第三章 運命の刻限

  夜が明け、東の空が淡く染まる。差し込む陽光が二人の足元を照らしていた。


「この丘陵地帯を抜けると、ミストヘイブンが見えてくるな」


「そうね。来るときは運悪く盗賊と遭遇してしまったわよね……。今度は出会わないことを願いたいわ」


 リーナはやれやれといった様子で首を横に振る。


「同感だよ。あのときは冷や汗ものだったからね」


 リーナの言葉にアレンも苦笑する。


「見て、これ。珍しい薬草よ。『月影草』って言って、夜になると花が光るの」


 アレンも足を止め、その小さな白い花を覗き込んだ。


「へえ、そんな不思議な花があるんだ。知らなかったよ。リーナは本当に博識だな」


「これでも学者だもの」


 リーナは少し得意げに微笑んだ。


「でも、実際にこうして実際に見るのは初めてよ。書物だけじゃ分からないことも多いのよ」


 アレンはその言葉に頷きながら、小さなナイフを取り出した。


「持って帰るか?」


「ええ。でもナイフはしまってくれない?根を傷つけないように採取しないといけないの。適当に摘むと枯れてしまうのよ」


 リーナは慎重に月影草を掘り起こし、丁寧に布に包んだ。


 二人は再び歩き出しながら話を続けた。


「そういえば、アレンが錬金術を学ぶきっかけって何だったの?」


「僕の師匠が村に来たことがきっかけだったな。オーウェンって言うんだけど、神殿の調査に来ていてさ。そのときにたまたま、僕が目を付けられたって感じかな」


「それで、錬金術を?」


「兄さんを救える可能性があるなら、藁にも縋りたい思いだったんだよ。まあ、興味もあったけどね。でも、師匠に教えてもらっているうちにどんどん奥深さに引き込まれてさ」


「良い師匠に出会ったのね」


「ああ、最高の師匠だよ。リーナはどうなんだ?学者を目指した理由って」


「両親のこともあるんだけど、私は……知りたかったの。世界がどう成り立っているのか、人が何を求めて生きているのか。昔から本が好きだったから、自然と知識を追い求めるようになったのかもしれないわ」


「そうか。なんか、リーナらしいね。僕も頑張れば学者になれるかな?」


「アレンはまず本を開くところからね……」


 二人の間に笑いが起きる。


 少しずつ霧が立ち込め、ミストヘイブンの入り口が見えてきた。


「さあ、もうすぐミストヘイブンよ」


 リーナが前方を指さした。


「ああ、戻ったら次の目的地を考えよう」


「ええ。まずは情報を集めましょう。以前気づかなかった、何かしらの手がかりがあるかもしれないわ」


「確かにそうだね。今はリーナと一緒だから新しいことに気付けるかもしれないな」


 村の門をくぐると、ひんやりとした空気が肌を撫でた。何かが違う。ここは本当に、ミストヘイブンなのだろうか。


 アレンは肩にかかる霧を払いながら、村の様子を見回した。


 「妙な感じがするな……」


 リーナもまた、その雰囲気に違和感を覚えたのか、無意識に口元を引き結んでいる。


 村は、どこか時が止まったような雰囲気を漂わせていた。石畳の道は綺麗に整えられているが、家々の壁には苔が生えている。


「何か、ちぐはぐだな」


 農作業をしている男たち、洗濯をする女たち、遊ぶ子供たち。彼らは日常を過ごしているように見える。だが、その表情はどこか作られたような笑顔が張り付いていた。


 村人の一人が二人の存在に気づくと、すぐに駆け寄ってきた。


「旅の方とは珍しい……ようこそ、ミストヘイブンへ」


 柔和な笑顔を浮かべる中年の男だった。背は低く、丸々とした体つきをしている。頭巾を深く被っているせいで、目元が影になり、表情が読み取りづらい。


「昨日もお世話になったんです。昨日と少し雰囲気が違うような気がするんですが、何かありました?」


 アレンが尋ねると、男の顔から笑顔が消え、一瞬真顔になる。ぎょろりとした目がアレンを見つめるが、すぐに元の表情に戻った。


「そうだったのですね。この村は何も変わりませんよ。お客人の気のせいでは?」


 続けて、男の声音がわずかに低くなる。


「忠告です。ここでは、あまり過去の話をしない方がいいでしょう。以前のあの男も……」


 リーナが訝しげに眉をひそめる。


「どういう、意味?」


「いえ、話せば話すほど村を出にくくなると言われているのです」


 男は軽く肩をすくめるが、冗談めいた表情ではない。


「迷信のようなものですよ。だから、皆あまり自分の昔のことを話さないのです」


 不自然だった。旅人に対して丁寧すぎるほどの対応、そしてわざわざ「過去の話をしない方がいい」と忠告するあたり、何かを隠しているようにしか思えない。


「変な話だな」


「とりあえず、お邪魔させてもらいましょう。用心するに越したことはないけど、ここに居てもどうにもならないわ。情報を集めるいい機会よ」


 リーナの言葉に頷き、村の奥へと進んで行く。


 奥へ進むに連れ、違和感はより強くなる。どの家も住みやすそうに整えられているが、外にはほとんど私物がない。物干し竿に服がかかっているのがちらほら見える程度だ。


 この村全体が、舞台のように感じられる。


「まるで、人が住んでいるふりをしているみたいね……」


 リーナがぽつりと漏らす。アレンも同じことを感じていた。だが、その思考を遮るように、一人の老婆が声をかけてきた。


「おや、旅人さんかい?」


 老婆は穏やかな笑顔を浮かべながら言った。アレンは困惑した表情を浮かべる。


「えっと、昨日お会いしたと思うのですが」


「あたしゃあ、あんたとは初めて会ったと思うが。それは本当に私だったのかねえ?」


 老婆はにやりと笑いながら首を傾げる。


 リーナはアレンの様子がおかしいことに気付いた。その上で、老婆に丁寧に挨拶をし直した。


「お邪魔します。私たちは古代の錬金術について調べているのです。この村に何か残されていると聞いたのですが、ご存じないでしょうか?」


「それはそれは。旅の方、さぞお疲れでしょう。どうぞ、お茶でも飲みながら」


 老婆はにこやかに手招きをした。彼女の家は、他の家と同じく、外観は古びているが中は驚くほど整然としていた。


 アレンはリーナに小声で話しかけた。


「おかしいんだ。確かに、このお婆さんとは会ったことがあるはずなのに」


「私も何か違和感は感じているわ。理由があるのかもしれないから、注意深く観察してみましょう」


 二人は招かれるままに家へと入り、出されたお茶を口にする。どこか甘い香りがする、初めて味わう不思議な風味だった。


「珍しいお茶ですね」


「この村でしか採れない薬草を使っているんだよ。他所では飲めないよ」


「そうなんですね」


 リーナは湯飲みを見つめながら、何かを考えているようだった。


 家の外から子供の笑い声が聞こえてきた。しかし、奇妙だった。笑い声は響いているのに、足音がしない。


 アレンとリーナは視線を送り合い、警戒を強める。老婆はその視線に気づいたのか、微笑を保ったまま言った。


「この村では、過去を気にするよりも、今を楽しむのが一番だよ。過去なんて、忘れた方が楽だろう?」


 老婆のその言葉には、いったいどのような意味が込められているのだろうか。彼女がその後、過去について語ることはなかった。


「さて、お二人は古代錬金術について聞きたかったのだろう?それなら、村の中央にある賢者の像を見るのが良いだろう」


 老婆に連れられ、二人は古びた石像の前に到着した。像の台座には複雑な古代文字が刻まれていた。老婆が説明を始める。


「この村に古くから伝わる賢者の像だよ。台座に刻まれた文字は、昔々にこの村に伝わった知恵の言葉さ。古の錬金術師ヘルメス様が残した言葉が、あの文字の中に隠されているんだよ。だがね、残念ながら私たちには読むことができんのだよ」


 複雑な古代文字を前に、リーナの目が輝く。


「アレン、少し時間を頂戴!」


 リーナは賢者の像の前に立ち、古代文字の解読に取り掛かった。少しずつその意味を紐解いていく。


「ここには『永遠を求めるな』という言葉が書かれているわね」


「なるほど。ということは、やっぱりヘルメスの言葉で間違いみたいだな」


「そして、この部分が手がかりになると思うの。『かの鳥時を超えるとき、さも美しく鳴くものだ』という一文よ」


「かの鳥って?」


「それは、私にも分からないわ……」


 二人の困った表情に、老婆が静かに話し始めた。


「そんなことが、この像に書かれていたのかい。それじゃあ、ヘルメス様は伝承として、この村に知恵を残したということじゃな。ありがたいことだ。その言葉の意味を知りたければ、村の集会所へ行くといい。長老たちが古くからの伝承を語ってくれるだろう」


 アレンとリーナは老婆に礼を言い、集会所へと向かった。そこでは、数人の長老が寄合を開いていた。


「こんな年寄りの集まりに顔を出して、どうしたよ。若い旅人たちよ」


「村の中央にある像に書かれた、古代文字を解読しました。その中に、『かの鳥時を超えるとき、さも美しく鳴くものだ』という記述があったのですが、かの鳥とは一体何かを教えていただきたいんです」


 アレンの言葉に、長老たちの表情が真剣なものになる。


「ほう、あれを解読したか……。わしらの村に伝わる伝説を聞きたい、というのか」


 二人が頷くと、長老は静かに語り始めた。


「遥か昔、この地に一羽の白鳥が舞い降りたそうだ。その白鳥は時を超える力を持っていたそうでな。羽ばたくたびに季節が変わり、年月が流れたらしい」


 別の長老が続ける。


「その白鳥の力は、永遠の輪と呼ばれる古代錬金術の産物を飲み込んだ。それ以来、そのような時を超える力を身に付けた」


 永遠の輪という言葉に、アレンとリーナは息を呑んだ。


「白鳥は美しい声で鳴いていたそうでね。その歌声は時の流れそのものだった。でもね、その力と美しい声ゆえに、多くの者がこの白鳥を求めたんだ」


 長老たちは交代で語り継いでいく。


「永遠の時を手に入れようとする者、過去を変えようとする者、未来を知ろうとする者。しかし、白鳥の力を求め続けた者たちは、皆、悲劇的な結末を迎えた」


 アレンが恐る恐る尋ねる。


「悲劇的な結末というのは?」


「さてな。時を超えようとした者は、過去と未来の狭間に囚われ決して戻れなかったらしいが、わしらに語り継がれているのはここまでじゃ」


「その白鳥は、今はどこにいるのでしょうか」


 長老たちは顔を見合わせ、一人が答えた。


「そんなものは誰も知らん。白鳥が本当にいるのかも、誰にもわからんよ。ある者は白鳥が姿を消したと言い、ある者は今も時を超え続けていると言う。あくまで伝承じゃよ」


 アレンが思わず口にした。


「『永遠を求めるな』という言葉は、この伝承に関係しているのでしょうか」


 長老たちが深く頷く。


「そうだろうな。白鳥の伝承から、永遠を求めることの危険さは十分伺える。そんなものよりも、今をしっかりと生きねばならんということだと、わしらは解釈しておるよ。それでも永遠の輪を求めるというのなら、村の外れにある神殿に行ってみなさい」


「神殿か。そこには何があるんだろう?」


「白鳥について、手がかりが何か見つかるかもしれないわね」


「ありがとうございます。神殿に向かってみます」


 二人は、村の神殿という新たな情報を得て、集会所を後にした。


 村の神殿は、長い年月を経てなおその威厳を保ち続けていた。蝋燭の明かりがゆらめく中、アレンとリーナは神殿の奥へと進んでいた。


「誰もいないみたいだね」


「そうね。アレン、あそこに何かあるわ!」


 中央に鎮座するのは、一対の鏡。枠には文字が刻まれている。


「心の鏡……」


 リーナが台座の文字を読み取った。心の鏡と呼ばれる試練。それは、己の内面と向き合うための神聖な儀式だった。


「ここに立てばいいのかしら」


 リーナが鏡の前に立つ。アレンも続けてリーナの隣に並んだ。鏡面が波紋のように揺れ、光が広がる。平衡感覚が狂っていく。


 そして……鏡の中から彼ら自身が現れた。


 もう一人の自分は、同じ顔をしているのに、その視線は冷ややかだった。微笑みもせず、ただ静かにこちらを見つめている。


「お前は……僕なのか?」


 もう一人のアレンは頷き、ゆっくりと口を開いた。


「お前は、自分に才能があると思っているのか?お前は弱い人間だ。僕はお前自身だから、そのことはよく分かっている。学院に通っていたときを思い出せ。周りからは実技の才能があると持て囃されていたが、心の中では自分の限界を感じていただろ。これ以上、錬金術を極めるなんて無理なんだ。努力したって、兄さんは取り戻せないし、僕たちは一握りの天才には敵わないんだ。そうだろう?」


 胸の奥がざわめく。心のどこかで、難度も考えたことのある問いだった。それを自身の口から聞かされると、剥き出しの真実を突きつけられたような気がした。


「そっ、そんなこと!」


 アレンは無意識に否定した。だが、鏡の中の自分は淡々と続ける。


「あるよ。お前は怖いんだ。自分には価値のない人間だとばれてしまうと、リーナだって離れて行ってしまうかもしれない。お前は誰かに縋っていないと生きられない。弱い人間なんだよ」


 アレンは唇を噛みしめた。何度も努力を重ねてきた。だが、失敗したとき、思うように成果が出ないとき、『自分は才能のある錬金術師なのか?兄さんを取り戻すだけの実力があるのか?』という問いが、心の奥深くに堆積していった。


 アレンは頭を抱え蹲ってしまう。


 隣では、リーナもまた、自分自身と向き合っていた。


「あなた、人とつながることが怖いんでしょう?いつも一人でいることに慣れてしまったものね。良かったわね、アレンという仲間ができて。でも、彼は本当にあなたのことを信頼しているのかしら?陰ではあの子たちみたいに悪口を言っているかもしれないわ。ねえ、そうじゃないとあなたは言い切れるの?」


 もう一人のリーナが、鋭い眼差しを向けている。リーナは一瞬、言葉を失った。そのようなことは無いと思いながらも、リーナの心の中に不安が押し寄せてくる。


「アレンはそんなことしない。彼は、彼はあの子たちとは違うの……」


「本当に?本当にそう思っているの?他人が何を考えているかなんて分からないわ。あなたは頑固だから、自分の意見を曲げないでしょうね。でも、もう一度あなたに問うわ。アレンは優しいから何も言わないけど、心の中ではどう思っているかしら。アレンはあなたと関わることで嫌な思いをしていないかしらね。絶対に大丈夫なんて言えるかしら?」


 リーナの目から涙がこぼれる。


 喉に何かが詰まったような感じがして、声を出すことが出来ない。


 そんなとき、リーナの視界にアレンの姿が飛び込んだ。アレンも自分と同じように苦しんでいる。早く絶望の淵から救い出さなくては。リーナの心に強さが戻った。


「私は、確かに人が怖い……。でも、変わらなきゃいけないの。もちろん恐怖はあるわ。でも、アレンとの旅は、私にとってはすごく心地良いの。私は心を開かなきゃいけないのよ!」


 力強い言葉に、リーナの前に浮かび上がるもう一人の自分が霧散する。リーナは、止まらない涙を拭いながら、アレンの下に駆け寄った。


「アレン、聞こえる。あなたの弱さは、あなた自身が抱えていてもいいものなのよ。周りのことを考える優しいあなただから、自分の無力さを感じることがあると思うわ。でも、私たちは仲間なのよ。足りないところは補い合っていけばいいの。自分ですべてを解決する必要はないのよ」


「頼る?」


「そうよ。あなたが私を思ってくれるように、私もあなたのことを思っているわ。あなたは一人じゃないの!」


「僕の弱さは、自分の限界や無力さじゃなかったのか。周りに頼ることができないことが、自分の一番の弱さだったんだ」


 アレンが自分の弱さを認めると、目の前に浮かびもう一人のアレンが霧散する。


 二人は目を合わせた。言葉を交わさなくても、互いに何かを感じ取っていた。試練を乗り越えられたかは分からない。しかし、彼らの中には確かに変化があった。


 神殿の扉が静かに開いた。試練を終えた彼らを、爽やかな風が優しく迎え入れた。


「行こうか」


 アレンの言葉に、リーナは静かに頷いた。



 試練を終えた後の身体は重く、心にはまだその余韻が残っていた。それでも、二人はゆっくりと村へと戻る。


 神殿から戻った二人は、その足で集会所に向かった。長老たちはその帰りを待ち侘びていたかのように、穏やかな笑顔で迎え入れた。


「どうだったよ。何か発見はあったかい?」


 長老の一人が尋ねた。


「はい。私たちは、それぞれに抱える葛藤と向き合うことになりました。でも、お互いの存在が支えになったんです。自分たちの成長も実感できましたし、お互いの存在がいかに大切かということを実感しました」


 長老たちは微笑みながら二人を見つめた。


「君たちが覗いたのは、心の鏡と呼ばれるものだ。旅人たちよ。自分自身と向き合うことで、大切なことを学んだようだな。互いの存在がいかに大事か、そして自己を乗り越える力を君たち自身が持っているということをな」


 長老の一人が立ち上がった。


「君たちの旅はまだ始まったばかりじゃ。ミストヘイブンの先には、時間の神殿と呼ばれる大きな神殿がある。そこに、君たちの求めるヒントがあるかもしれんぞ」


「時間の……神殿」


 アレンが呟く。


「時間と名がつくところが怪しいわね。そこに永遠の輪についての手がかりがあるかもしれないわ」


 アレンとリーナの嬉しそうな様子を、長老たちは微笑ましく見守った。


「どれ。わしらも君たちの旅の支度を手伝ってやろう」


 長老たちに手伝ってもらい、旅の準備が着々と進んで行く。


 村の出口に着くと、多くの村人たちが見送りに集まっていた。長老の一人が笑いながら口を開く。


「お前たちはもう、ここには戻ってきてはいけない……」


 酷く違和感がある。どこか突き放すような言葉。別れのために集まってくれたとは思えない。


「どういう、ことですか?」


 アレンが問いかける。だが、静かに首を振るだけだった。


 若者の一人が口を開いた。


「これから先、お前たちがこの村を思い出すことがあっても、もう二度と戻ってきてはいけないんだ」


「それは、なぜ?」


 リーナが鋭い視線を向ける。誰も、答えなかった。


 村人たちの表情はどこか曖昧だった。今目の前で起きていることが、すでに遠い記憶になりつつあるかのように。


「長老……あなた、私たちの名前を……」


「……そう、だったな。お前たちの名前は……」


 長老の口が動く。しかし、彼は二人の名前を呼ぶことができなかった。


 村人たちは、何かを思い出せないことに自分自身が困惑しているようだ。


「お前たち……何という名だったか」


 身の毛がよだつ。


「まるで……僕たちのことを忘れようとしているみたいだ」


 村長たちは、二人の名前を集会所で耳にしている。しかし、その名前を口にできない。試練を終えたことで、何かが変わってしまったのだろうか?


 ……いや、違う。


 彼らは忘れようとしているのではない。忘れなければならないのだ。


 それを証明するかのように、村人の中にはすでにアレンやリーナの顔すら思い出せない者が出始めていた。


「君たちは?」


「俺たちはなぜ、ここにいるんだ?」


 それは、あまりに異様な光景だった。ほんの数分前まで笑い合っていたのに、まるで初対面のような表情を浮かべている。


 この村には、何かがある。この村の人々は……。


「行こう、リーナ」


 アレンは強く言った。ここにいてはいけない。このままこの場にとどまれば、彼ら自身もまた、何かを失うような気がした。


 リーナもすぐに頷いた。


「ありがとう……さようなら」


 最後にそう告げると、二人は村の外に出た。


 振り返ると、村人たちは誰もいなかった。しかし、背後で村人たちの声だけが聞こえる。


「誰だ?」


「今、誰かがいたような……」


「いや、気のせいだろう」


 やはり、記憶が薄れている。穏やかな村の風景が、どこか現実感を欠いたものに思えた。


「不思議な村、だったわね」


「……ああ」


 村を離れた二人は、無言のまま森の中を進んでいく。先ほどまでの出来事があまりにも不可解で、互いに考えを巡らせるばかりだった。村人たちは、本当に二人を忘れてしまったのだろうか。それとも、何かの力によって、忘れさせられたのか……。


「……リーナ、さっきのことだけど」


「私も考えていたわ。あの村の人たち、私たちのことを記憶から消そうとしていた。いいえ、あれは消えかけていたように見えた」


「やっぱり、何かの影響を受けていたのか……」


 二人が思案を巡らせていたその時だった。


 カサ……


 奥の茂みの中で何かが動いた気配がした。二人は咄嗟に身構える。足を止め、視線を茂みに向けた。


「誰だ?」


 アレンの声に応えるように、影が一つゆっくりと姿を現した。


 黒いローブをまとい、フードを深く被った男。夜の闇に溶け込むようなその姿は、不思議と威圧感を与えなかった。しかし、どこか得体の知れない雰囲気を漂わせている。


「……興味深い」


 男は静かに呟いた。


「何がだ?」


 アレンが問いかけると、男は薄く微笑む。


「お前たちの歩む道が、揺れ始めたな」


「どういう意味?」


 リーナが警戒しながら訊くと、男はゆっくりとフードを外した。


 逆立った銀髪に、鋭くもどこか優しげな紫の瞳。年齢は見た目では測れないが、三十代前後に見える。その瞳の奥には、長い時を見つめてきたような奥深さが宿っていた。


「ザック・クロノスだ。旅の道連れとして、しばらく同行させてもらいたい。ようやく、お前たちに出会えたんだ」


「旅の道連れ?それにようやくって何だ。俺たちは今初めて会ったところだろ」


「お前たちにとっては、ついさっきの出来事でも、俺にとってはずいぶん昔のことなんだよ」


 アレンは剣を下ろさずに男を見据えた。


「勝手に決めないでくれる? 私たちは、目的があって旅をしているの」


 リーナの言葉に、ザックは少し目を細めた。


「だからこそ、俺はここにいるんだ」


 理解できない言葉に、二人は困惑する。アレンとリーナは、改めて目の前の男を注視した。彼は、まるでこの出会いが必然であるかのように振る舞っている。


「お前たち、気づいているだろう? ミストヘイブンで起きた異変の正体に」


 ザックの言葉に、二人は無言になった。


「記憶というのは、時とともに消えるもの。だが、あの村で起きたことは普通の忘却ではない」


「どういう……ことだ?」


「お前たちの存在は、村にとってなかったことにされようとしていた、ということだよ」


 言いながら、二人の顔をじっくりと覗き込む。


「それは、どういう仕組みで?」


 ザックは微笑んだ。


「時間の流れは、人々の記憶にも影響を与える。だが、それは自然な摂理の中で起こるべきものだ。お前たちのケースは違う」


 彼は、夜空を見上げるようにして言葉を続けた。


「何者かが、その村の時間を操作した。あるいは、特定の記憶を切り取ったと言うべきか……」


 アレンとリーナは驚愕する。


「だが、今はそれを深く考えるときではない。お前たちは先へ進むんだろう?俺はその手助けをするためにここにいる」


「手助け?」


「そうだ。俺は未来を垣間見ることができる。時を渡る予言者だからな」


「未来を?」


 ザックは静かに目を伏せた。


「すべての未来が見えるわけじゃない。だが、お前たちの旅路がどんな道へ繋がるのか、その影なら視える」


 未来を視る男。彼はいったい何者なのか。


「君の言葉を信じていいのか?」


「信じるかどうかは、お前たちが決めることだ。分からないことの方が多いぐらいだからな。だが、今からお前たちが、時間の神殿に向かおうとしていることぐらいはわかるぜ」


 ザックの胡散臭さに、アレンとリーナは躊躇した。しかし、ザックの存在が自分たちの旅に役立つかもしれないとも考えた。彼を信頼するのはまだ早い。だが、今は情報が必要だ


「分かりました。一緒に行きましょう」


「私もそれでいいわ。でも、お互いに信頼できるか確かめながらね」


 ザックは満足げに頷いた。


「うんうん。賢明な判断だ。そういうの、俺は嫌いじゃないぜ。じゃあ、出発しよう。時間の神殿が、俺たちを待っている」


 こうして、アレンとリーナの旅に新たな仲間が加わった。


 焚き火の灯りが静かに踊る。辺りは夜の帳がすっかり下りた。三人は少し開けた場所を見つけ、そこで野営をすることにした


 火を囲んで座った三人は、燃え続ける炎を眺める。ザックが口を開いた。


「せっかく一緒に旅をする仲間になったんだ。交流は必要だろう?俺はお前たちのことをもっと知りたい」


 アレンとリーナはこれまでの旅路を簡単に説明した。ヘルメスの手記のこと、知恵の迷宮での出来事、そしてミストヘイブンでの体験を語った。


「なるほどな……」


 ザックは興味深そうに聞いている。


「お前たちはどちらも大変な思いをしてきたんだろう、二人が出会って、一緒に旅をすることで、少しはその苦労も報われているんじゃないか?」


 二人は顔を見合わせ、ザックの言葉に頷いた。


「ザック、あなたのことも聞かせてください」


「リーナもアレンも、敬語なんか使わなくていい。俺はお前たちより年上だが、一緒に旅する仲間だと思ってくれれば嬉しい」


「わかったわ。それじゃあザック。改めて聞かせてもらってもいい?」


 ザックは遠くを見つめ、少し悲しげな表情を見せた後、静かに語り始めた。


「俺はな、この能力のせいで家族から追い出されたんだ。未来が見えると言っても、それを変える力が俺にあるわけじゃない。でも、家族は俺を恐れた。そりゃあそうさ。得体の知れない力なんて、恐怖しかないだろうからな。まあ、信頼していた家族から厄介者扱いされると、さすがに堪えはするさ」


 アレンとリーナは驚きの表情を浮かべた。ザックは少し笑って話を続ける。


「それ以来、自分の力をは何なのか考えるようになった。それで、一人で旅を続けてきたんだ。そこで見つけたのがお前たちさ。永遠の輪と俺の能力、何か関係があるんじゃないかって思ったわけだ」


「そう、だったのか。ザック。僕たちは、それぞれに大きなものを抱えていると思う。一緒に旅をすれば、きっとザックにとっての何かが見つかるはずだ」


「そうね。私たち三人力を合わせれば、きっと永遠の輪の謎にきっと迫れるわ。それが、ザックの能力を解き明かすことに繋がるかもしれないわね」


 二人の言葉にザックは微笑んだ。


「ありがとう。正直、久しぶりに誰かと心を開いて話せた気がするよ。一人は辛かった。未来を垣間見て、お前たちなら、俺を受け容れてくれるんじゃないかって、そんな気がしたよ」


 火にくべていた簡素な鍋から、ハーブの香りが漂ってきた。鍋の中ではスープが静かに煮立っている。


「なあ、ザック。さっき言っていた未来のことだけど……」


「未来なんてものは、あってないようなものだ。だが……俺が見たものは、そう遠くないうちに訪れる一つの可能性であることは確かだ」


 そう言いながら、ザックは枝を火に投げ込んだ。リーナがスープをかき混ぜながら、わずかに視線を向ける。


「それって、具体的にはどんなものなの?」


 彼は少し困った顔をした後、口を開いた。


「赤い月が浮かんでいた。その下で……お前たちは別々の道を歩いていた」


「僕たちが、別々に?」


 ザックは焚き火をじっと見つめている。


「未来は決まっていないと言っただろ?それは本当だ。だが、見えたものが何かの兆しであることは否定できない」


 リーナは手の中の木杓子を握りしめた。


「私たちの選択次第……ってこと?」


「ああ。だが、選択肢が多いほど人は迷うものだ」


 一瞬の間が空く。


「……そんなもの、今考えたって仕方ないだろ!」


 アレンが少し乱暴に言った。


「未来がどうとか、お前たちは気にするのか?今一緒に旅をしている。それでいいんじゃないのか?」


「そうね。今は、信じるしかないもの」


 ザックはそんな二人を優しく見つめる。


「そういう考え方も悪くない。まあ、どう転ぶかは、これから次第ってことさ」


 リーナが鍋からスープを掬い、器に注いだ。温かな湯気が立ち上る。


「とりあえず、食べましょう。明日も長い道のりが待ってるわ」


 アレンは手に取ると、一口すする。ハーブの香りが心を落ち着かせた。


「うまい」


 そう呟くと、リーナは少しだけ得意げに微笑んだ。


 スープの湯気は夜空へとゆっくり溶けていく。その先にあるのは、どんな未来なのだろう。今はただ、目の前の温もりだけを信じたかった。


 夜が明け、三人は野営地を後にした。


 森を抜けると、眼前に美しい谷が広がっていた。緑豊かな木々。鮮やかな花々が色とりどりに咲き乱れ、谷底にはパステルブルーの清流がキラキラと光を反射して流れている。


「わあ!二人とも見て。とても素敵な景色よ」


 リーナが感嘆の声を上げる。


「確かに見事だな。村での暮らしが長かったから、こんな景色見たことないよ」


「俺もだな。色々なところを回ったが、こんな絶景があったなんて知らなかったよ」 


 景色を楽しみながら谷を歩いていると、ザックが遠くを見つめる。


「静かすぎる……」


 ついさっきまで賑やかに鳴いていた鳥たちの声が、いつの間にか止んでいた。


「おかしいな……。お前たち、気をつけろ」


 ザックが二人に注意を促す。程なくして、それまで穏やかだった空気が一変する。


「これは……」


 リーナも異変に気づいたのか、表情を引き締めた。その瞳が鋭く天を仰ぐ。


 雲が、速い。


 灰色の塊が凄まじい勢いで空を覆い、谷間の光を奪っていく。先ほどまで暖かな陽射しが差していたのが嘘のように、空はどす黒い雲で閉ざされていく。。


「嵐が来るわ!」


 リーナが声を上げた。次の瞬間、突風が吹き荒れる。


「くそっ……!」


 アレンはとっさに腕を顔の前にかざした。砂や木の葉が容赦なく叩きつけ、視界を奪う。頭上では木々が軋み、折れそうなほど揺れていた。


「リーナ!」


 振り返ると、リーナは風に煽られながらも、必死に耐えていた。だが、足元の岩が崩れかけているのが見えた。


「危ない!」


 彼女が立っていた場所が、音を立てて崩れ始める。


「あっ!」


 崩落が始まった。


「くそっ……!」


 アレンは迷わず飛び出し、リーナの手をつかんだ。だが、崩れ落ちる岩と土が二人の間に割り込み、腕が弾かれる。


「アレン!」


「リーナ!手を伸ばせ!」


 リーナは必死にアレンの手を取ろうとするが、足場が崩れ続ける。次の瞬間、彼女の身体がふわりと宙に浮いた。


「――っ!」


 アレンは反射的に飛び込んだ。吹き荒れる風と崩れ落ちる土砂の中、彼は迷わず手を伸ばした。


「捕まえた!」


 リーナの手を掴んだ瞬間、全身の力を込める。だが、崩壊の勢いは止まらない。目の前には、谷底へと続く暗闇。


「ちっ……!」


 アレンは咄嗟に岩壁を蹴り、近くの突き出た岩を掴んだ。衝撃で腕が悲鳴を上げるが、歯を食いしばる。


「おい!お前たち大丈夫か!」


「ザック!何とか大丈夫だよ!リーナ、しっかりつかまってくれ」


 リーナはアレンの腕にしがみついたまま肩で呼吸をする。恐怖で手の震えが止まらなかったが、それでも彼の手を離さなかった。


 風が唸りを上げ、折れた枝や岩が落ち続けてくる

「上に戻るぞ……!」


 アレンは片手で岩を登りながら、必死にリーナを引き上げた。指の力が削がれ、腕の感覚が無くなってくる。それでも、決して手を離さなかった。


「あと少しだ!」


 ようやく、手の届く場所に安全な足場が見えた。


「ザック!リーナを引き上げてくれ!」


「任せろ!」


 最後の力を振り絞り、アレンはリーナを押し上げる。リーナがザックに引き上げられた。


「アレン!」


 アレンはザックの手掴み、最後の力を込めて這い上がる。


 ようやく地面に戻ってきた。


 「はぁ……はぁ……」


 アレンは仰向けに倒れ、荒い息を吐く。リーナも横に転がり、肩で息をしながら、空を仰いだ。


「……助かったのか?」


「ええ。ありがとう、アレン!ザックも。二人がいなければ私……」


 危ない状況ではあったが、二人は確かに生きている。嵐は激しさを増すが、今はその事実だけで十分だった。



 見る見る天気は崩れていく。雨が激しく打ち付け、空を引き裂くように雷鳴が谷間にこだまする。視界が覆われ、前を行く仲間の姿すら見失いそうだ。


 三人は足早に進もうとしたが、豪雨と強風が彼らを阻む。突然、雷鳴が轟き、近くの大木に落雷。木が倒れ、道を塞いだ。


「危ない!」


 ザックの声に反応し、二人が足を止める。


「お前ら、大丈夫か」


「ああ、間一髪だったよ」


「ありがとう、ザック」


「どういたしまして。さあ、行こうか」


 雨水が地面に溜まり、土砂崩れが起こる。足元が不安定になる中、三人は互いの手を取り合い、バランスを保つ。


「お前たち、あそこに岩の下を見てみろ!」


「洞窟があるわ。あそこなら少しは雨風を凌げそうね!」


「よし、急ごう!」


 三人は洞窟へ駆け込んだ。洞窟の奥へ進むと、雨音と風の轟音が遠のき、静けさが広がった。


 「はぁ、はぁ……助かった」


 リーナが壁にもたれる。髪はびしょ濡れで、額にかかった前髪が滴を落としていた。


「二人とも大丈夫か?」


 ザックが周囲を見回しながら問いかける。


「なんとか……」


 アレンが息を整えながら答える。


 リーナも息が整ったのか、ゆっくりと奥へ歩みを進める。


「外に出るのは危険ね。ここで一晩を過ごしましょう」


 誰も異論はなかった。外では、まだ風が岩肌を叩きつけるように吹き荒れている。


「火を起こすわ」


 リーナが濡れた服を絞りながら、持っていた火打ち石を取り出した。アレンはそれを見て、濡れていない乾いた木の枝を探そうと周囲を照らす。幸いにも、洞窟の奥に枯れ枝がいくつか落ちていた。


「リーナ、これが使えそうだよ」


 アレンが差し出した枝を受け取り、リーナが火打ち石を打ち鳴らす。何度か火花が散り、やがて小さな炎が灯った。温かな光が洞窟の内壁を淡く照らし、湿った空気の中にほのかな暖かみが広がる。


「ふぅ……ようやく一息つけるな」


「お前たち、夜の番は年長者の俺がしてやる。いずれにしても、嵐がおさまらんことにはどうしようもない。しっかり寝ておけ」


 ザックの気遣いに感謝をし、二人は眠りについた。


 翌朝、アレンとリーナが目を覚ました。


「おう、起きたか」


「ありがとうザック。音が止んだわね。嵐が収まったのかも知れない」


 リーナが洞窟の入り口へと近づく。


「外に出てみよう」


 三人が洞窟の出口へと進むと、外には青空が広がり、太陽の光が降り注いでいた。嵐の名残として、周囲には倒れた木々が散乱している。


「見て、空がこんなに青い」


「そうだな。あの嵐が嘘みたいだ」


「晴天で気分がいいと思うが、まずは状況を確認しよう。次の目的地である時間の神殿への方向を確認しないとな」


 ザックが地図を広げる。


「これが今俺たちがいる位置だ。ここから時間の神殿まではもう少し険しい渓谷を進む必要がある。危険な場所もあるだろうから、注意して移動しよう」


「分かった。助かるよ、ザック。無理のないペースで行こう」


「そうね。嵐で崩れている道もあるかも知れないから、進みながら判断していきましょう」


「よし、それじゃあ出発だ!」


「うん、行きましょう!」


 三人は洞窟を後にし、再び時間の神殿を目指した。嵐の影響で倒木が道を塞ぎ、泥濘が足を取る。滑り落ちそうになりながらも、三人は足を進め、助け合いながら時間の神殿に辿り着いた。


 神殿の中は異質な雰囲気があった。どうやら、特定の法則に縛られていないようだ。壁に刻まれた模様は、見る度に変化し、一定の形を保たない。生き物のように脈動し、こちらを観察しているかのようだった。


「気を抜くなよ。ここは、俺たちが知っている時間の流れとは違う」


 ザックが注意を促す。普段と変わらぬ冷静さを保っているが、警戒心が増しているように見えた。


 リーナが足を止め、壁に触れる。


「これは、壁自身が記憶を留めているのかしら」


 指先が触れると、壁の模様が波紋のように広がり、一瞬のうちに光景が変わった。


 それは、かつての自分たちの姿だった。


 そこには、学院の生徒だった頃の自分がいた。錬金術の技術も未熟で、学友たちとの絆も強くなかった頃の自分。


「昔の僕?」


 声を出すと映像は霧散し、再び石壁の模様が元の不規則な形へと戻る。


「過去の映像? いや、それだけじゃないな」


 ザックが言葉を選びながら続ける。


「ここでは、時間が一つの線ではなく、絡み合った糸のようになっているんだ。アレン、今の映像に違和感を感じなかったか?」


「そういえば、確かに昔の僕だったけど、一部は記憶と違ったような……」


「やはりな。あれは、歴史の可能性だ。そうなっていたかもしれないという可能性が混ざって写し出されているんだろう」


 不思議な感覚を覚えつつ、神殿の奥へ進むと、やがて広間の入り口にたどり着いた。そこには、一人の神官が無表情で待ち受けていた。目は焦点が合っておらず、この世の人間とは思えない様相だった。異質としか言いようがない。


「お前たち、この神殿に何の用だ」


「俺たちは、永遠の輪に関する手掛かりを求めてこの神殿に来た。ミストヘイブンの村で、神殿が関係があるのではないかという情報をもらい立ち寄ったんだ」


 神官はザックの返答に頷いた。


「あの村からの招待者たちか」


 三人の前に浮かび上がるように光が現れた。その光はそれぞれの心の奥底に潜む葛藤を映し出していた。


「お前たちは、時間の流れの中で自分を見失わずにいられるか?」


 神官がそう言った瞬間、アレンの視界が暗転する。光が戻ると、彼は見覚えのある場所に立っていた。


「ここは……」


 それは、彼が幼い頃に過ごした村の広場だった。懐かしい風景が広がる中、一人の少年がいた。


「まさか……僕?」


 目の前にいるのは、まだ何者でもなかった頃の自分。兄がいなくなる前の、夢見がちな少年だった頃の姿。


 少年は気づいたように顔を上げ、アレンを見つめた。


「お兄ちゃんは誰?村の外から来たの?」


 その問いに、アレンは一瞬答えに詰まる。過去の自分が、まるで別の存在のように感じられた。


「僕は……」


 答えようとすると、時間が引き裂かれるような感覚が訪れ、視界がぐにゃりと歪む。


 気づけば、アレンは再び神殿の中に立っていた。


「試練は、すでに始まっている」


 神官が静かに言う。


「この先、お前たちは幾度となく時間に試される。過去に囚われるのか、それとも未来へ進むのか。選ぶのは、お前たち自身だ」


 アレンは仲間たちと目を合わせる。


「……行こう」


 そして、彼らは時間の神殿の奥へと足を踏み入れた。


 長い回廊を行く中で、ザックが足を止め周囲を見渡した。


「どうやら、この先が試練の場らしいな」


 ザックの言葉に、二人も警戒を強める。目の前には重厚な扉があり、そこには古い文字が刻まれていた。リーナがそれを読み取る。


「『己が選ぶ道を見極めよ』……この扉の先で、何か試されるわけね」


 ザックが扉に手をかけ開いた。眩い光が広がる。


 三人が足を踏み入れると、扉が静かに閉ざされた。背後にあった光が消え、視界が闇に沈む。不意に重力が歪んだような感覚が襲い、空間が捻じれた。


 アレンは足元の感覚を失ったかと思うと、村の広場に戻っていた。アレンの背中を冷たい汗が流れる。遠くにそびえる黒い影が、ゆっくりとこちらに近づいて来た。


「何だ、あれは?」


 目を凝らして黒い影を凝視する。その正体が分かった瞬間、アレンの心臓が跳ね上がった。それは、怪我を負った幼いアレン自身だった。あの日の光景が、まざまざと再現されている。


「やめろ!」


 しかし、声を上げても何も変わらない。村は神殿からの光と揺れで家々が崩れ、幼いアレンが必死に兄を探して走っている。村人たちが、奇異の目でアレンを見る。


 アレンの身体が動かなくなった。恐怖が全身を凍りつかせる。


「お前の罪だ」


 どこからともなく、囁き声が聞こえた。振り返ると、覗き込んでくる幼き日の自分がいた。だが、目の前にいるはずなのに、その表情が読み取れない。


「お前がもっと早く動けば、お前が兄さんの重荷じゃなければ、きっと兄さんはいなくならなかったはずだ」


「そんなことは……」


 否定の言葉が出てこない。自分は何もできなかった。だからこそ……。


「お前だけ、仲間たちと楽しく旅をするのか?お前にその資格はあるのか?」


 矢継ぎ早にが問われる。アレンは何も言い返すことができなかった。


 一方、リーナは別の空間にいた。そこは果てしなく続く書庫だった。本棚の間を歩いていると、次第に知っている本ばかりが並ぶようになった。幼い頃、父に読み聞かせてもらった本、学院時代に必死に学んだ古文書、そして……。


「これは……」


 目の前の本が、一冊の記録に変わった。開いてみると、そこに記されていたのは、学院時代の彼女自身の記録だった。リーナの体が頁の中に吸い込まれる。


 よく見た光景。よく思い出す光景。


「この頃の私は、人と関わることが嫌いだった……」


 顔を上げると、何人かの女学生が近づいて来る。


「あんた、また一人でいるの?陰気な性格だから誰も寄って来ないんじゃないの?」


(放っておいてくれ……)


「ずっと図書館にこもって、優等生ぶって気持ち悪い!自分だけ先生に褒められて気分が良いのかしら」


(私は優等生なんかじゃない。人と違うことの何がいけないの!)


「アレンとザックにだって、媚を売って仲良くしてもらっているだけでしょう?本当に嫌な女」


(もう止めて……。アレンとザックに媚なんて……アレンとザック?)


 学生時代の同級生がアレンとザックの名前を出したことにリーナは違和感を覚えた。


 ザックは奇妙な無音の世界にいた。時間が凍りついたかのように、彼の周囲は完全な静寂に包まれている。しかし、遠くに見覚えのある姿があった。


 幼い頃の自分。孤独な少年が、時間の流れを眺めながら、何もできずに立ち尽くしている。


 少年は振り返り、ザックに問いかける。


「お前は、あの日からまだ何も変えることができていないのか?」


 ザックの胸に、鋭い痛みが走る。


「周りの人間から見るとすごく怖いよな。未来を覗き見るなんて、本当に人間の所業か?だから、家族からも捨てられたんだろう。俺たちは可哀相なやつだ。何も悪いことをしていないのに。でも、人間の恐怖心っていうのはそんなもんだ。アレンとリーナの表情をよく思い出してみろ。本当に、少しもお前に対する恐怖はなかったのか?」


 人に裏切られることを何よりも恐れるザックは、黙って俯いている。


「「「さあ、お前は何を選ぶ?」」」


 その問いが響いた瞬間、三人の試練の世界が交錯した。


「うるせえ!俺は俺の生きたいように生きる。確かに俺は家族から見放されちまったが、別に恨んでいるわけじゃねえ。この能力のことを知れば、そりゃあ怖いだろ。アレンとリーナにしたって、俺にどんな感情を抱いているかなんて分かりゃしない。でもな。付き合いは短くても、俺はあいつらが気に入ったんだよ。それだけは否定させねえ!」


 ザックが力一杯に叫ぶ。その声を聞いたリーナとアレンも呼応した。


「私だって、アレンとザックと旅するのが楽しいの!やっと見つけた仲間なのよ!」


「足りないものを補ってくれる仲間がいる。僕自身が足りない存在でも、前を向いて、自信を持って進んで行ける!」


 三人の強い言葉に、試練の世界が砕け散る。次の瞬間、彼らは元の神殿に立っていた。


「見事だ」


 神官が三人に声をかける。


「何が試練だ。ただの嫌がらせじゃねえか」


「そんなことはない。お前たちが求めるものは、簡単に手に入るものではない。相応の精神力が必要なのだ」


「試練を通して分かった。こんな悪趣味なのは歴史の文献上一人しか思いつかない。ヘルメスの右腕ケンタキロス・ゾモシス」


 ザックの言葉に、生気の無かった神官が笑い出す。


「ふふふ。はっはっは!本当に見事だ。ただ、私はヘルメス様の残した残留思念に過ぎない。永遠の輪を追い求めるものに忠告するためのな。最近になって、また永遠の輪の影響が大きくなってきた。気を付けろよ」


 ゾモシスは次第に体が透けていき、その姿を消した。


 時間の神殿を出ると、太陽の光が温かく彼らを迎え入れる。息を吸い込むと、少し重荷が取れたように感じた。


「ようやく出られたか。もうこんな試練はごめんだ」


「でも、何とか三人そろって乗り越えられたわね」


「二人がいたから、少しだけ自分を認められたような気がするよ」


「お前ら、いい顔してるな……」


 二人の成長を見て嬉しく感じる反面、ザックにはゾモシスの言葉が引っかかっていた。


「どうかしたのか。ザック」


「いや。自分の内面と向き合うなんて、もうこりごりだと思ってただけだよ」


「私もそう思うわ。自分の傷を抉られている気分だったもの。でも、あなたたちがいて本当に良かったと心から思えたわ」


「そう思っているなら安心だ。仲間は信じ合って、励まし合ってやっていくものだからな。信頼関係が強くなることは良いことだ」


 一呼吸おいて、ザックが尋ねる。


「さて、次はどうする?」


 地図を広げ、リーナが覗き込む。


「ここから北へ進むと、小さな村があるわ。その村には情報屋がいるという噂を聞いたことがあるの」


「情報屋か」


 ザックは考え込む。


「気は乗らないが、何かしらの手掛かりを得られるかもしれないな。永遠の輪について知っている可能性も高いだろう」


「それなら、その村へ行こう。新しい情報が何か得られれば、次に何をすれば良いかもはっきりするはずだ」


「そうね。私たちの計画を立てるためにも、その村で情報屋から話を聞くのは重要ね」


 三人は北へ向かって歩き続け、昼過ぎには小さな村に辿り着いた。旅人が訪れることが珍しいのか、人々は三人の来訪者を好奇心と警戒心の入り混じった目で見つめている。


「情報屋の居場所をどうやって探そうか?」


 アレンの言葉に、リーナは村人たちの様子を観察しながら答えた。


「まずは地元の人に聞いてみましょう。閉鎖的な村みたいだけど、だからこそちょっとした変化というか、情報屋のような外部との行き来をする人間の情報は共有されてるんじゃないかしら」


「リーナ。お前の思慮深さには感心させられる。その線で行こう」


 ザックは村人の警戒心も考慮し、一人で酒場に向かった。


「この村に情報屋が居ると聞いたんだが」


 男は肩をびくりと震わせ、ザックの方に顔を向ける。


「……そんな話は知らねぇな」


「そうか」


 ザックは微笑を浮かべたまま、淡々と続ける。


「お前の反応は知らない人間のものじゃない。もう一度だけ言う。情報が欲しい」


 男はしばらく沈黙し、ちらりと周囲を見渡した後、小声で言った。


「……そういう話なら、あの情報屋のところへ行くんだな。俺たちが話せることは何もねぇよ」


「バルドか」


 ザックが呟くと、男の表情がさらに曇る。


「忠告しておくが、あいつは変わり者だ。関わるなら、気をつけるこった。」


 男はそれ以上何も言わず、テーブルに置かれたグラスに視線を戻した。ザックは短く息を吐き、静かに呟く。


「変わり者か。そんなことは、分かってるんだよ……」


 しばらくして戻ってきたザックは二人に告げた。


「当たりだ。情報屋は村外れにある森の中に隠れ家を持っているらしい。行き方も聞いてきたぞ」


 三人は村を出て、森の中へと足を踏み入れた。


「こうも入り組んだ場所に隠れているとはな」


「信用されるまでは、何も教えてもらえないかもしれないわね」


 ザックは無言のまま先頭を歩いていた。彼の背中に漂う妙な緊張感に、アレンは気づいたが、今はそれを指摘するときではないと判断し、口を噤んだ。


 やがて、三人は古びた扉の前に立った。扉には印が刻まれている。それは一般人には意味のない落書きに見えるだろう。だが、これが情報屋の合図だということをリーナは知っていた。


「ここよ。アレン、情報屋の間では合言葉があるの。扉の鐘を鳴らしたら『時を超えし影、真実の帳を開け』と言って」


 アレンは扉の横にある小さな鐘を二度鳴らし、続いて囁くように言葉を紡いだ。


「時を超えし影、真実の帳を開け」


 微かな軋みとともに扉が開いた。中から現れたのは、細身の男だった。年齢は五十代ほどに見えるが、その目は鋭く、相手の内面をすべて見透かしているかのようだった。


「ほう……随分と懐かしい顔が混ざっているな」


 男はザックに目を留め、口元に薄ら笑いを浮かべた。その一言に、アレンとリーナは驚きの表情を浮かべたが、ザックの顔色は変わらない。


「久しぶりだな、バルド」


 ザックが静かに言う。その声には警戒の色が混ざっていた。


「お前がここに来るとはな……何年ぶりだ?それとも、もはや時間の概念など、貴様にはどうでもいいか?」


 時間の概念、という言葉が何を意味するのかを問いたかったが、ザックの表情が硬くなっているのを見て、アレンは言葉を呑み込んだ。


「懐かしい話は後だ。今は永遠の輪について情報を得たい」


 ザックが言葉を切り出すと、バルドは鼻を鳴らした。


「なるほど、なるほど……あの古代の秘術に興味があると。だが、そいつを探るということは、命を懸ける覚悟が必要だぞ。お前のことだから、それくらい承知の上か?」


「承知の上だ。知っていることを話せ」


 バルドは少しの間、ザックを見つめたあと、小さく息を吐いた。


「いいだろう。ついてこい。ここでは話せん」


 彼は扉を大きく開き、アレンたちを中へと招き入れた。


 隠れ家の内部は薄暗く、壁には無数の書物が並んでいた。床には古びた絨毯が敷かれ、中央には丸い木製のテーブルがある。部屋の隅に置かれた小さなランプで照らし出され、空間を柔らかく包み込んでいた。


「座れ。話す前にひとつ、俺からも聞きたいことがある」


 バルドは椅子に腰を下ろし、鋭い視線をザックに向けた。


「お前は一体……どこまで思い出している?」


 その問いに、アレンとリーナは息を呑んだ。だが、ザックは微動だにせず、ただ静かに答えた。


「必要なことだけだ」


「ほう……相変わらずだな。だが、思い出したくないこともあるはずだ。特に、彼女のことはな」


 その言葉に、ザックの指が僅かに動いた。封じ込めていた感情が揺らいだかのように。


「今は、情報をよこせ」


 その声の中に、ほんのわずかな迷いが混ざっていることを、アレンは感じ取った。


 バルドは満足げに頷き、古びた書物を一冊、テーブルの上に置いた。


「永遠の輪……それは錬金術の御伽噺ではない。本当に存在するものだ。だが、それに触れた者は誰一人として無事では済んでいない」


 彼の言葉に、アレンは戸惑った。


「何が、あったんですか?」


「……それを知りたければ、まずはこれを読め」


 バルドが指し示した書物には、古代文字が刻まれていた。それを見たリーナの目がわずかに輝く。


「私が解読するわ」


「頼む」


 アレンが頷いたその時、ザックがふとバルドを見つめた。


「……まだ、俺のことを『時間の亡霊』と呼ぶつもりか?」


 バルドは静かに微笑んだ。


「お前が何者であるか、それを決めるのは俺じゃない。だが、一つ言えることがある」


 彼はザックの目を真っ直ぐに見据え、静かに言った。


「お前が過去に抗えない限り、未来は決して手に入らない」


 その言葉が、ザックに深く突き刺さる。


 平静を装う彼の瞳に、一瞬だけ弱さが見えた気がした。


 情報屋の隠れ家を後にし、一同は一旦村に戻る。


 森の中を歩きながら、次の目的地について話し合っていた。しかし、盛り上がるアレンとリーナとは対照的に、ザックは黙々と歩き、何かを考え込んでいるようだった。


「ザック、どうしたの。さっきから黙ったままだけど」


 リーナが心配そうに尋ねた。


 ザックは足を止め、二人の顔をじっと見つめる。


「お前たちに、提案がある」


 アレンとリーナは、突然のザックの言葉に顔を見合わせた。


「何?」


「俺たち、ここで別行動を取るべきじゃないかと思う」


「どうしてだよ。僕たち、三人で頑張ろうって話したところじゃないか!」


 予想だにしない提案に、アレンの語気が強まる。


「まあ、お人好しのアレンはそれだけじゃあ納得しないだろうな。情報屋が言っていたことを思い出してくれ。俺は過去を清算しなければならない。果たさなければならない、役目があるんだ」


「それで?」


 リーナがザックの言葉を促す。


「これは俺がやらないといけないことだ。お前たちは先に向かってくれ」


 ザックの提案、そして落ち着いたリーナの様子にアレンは困惑した。


「でも、一緒に行動した方が、ザックの目的も速く果たせるんじゃないか?何もザック一人別行動をしなくても」


 ザックは首を横に振った。


「アレンお前の言うことはもっともだ。そりゃあ、三人で行動した方が早いに決まってるんだよ。でもな、俺たちが別々に動けば、より多くの情報を集められる。そして、何よりここで手を貸してもらったら俺は自分自身が許せなくなる」


 リーナは思案に暮れる。


「分かったわ。でも、完全に別れるわけじゃないのよね」


「ああ、そうだ。俺だってお前らのことは気に入ってるんだ。ここでお前らとの縁を終わりにする気はない」


 そう言って、ザックは少しだけ口元を緩めた。そして、わずかに空を仰ぐようにして目を細める。


「お前たちの未来は、まだ決まっていない。思うように歩んでくれ。そして、再開したときに話を聞かせてくれ……」


 風が一瞬止んだかのようだった。ザックの言葉には、単なる励ましとは違う、何か深い意味が含まれているようだった。


 アレンとリーナは、無言のままその言葉を噛みしめた。未来が決まっていないとは、どういう意味なのか。


 ザックは、彼らの迷いを見透かしたように続ける。


「選択によって、道は無限に広がる。だが、お前たちが進むべき道は、これから自分で決めるものだ。俺がその答えを告げることはできない。」


「……まるで試されているみたいだな。」


 アレンがポツリと呟いた。ザックはそれに応えることなく、ただ淡々とした調子で言った。


「どんな選択をしようとも、俺はその先で待っているよ。」


「本当にまた会えるんだろうな?」


 アレンはまっすぐにザックを見つめた。


「お前たちが願う未来に俺の姿があればきっとな」


 それがザックの最後の言葉だった。


 彼は踵を返し、ゆっくりと森の奥へと歩き出す。その姿は木々の影に紛れ、やがて完全に消えていった。


 アレンはしばらくその場に立ち尽くしていたが、意を決したかのようにリーナに声をかけた。


「行くか!」


 リーナは静かに微笑む。


 未来は、まだ決まっていない。


 彼らがどんな未来を選ぶのか、それはこれからの旅の中で決まっていくのだ。

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