第5話



 そう考えたわたしの最初の行動は、もちろんジニアスに相談することだった。

夜、ベッドの上に寝転がる。



『というわけで、クラス全員と仲良くなる方法を教えて』



『それは中々の難問だね』



『だけど、地道にやっていけば出来ないことはないよ』



『例えば?』



『そうだね。まずは共通の趣味を持っている人を探す』



『例えば香菜ちゃんはバレーボールをしているから、同じバレーじゃなくてもスポーツをやっているっていう共通の話題で仲良くなるんだ』



『でも、わたしは他の競技には詳しくないよ』



 バレーの話をして、相手が面白いだろうか。



『詳しくなくても、悩みは似ているはずだよ』



『基礎的な身体づくりとか、部活内の人間関係とか』



『そうかも』



 たしか、ダンス部の大西さんが同じ部活の子とギクシャクしているって聞いたことがある。わたしもバレー部の子と微妙な関係だ。



 共通の悩みがあると言ってもいい。今度、それとなく聞いてみよう。



『あとはイベントに積極的に参加すること』



『話したこともない子も、イベントなら話さざるを得ないよね』



 確かにそうだ。言ってみたら、家庭科実習だってイベントみたいなものだった。そこで、あまり普段は話さない柿原くんや菊池くん、高来さんとも少し仲良くなったんだ。



『もうすぐ、文化祭があるから実行委員やってみようかな』



『そうしたら、クラスのみんなと話せるよね』



 中学生だから舞台発表だけだけど、実行委員が中心になって文化祭の進行をするはずだ。誰もやりたがらないから、きっとなるのは簡単だろう。



『やるならポジティブにね!』



『みんなを盛り立てるつもりで、がんばろう!』



 部活もあるけれど、ジニアスも応援してくれる。クラスのみんなともっと仲良くなることは悪いことじゃないし、出来ることは全部頑張ろう。






 文化祭の実行委員を決めるホームルームは、この二日後に行われた。



「わたし、やります」



 事前に翔子と海美には言っていたけれど、他のクラスメイトが手を上げたわたしを見て驚いている。



 そもそも、うちの中学校では一年生が合唱、二年生が演劇、三年生がダンスの披露と決まっている。演劇をする二年生が一番大変だから、誰もやりたがらないだろうとみんな思っていたはずだ。現に他の人は誰も手を上げない。



 先生は満足そうに頷く。



「じゃあ、女子は三浦で決定と。男子は誰かいないか」



 先生がクラスを見回すけれど、みんな素知らぬ顔をしていた。



「じゃあ、くじ引きで」



「先生。俺がします」



 くじ引きをする前に手を上げたのは、スポーツが得意な浅野くんだ。



「じゃあ、決定。演目を何にするか。あとは実行委員よろしくな」



 わたしと浅野くんは黒板の前に行く。わたしはこっそり浅野くんに話しかける。



「良かったの、浅野くん。サッカー部だよね」



「そういう三浦さんはバレー部じゃん。いや、三浦さんが部活がんばっているの知っているし。それなら、俺もと思って。上手くクラスに役割分担してもらえれば、そんなに大変じゃないよな。このクラス、割とみんな仲いいし」



「そうだね」



 わたしはクラスのみんなの方を向き直る。ポジティブを心がけて、明るい声を意識して話し始めた。



「みなさん、知っている通り、二年生は演劇と決まっています。まずは演目を決めたいと思います。たくさん、意見を出してください」



 真っ先にクラスでもお調子者の小峰くんが手を上げた。



「はい! オリジナルの劇がいいと思う! すごくコメディ意識してさ。会場を大爆笑させようよ!」



 クラスでも「いいね」という声がする。確かに楽しそうだけれど、すごく大変そうだ。自制しないといけないところはしないといけないと思う。



「えっと、いい案だけど。それだと脚本を書く人だけにすごく負担がかかっちゃうんじゃないかな。それよりも、大体あらすじが決まっている演目にして、衣装や演技に力を入れるの」



 わたしの意見に浅野くんも賛同してくれる。



「うん。準備も一か月ちょっとしかないし、省ける手間は省いて、みんなで力を入れるところを増やそう」



「えー。じゃあ、笑えるやつにしてよ」



 ちょっと不服そうだけど、小峰くんも納得してくれた。



「うん。例えばどんなの?」



 クラスから色んな演目が出て来る。



 白雪姫に、シンデレラ。ロミオとジュリエット。浦島太郎に桃太郎。シェイクスピアのハムレットなんて、難しそうなものも出て来る。



 AIのジニアスは具体案を出すのが得意だ。まるで、たくさんのジニアスと話しているような気分になって来る。



 たくさん出て来た中から、多数決を取った。黒板に投票した紙を一枚ずつ集計していく。



「では、うちのクラスの演劇はオズの魔法使いに決定しました」



 主役はドロシーだけど、他にも案山子やブリキの木こり、ライオンと主役級の配役がたくさんいて負担が分散されることが決め手になったみたいだ。



「あとは、脚本の係だけ決めておこう」



 これは文芸部の神崎さんが積極的に手を上げてくれる。



 文化祭の準備は順調にスタートした。




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