n回目は幸せに。〜人生ハードモードな巻き戻りコミュ障、今世は可愛い義弟達とのんびり旅をしたい〜

❄️風宮 翠霞❄️

第1話 1年後・巻き戻りコミュ障とその家族の旅路

 温かく爽やかな風が、吹き抜けていく。


 草原の中をざぁっと音を立てて吹いたその風に、カラン特製の帽子が飛ばされないように……。

 無風地帯に近いはずの場所で風が吹くなど随分と珍しいなと思いつつ、私は急いで帽子を両手で押さえた。


 私はそれで大丈夫だったのだけど……私の前を歩いていた2人は、その押さえる手が間に合わなかったらしい。


「にぃにー! るどのぼうしっ!」


「うぃるにーさまー、せどのもー!」


 パタパタと小さな手を振って、私に帽子が飛ばされてしまった旨を訴えている。

 ルドは金の髪がくるくるしてるし、セドは黒い髪が顔の前にくるのが邪魔らしくちっとムッとしてるし……やば。


 うちの弟達がかわいい。かわいすぎる。天使か。

 他の5歳児とかとは、微塵も比べ物にならないかわいさっ……!

 これは200回以上の巻き戻りの価値があるな。


「ウィル、悶えるのはやめろ」


 私はそんなことを考えながら、注意してくるカランの声を無視して……魔術を使って飛ばされた2人の帽子を取り戻し、止まって私の精霊達ときゃあきゃあ戯れている2人に届けてやる。


 しばらく前にあった、私の7歳の誕生日にカランがくれた……私達4人と2匹全員でお揃いの、『むぎわらぼうし』とかいう種類の帽子。


「家族お揃い麦わら! 独身だったから出来なかったけど、俺子供ができたらやってみたかったんだよ! ウィル、付き合え!」


 と目を輝かせたカランの提案に、「にぃにとおそろい!」と食いついたルドとセドによって実現されたものだ。


 それぞれ黒狼と白狼の姿になっている私の契約精霊、フォンセとグラースも、最近ではしれっと小さな帽子もどきを頭にのせてもらっていて……。

 私に「あるじ、見て! おそろい!」と主張してくるようになっている。


 最初の頃は、おそらくこの世界のものじゃないであろうものを自重なく作って使うということに気後していたけれど……今は、お揃いも悪くないなと思う。


 私の“家族”がここにいるみんななのだと、実感できるから。

 絶望の中で足掻くしかなかった、1年前のあの頃とは違うのだと思えるから。

 今までの人生と違って、1人じゃないと思えるから。


 ……何より、かわいい弟とお揃いは本当に最高。


 フォンセとグラースの毛をモフモフッと一撫でしてから、右手はルド、左手はセドと手を繋いだ私は……。

 後ろで私達を見守っているカランの方を一度振り返ってから、前を向いてまた歩き出した。


 最っ高にかっこかわいい義弟達と、頼りになる精霊たちと、変わり者の保護者。

 今ならもう、彼らがいれば……私は何でもできると、信じられるから。

 

 私は、両手に伝わる温かい温度に微笑みかけて歩いた。

 暗い記憶を、あるいは心に残る過去の残骸を。

 思い出した端から……全てをそっと、葬りながら。

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