第15話 忘却

あくまで。

本当にあくまで予想だがコイツはもしかしたら妹の事も変わりゆく世界で守りたかったんじゃないのか?

仮にも予想だから外れる可能性も十分にあるが。


そう考えながら俺達はファミレスにやって来た。

服は絞ったがそれでも雨で濡れている。

温かいコーヒーが身に染みる。

寒かったしな。


「それで。お兄ちゃんは私を守る為に私の記憶を弄らなかったって事なの」

「それでも良い。勝手に認識しろ」

「お兄ちゃん。これは重要な事だから話して。...今すぐに」

「...」


和樹の目の前に座っている薫さんが怒る。

俺は薫さんの横に腰かけている構図だ。

2人を見る。

薫さんの言葉に和樹は飲み物を飲む。


「まあ答えるとするならそれもあるかもしれない」

「なんでそんな重要な事を話してくれなかったの」

「...」

「お兄ちゃん逃げていたんじゃないよね?何を考えているの?」

「...神様の居る神社に行っていた」

「何をしに?」

「もう一度力を得て世界を変えたかった」

「...」


沈黙する薫さん。

そうしていると「懺悔のつもりかもじゃが世界を変えるのは今からでは無理じゃな」と声がした。

横を見ると女児が居...いや違う。

ランドセルを背負っているしっぽの生えた女児。

コイツは。


「神様」

「榎本和樹。お主には世界を変えた責任を取ってもらうぞ」

「!」


俺はまさかの言葉に神様を見る。

神様は「榎本和樹。お主は世界線を破壊した。その身で償ってもらうぞ」と言ってから神様は和樹を見る。

和樹は「やはりそうなるか」と言った。


「労働に対価がつくようなもの。ワシもお前のやった事を見逃してはおけぬ」

「...」

「待ってください」


そのやり取りに薫さんが口を開いた。

それから唇を噛んでから「責任ってどういうのですか?」と問う。

すると神様は「その寿命で償ってもらう。恐らくこの大罪では死ぬじゃろうな」と答えながら俺達を見る。

その言葉に和樹を見る俺達。

その視線に和樹は肩をすくめた。


「まあ死ぬのは仕方がない。それだけの大損害を出しているだろうしな。...だけど一つ約束してくれるか」

「それはどういう約束か」

「もし良かったら俺が初めから居なかった事にしてくれ」


その言葉に「え」と絶句する俺達。

そして和樹は立ち上がる。

薫さんが「...お兄ちゃん...」となる。

俺はその姿を見つつ和樹を見る。

和樹は「華凛は恐らくまた浮気する」と答えた。


「世界を繰り返しても浮気性は治らなかったし環境もそのままだ」

「...マジにやるのか」

「ああ。俺なんぞが今この場に居ても仕方がないだろうしな」

「...」


俺は和樹を見る。

そして神様は和樹を引き連れる。

その際に俺に向いた神様。

それから「夜寝たら和樹の事を含め和樹の事は何もかもを忘れる。すべて和樹を抜いた設定になる。それぐらいしか出来ないが」と言う。

俺はその言葉に和樹を見る。

和樹は俺を一瞥してからそのままファミレスを出て行った。



翌日になった。

何かを忘れている様なもどかしい感じがしたのもありゆっくり起き上がった。

それから「すやすや」と音がしているのを聞き俺は横を見る。

そこで「!?」となった。

そこに女神の様な寝顔の九條さんが居た。


「ちょ」


俺は大慌てになりながら赤面する。

それから目線を逸らしながら居ると九條さんがゆっくり目を覚ました。

そして目を擦りながら「あ。おはようございます」と起き上がる。

俺はそんな九條さんに「お、おはよう」と言う。


「ふふ。ぐっすり眠っていましたね」

「九條さん。朝から心臓に悪い」

「心臓に悪いですか?モーニングサービスの一環です」

「いや。モーニングサービスの一環って。とてもビックリしたんだけど」

「うふふ。ビックリさせるのも一環です」

「全くもう」


それから俺は頭を搔きながら起き上がる。

そして九條さんを見た。

俺に微笑みながら「ご飯出来てます」と言ってくる。

その言葉に俺は「いつもありがとうな」と言う。


「...それにしても大変でしたね」

「ああ。放火事件か」

「そうです。その事件の事です。山郷くんは悪くないって私も思います」

「そうだが...現に放火したのは山郷だからな。だからその罪だけは裁かれないと駄目なんだろうけどな」

「ですね」


静かに俯く九條さん。

俺はその姿を見てから九條さんの肩に手を添える。

九條さんはそんな俺の手を自らの頬に添えた。

はい?


「く、九條さん!?」

「私、本当に可哀想だなって思います。大地さんが」

「...まあそうなんだけどでも...放火された相手が俺の浮気した元嫁だしな」

「まあそうなんですけど。でも何だか複雑です」

「君の言いたいはよく分かるよ。本当にね。...だけどこうなった以上はね」

「ですね」


九條さんは俺の手を戻してから頬を少しだけ朱に染めて立ち上がる。

それから「ご飯食べましょう。時間がないですし」と笑顔になってからスカートを翻してからドアノブに手をかける。

そして俺をまた見た。


「大地さん。早く着替えてくださいね。待ってます」

「ありがとう。早めに着替えて行くよ」


そして九條さんはドアを開けてから俺に手を振ってドアを閉める。

元嫁...華凛。

父親と連絡が取れて家を引っ越した。

この近所に家はあるらしいがどうなっているのか定かではない。

どうせ学校で会うだろう。


「...」


俺は静かに服を脱いだ。

それから制服に着替えてから俺は後頭部を掻きつつドアを開ける。

そして電気を消してからそのままリビングに向かった。


最後までもどかしいが。

何がもどかしいか分からんから大した事じゃないだろう。

そう思いながら俺はドアを開けて九條さんを見た。

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