第5話 『枕絵三圀艶伎』第二回 佩麗斯旦曼荼羅

「それでは、この不肖、影咲ルビもといルービー・スィヤーバフシュこと柳毘ルービー玄徳が一席披露しましょう」

 ルビさんはひらりと立ち上がり、くるりと回って一礼します。


――ぱち、ぱち、ぱち、ぱち、ぱち……

「好いぞ、媽屄マービーひゅーひゅー!」

 ほろ酔いで上機嫌のフェイフェンさんすっかり、美少女の成りした助平オヤジに成り下がっています。

 このままストリップしそうな勢いでなルビさん、脱ぐようで脱ぎません。くるりと舞うとふわりと捲れるスカート、中は見えそうで見えません。

 阿斗君には脳を殺す目の毒です。


話説フワシュオ……さてさて桃花春国を語る前に、我が故郷・佩麗斯旦ペリースターンでは、こうわれております。

 この世のはじめ、天と地どころか、あの世メーノーグ、この世ゲーティーグすら混とんと混ざり合ってナニも有りませんでした。在るよう在り、無いようで無ったのであります。

 しかし、時の御神ズルワーン様がお目覚めになられました。この瞬間はじめて時が流れだしたのです。そして全ては成り行きのまま、在りのままに成り立ったのです。

 あの世メーノーグとこの世ゲーティーグに分かれましたのも、成り行きのまま、在りのままに成り立ったのです。

 あの世メーノーグには神々の御母アフラーマード様がいらっしゃいます。すべての神々、ヤズドやバイ、ペリーたちも、母なるアフラーマード様の眷属であります。メーノーグの中でアフラーマード様のお住まう宮をガロードマンとます。善き心ウェフマニシュン、善き言葉ウェフゴイシュン、善き行いウェフクニシュンを重ねたる者はガロードマンに転生すると云われてます。アシェムヴォフーワヒシュタムアスティー」

 ルビさんの鈴を転がすような声は歌のよう、身振り仕草は舞のようです。阿斗君、ぽかんと口を開けてるだけです。頭にはナニも入ってませんが、見とれてるだけでご満悦のご様子です。


「フェイフェイ、ユーユーって忙しい?」

関姉カンねぇは下界じゃぁ神様、世間じゃぁ俺なんか足元にも及ばない。ルービー姉やリャンリャンよりも、崇めたてられてるからよー」

「堅物のユーユーが来る前に、下界ゲーティーグがどんな形してるか、阿斗くんに教えてあげましょ」

「あいよっ!」

 フェイフェイさんが立ち上がります。そしてルビさんの後ろでしゃがみます。腿と腿の間に頭を突っ込んで立ち上がります。


「???」

 女同士の肩車姿、とても叡智っぽいです。意味不明でも、阿斗君の眼を喜ばせています。


「阿斗くん見て!

 これが佩麗斯旦ペリースターン宇宙観コスモロジー、曼荼羅ってところね。

 狐色に煌めく私の髪は太陽フワルね。

 太陽つまり妾の頭の上に皿が一枚浮いてるとするわね。それがメーノーグね。その上にさらに小さな金の皿が浮いてるとする。それがガロードマンよ。

 佩麗斯旦ペリースターンは、崑巃コンロンとかアバルセーンと呼ばれる山並ハルボルズの頂上にあるのよ。テレグハラーとか高天原っても言われるわね。ちょうど妾の臍の辺りかしら。

 そして妾の腿や桃尻が大地ね。大地を肩車して支えるのが、三つ脚の驢馬ロバハルなのよ。三脚のロバだから、春国では鼎驢と呼ばれるのよ。君の名前は、かなえ阿斗でしょ。ロバも馬も仲間みたいなもんだから、君は大地を支える鼎驢なんだよ。

 これを英兒性孫アングロ・サクソンの言葉ではミドルアスと呼ぶのよ。アスはロバであり、女神の尻よね」


「ルービー姉、確か貂蝉の胡名はアスヤブグーだったろ?」

「妾、ぶりっ子二喬姉妹には負けないけど、貂蝉には負けてるわね」

「ユンユンも強敵だろ?」

「あの娘は本当に清楚で純情で女子力も高いからね。妾の自慢よ」

「ユンユンは身持ち固いけど、関姉みたいなコチコチの堅物じゃないからな」

羽々ユーユーが来る前にアレやろうよ」

「あいよっ」


「阿斗くん見てね。妾は太陽だから夜は沈むのよ」

 ルビさんはフェイフェイの肩の上で器用に身動きします。そして脚を首に絡め、向かい合ったままフェイフェイに腰を抱えられています。まるで二人一体で駅弁売みたいです。あまりの叡智さに目のやり場に困ります。


「なんか桃園の契りを思い出すな」

「その話はもっと後でね。

 阿斗くん、夜はね、太陽フワル驢馬ハルは大地を生きとし生けるもので満たしたのよ。善き獣物けものゴスファンドも悪しき魔物まものフラフスタルもね」

「関姉の前でやったら、絶対怒られるよな?」

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