――


「きゅーきゅー」


「あらら、寝言言ってるわー。ねえ、なんて言ったのー?」

「ほんとにきゅーとしか言ってないよ」

「そっかー。なんか嬉しそうに聞こえたけどねー」

「そうだね」


「はは。お、そろそろ着くぞ」

 遠くに影が見えてきた。

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