第9話「コギャルが現れた!?」

 それからの日々はまた畑に種を蒔いて世話して、

 新たな畑を作ったり、森へ行って木を切り倒したり。


 リオル君が言っていた小屋も建て直した。

 幸い崩れていただけでなんとかなったし、中のかまども無事だったし。

 しかしレンガはあるんだな。


 あと、酵母も自家製のが上手くいった。

 電気代気にせずエアコンつけっぱなしにできるから、一定の温度を保てたもんな。

 それでパンも作れるようになった。

 皆でたくさん食べて、ほんと幸せだわ。


 そんなこんなで、この世界に来てから三ヶ月が過ぎた。

 この日は雨が降っていたので畑仕事は休みにして、俺はリオル君とココと一緒にこの世界の歴史を勉強していた。


「勇者が邪神に支配されてしまった竜神様を元に戻した。その後竜神様は地上の守護者となったのか」

「きゅきゅー」

「その竜神様がご先祖様だってパパから教わったって」

 

「そうか。ココの術はそのご先祖様から伝わるものなのかな」

「きゅ。……きゅ?」

 ココが急に襖の方を向いた。

「あれ、なんか戸を叩いてる音が聞こえるよ?」

 リオル君もそう言うので聞き耳を立てると、たしかに音がする。

 風はそんなにきつくないから、誰か来たのか?


 俺達は玄関へ向かった。

 すると戸の向こうに人影が見える。


「誰かいませんかー?」

 声からして若い女性っぽいな?


 そうっと戸を開けると、


「あ、よかった、いたー」

 服装は弥生時代風だったが、金髪で肌が黒いなんかコギャルっぽい女の子がずぶ濡れになっていた。


「えっと君、どこから来たの?」

「匿ってよ、奴隷商人から逃げて来たの」

 女の子が手を合わせて言ってきた。


「分かったよ。ああちょっと待ってて、拭くもの持ってくるよ」

 しかし奴隷商人ってのもいるんだな、この世界。


 それからバスタオルで体を拭いてもらった後で中に入ってもらい、別室で浴衣に着替えてもらった。


「こんな上等な布の服着ていいの?」

 彼女が遠慮がちに言う。


「いいって。さ、体冷えてるだろうからこれどうぞ」

 湯呑みに入れたお茶を出した。

 これはこの村にあったもので、体を温めたり胃腸が良くなる効果があると聞いた。


「ありがとー。ふう、ああおいしー」

 彼女はゆっくりそれを飲んで、一息ついた時に尋ねた。


「俺は正秀でこの子はリオル、竜はココ。君の名前は?」

「あーしはライラっていうの。歳は十六歳だよー」

 十六って事は日本だと高校生か。

 ほんとそんな感じだな、この子。


「ライラちゃんだね。あの、追手はいたの?」

「そーいやいなかったわ。もしかすると人手が足りなくて追っかけられなかったのかもしれないわ」

「それなら一安心だね。しかし奴隷商人か」

 英雄王様が生きてたらそんな奴ら即刻捕まってただろうな。


「怖かったけどさ、殴る蹴るなんて酷い事はされなかったよー」

「あれ、そういうもんなのか?」

「だってそんな事したら価値が下がるって言ってたし」

「ああなるほどな。ところでこれから行く当てはあるの?」


「……妹探しに行くつもりなんだ」

 ライラちゃんが俯きがちになって言った。

「え? もしかして妹さんも?」

「うん。先に売られちゃったんだ。西の方から来た奴がって話してるのが聞こえたんで、それでね」

「そうか……」


「ねえおじさん、お姉ちゃんだけじゃ危ないかもだから皆で着いて行こうよ」

 リオル君が俺の腕を引いて言った。

「ん、そうだな。ココもいいかい?」

「きゅー!」

 体を大きく広げて答えてくれた。


「え、え? 危ないっちゃ危ないけど、大丈夫だってば」

 ライラちゃんが顔を上げて言う。

「俺、これでも魔法使いだよ。それにリオル君もね」

「きゅー!」

「ココも強いよ」


「そうなんだ。あ、それならあーしにも魔法教えてよー」

「いいけど、まず素質があるかどうかだな。あ、ちょうど雨も上がったし外で試してみようか」

「うん」




「……オイ」

「うわー! なにこれすっげー!」


 ライラちゃんはリオル君よりも手が光り続けていた。

 そして魔法の契約してもらったら、


「えー、そうなんだー? うん分かったー」

 精霊様と話し終えてこっちを向いた。

「どうだった?」

「うん、あーし攻撃魔法全部使えるってー。それと補助魔法もねー」

「お、そりゃ凄いな。じゃあちょっと練習してみる?」

「うん!」



「うりゃー! そりゃー!」


「おーい……」

 あっという間に上級魔法まで使えるようになりやがった。

 なんか俺自身がチートじゃなくてチート人材が集まってるな。


 しかしよく考えたら俺ってゲームだと魔法使いってより僧侶系だな。

 ライラちゃんこそ魔法使いだわ。


「おじさんありがとー! これでカンナを助けに行けるよー!」

 ライラちゃんが抱きついてきた。

 うわこの子結構ある……。


「って、カンナって妹さんの名前?」

 引き剝がして聞いた。

「うん。あ、ついでに言うとほんとの妹じゃなくてね、孤児院で一緒に育った子なんだー」

「そうだったんだ。けど孤児院にいてなんで?」

「あの疫病であーし達を育ててくれた神官様や他の子達が死んじゃってさ、カンナとあーしだけが生き残ったんだ」

「そこをだったってか」

「うん……」


「ねえおじさん、もう日が暮れるからごはんにしよ」

 リオル君がそう言ってきたのでそうすることにした。




「うわー! なにこれめちゃ美味しいー!」

 人数が増えたんでカレーライスにした。

 あとサラダも。


「お姉ちゃんうるさいよ」

 リオル君がしかめっ面で言う。

「あ、ごめんねー」

 その後は喋りこそするが騒ぎはしなかった。

 いい子ではあるんだが。


「はあー、お腹いっぱい食べたのも久しぶりー」

 ライラちゃんは寝っ転がって腹を擦っていた。

「あのな、ちょっと謹んでくれ。浴衣がはだけていろいろ見えそうだ」

「宿賃代わりー。あ、なんなら触るー?」

「アホか。ってやっぱ今までロクなものを?」

「奴隷商人のとこではパンとスープばっか、たまに干し肉と野菜くれたよ。逃げた後は木の実や食べられそうな草ばっかだったよー」


「それでよく……」

 その体型維持できてたな、もしかして魔法力でかな?


「ねえお姉ちゃん、宿代なら片付け手伝ってよ」

 リオル君が視線を逸らして言った。

「あ、そだね。うん」

 ライラちゃんは起き上がってリオル君と一緒に食器を持って行った。


 やっぱいい子ではあるんだがな。

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