異世界『枕絵三圀艶伎』――佩麗娘々の柔肌はシルクロード

犬單于 𐰃𐱃 𐰖𐰉𐰍𐰆

第1話 甘い旋風とある少年をさらう

 三国時代の英雄豪傑譚は古くから本邦と所縁ゆかりがあります。

 陳寿の『三国志』は魏志倭人伝に於いて、最古期の本邦の姿を描いております。羅漢中の『三国演義』もまた江戸時代から大人気でした。

 そしてS和と呼ばれていた時代、RPGと同時期に再び『三国志』ブームが到来しました。男の子たちの浪漫、大好物になりました。


 とある少年も『三国志』に憧れています。

「僕は孤児だ。高校落ちたら後がない。合格するまで『三国志』を我慢しよう!」

 と息巻いてましたが、残念ながら、浪人確定のようです。汨羅の淵を歩む屈原のような心持ちです。


――ウィ……ン……うぃ……ん

 心を水底に沈めた少年には轟音も上の空、ひたすら下を向いて彷徨うばかりです。


――ウィ~ンンン……ウィ~んんん……キュイっ!!……ゴロゴロゴロ

 滑るタイヤの音、甘い旋風が捲き上がるっ♪

 煌めく狐色の髪が春風にそよぐ♪

 舞い降りたのは鉄騎のワルキューレか?

 少年の魂を春原ワルハラへと誘うのか?


かなえ阿斗あと君ね、さがしたよ。わらわ影咲かげさきルビ、マホウトコロ女学院生徒会長よ。入学試験受けてみない?」

「ぼっぼっ僕が女っ女っ学院に……?」


――……ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ドドドドドド……ぱぷぱぷぱぷ

 うなるエンジン音、うるさいクラクション、数多あまたの鉄騎が押し寄せています。


「阿斗っ、早く後ろに乗って!」

 呼び捨てだけど柔らかい。

 ルビさんに手を引かれます。あんな細腕のどこに力が?

 阿斗君は有無を言わさず、乗せられます。

「阿斗君、遠慮しないで。力いっぱい抱きしめて」

「は、はっい♡」

 阿斗の鼻に甘い匂いが、阿斗の体に柔らかい温もりが伝わります。なんだか落ち着きます。とても頼母しいです。


――うぃんうぃんうぃんうぃん、うぃ~ぃ~ぃ~ん

 マシンは叫び、ジェットコースターのように駆け抜けます。風に踊るルビの髪、赤い波にも、狂った朝の光にも似ています。

 片側一車線の道路を左右に縫うようにして、前の車を追い越して行きます。

 格好よすぎです。まるで不二峰子です。阿斗君はメロメロです。ワルサーが暴発しそうです。


 バックミラーには、BYW500SL一台と数台のバイクが映っています。反対車線にはみ出しながら、どんどん迫って来ます。どれも黄色い旗を掲げています。――阿斗君は背筋が凍ります。旗は黄色いのにブルーステーツ、地元最凶の暴走族です。

 ブルーステーツのリーダー糟高かすだか猛徳たけのりと聞けば、泣く子も黙ります。面識はなくとも、名前くらいは誰でも知ってます。

 配下の幹部たちも、荘々たる粒揃いです。従兄弟の糟高かすだかひとし糟高かすだかひろし夏淵なつぶちあつしは幹部です。その他にもテンイ、キョッチョ、ウッキーなどの猛者が名高いです。

 天は二物を与えず。とは、言いますが、糟高猛徳には二物も三物も与えられています。別段イケメンという訳じゃありませんが、成績は超優秀だそうです。すでにT大合格したとも噂されてます。その上、糟高かすだかと言えば、地元を牛耳る財閥です。だから多少の悪さをしても、警察もアンタッチャブルだそうです。

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