路地裏の石食い魔法使い
サイド
路地裏の石食い魔法使い 前編
都心から少し離れた郊外で、石を煮て食べている少女を見かけた。
スマートフォンで時刻を確認すれば、まだ午後の三時。
人通りのない路地裏とは言え、大きな鍋に火をかけて煮上がりを待つ姿はあまりに異様だった。
「……んぅ?」
足音でも鳴らしてしまったのか、少女は路地裏の入り口に立つ俺へ視線を向けた。
わずかに陽の光が差し込み、少女の姿が明らかになる。
学年的には俺より一つ下……高校一年生ていどでかなり小柄だ。
ロングの白い耳付きパーカー姿で、左目が隠れるほど前髪が長い。
「え……と」
まずい、目が合ったと思いつつ俺の左足が一歩分、後ずさる。
それでもすぐに逃げ出したりしなかったのは、こちらへ視線を向ける少女の視線が澄んで真っ直ぐだったから。
その鮮やかな銀髪と碧眼が俺の心を捉えて離さなかったから。
そうしてリアクションに困っていると、少女は人懐っこくちょいちょい手招きをした。
「よかったら、一緒にどう? 二千年ものの石なんてなかなか食べられないよ?」
いよいよやばいことを言い出したと直感しつつも、俺はふらふらと鍋へ引き寄せられる。
情けない話ではあるけど、ゲームや漫画でしか見たことのない銀髪と碧眼をもっと近くで見たいと思ってしまった。
鍋の反対側へゆっくり座り、しゃもじで鍋を混ぜる彼女と向き合う。
「こんな時間、こんな場所にいるんだから君も事情持ちだよね? 先に自己紹介しておくけど、ボクの名はモカナ。不死の魔法使いだよ」
「魔法使い?」
「うん、君は?」
「お、俺は……」
俺は躊躇いながらも、口を開く。
「杉山裕樹(すぎやま ひろき)、高校二年生。さっき、幼馴染とケンカして学校から逃げて来た」
「あっは! 正直だね、ヒロキは。散歩してた、とかでいいのに」
自分が苦い表情になっていることを自覚しつつ、言い返す。
「モカナ……さん? が嘘ついてる感じしなかったから」
「確かに嘘は言ってないけどさ。うさんくさいくらい思ってもいいのに」
「怪しいとは思ってますよ。不死とか」
その反論の何が面白かったのか、モカナさんはクスクスとまた笑う。
「モカナでいいよ。堅苦しいのは苦手なんだ」
「は、はぁ……」
そんな会話を交わしている間に、モカナは小皿で煮た石を一口かじる。
意外にも何の抵抗もなく歯が通り、うんうんと満足げだ。
「ヒロキも食べる?」
「いえ、さすがに……」
「……そう。美味しいのに」
残念そうというか、実にしょっぱい表情をしてモカナはさっさと食事を終えてしまう。
そして改めて口を開いた。
「で、幼馴染とケンカって?」
「……」
俺は一瞬ためらったが、この人に事情を明かしたところで何がどうなるわけでもないと判断し、話し出す。
「その、学校で赤点を取ったから」
「へぇ、なんでそこまで落ちたの?」
「……俺がいつまでも魔法ってなんだろう? って言ってるからだと思う」
「え?」
その返答が意外だったのかモカナは、その碧眼を丸くする。
銀髪とのコントラストの美しさに俺は息を飲んでしまったが、モカナは構わず続けた。
「ヒロキは高校二年生になってもまだ、魔法を信じてる?」
「詠唱はやり方が間違っているだけでいつか火も雷も出せると思ってるし、死ぬ直前に一度でもできたならそれで人生は報われると信じてます」
「なるほど、そりゃ怒るね。幼馴染さんは」
「……子供じみた、夢だから?」
俯いて吐き出した言葉に、モカナは小皿を指先でもてあそびながら答えた。
「いや、子供じみていても大人びていても夢は夢さ。現実と折り合いをつけているなら、どんな夢を見ていたって自由だし。……それを踏まえて、一つ質問なんだけど」
「?」
頭に疑問符を浮かべる俺へ、彼女は真っ直ぐに視線を向けて問う。
「ヒロキにとって、そもそも魔法って何?」
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