心霊アルバイト胎動編

第5話

こうして第一夜は始まった。

きっちり１９時に電話がかかった。

すぐ出るとそれが普通になるので８コールでとった。

「おせぇぞ、今日は時間指定したんだ、すぐ出ろ!」

「すいません、急に催しましてトイレ行ってました」

久保田はヒヤ汗をかいている。

ヤクザをなめるとろくなことがないと痛感しているのだろう。

「にいちゃん、焦ってションベンちびるなよ。

汚してたら罰金でバイト代差っ引くからな」

「すいません、すいません」

こりゃまずいなと思った。

ガチャン

電話を切った。

「はぁぁ･･･」

久保田はため息をついた。

「あと二回今日コールあるのか…」

「こんどは３コールで出ような…」

「すぐ出たほうがいいんじゃないか」

「ここは我慢で５コールで出よう。こちらの胆力を示しておいた方がいい」

「こんどは佐々木が出てよ…」

久保田には悪いが俺は半身は外に出している。

最悪俺自身がこの部屋にいなくていいならバイト代はもらわなくていい。

このクエストをクリアする方が重要だ。

そのあとはカップ麺を食ってビールを一缶だけ飲んだ。

酔っぱらって電話にでないのは最悪の選択肢だ。

ラジオもないので

ハングドマンのゲームで時間を潰した。

「Ａの六」

「ブー」

「え、違うの?破綻してない?」

ジリジリジリ

魔の電話が鳴った。

永遠ともいえる３コールを待った。

「佐々木です」

「おせぇぞ今度は何してた」

「廊下で物音がしましたので見回りに…」

「そうか、それなら仕方ねえな、励めや」

「ありがとうございます」

チン

電話を切った。

「５コール!」

「そんなんできるか!

３コールが限界だ!!」

「じゃあ中とって４コールね」

ちょっと状況を楽しんできている。

こういうところが俺が友達が少ない理由かもしれない。

といって二時間では何もすることがない。

本当なら寝てしまってもいい時間帯なのだが…夜中に備えて･･･

「今のうちに他の階を探検しておくか…」

「嘘だろう、こんな夜中に他の場所をうろつくのかよ」

「心配するな…ここよりひどい場所はそうない。

二時間じっとしているより有意義だろう」

「しかし…」

「これは君のためでもある。

時間が余ったから別の部屋の夜回りをしていましたと言えば…

おう、毎晩頼むわ…

となって定時報告が少なくなるかもしれない。

心証がよくなるかもしれない。

少なくとも交渉材料にはなるよ」

「そうなのかな」

「そんなもんさ」

ソシオパスの俺は人間の心理の研究に余念がない。

能動的で自発的な人間の行動に口を挟むことは…

そうない。

そうなのかな?

いい検証になる。

あらかじめ買っておいた懐中電灯を手にもって

俺たちはこのマンションの探検にでかけた。

「ここって四階建てだよな」

「そうだな」

「じゃあ三階から回るか」

「なぜ」

「同じ二階に電気ついてるか?

人の気配するか?

俺は無駄なことはしないんだ」

念のためドアノブを回したが鍵がかかっていた。

「ほれみろ、二時間しかない時間の十分使ったぞ」

俺は久保田を追い立てた。

確かめたいことがある。

三階に上がった。

二階と同じ造りだ。四部屋あった。

同様にドアノブを回す。

二階と同じ右隅のドアノブが回った。

「ビンゴ!」

「ここは鍵がかかっていないのか?!」

中に入った。

二階のような嫌な感じはしない。

「やはりな…」

「やはりなって、おおよそわかっていたのか?」

「久保田、いわくつきの部屋ならその上下の部屋だって怪異は

発生するよな、そう思うよな」

「あ、だからワザと鍵をかけていない」

「そう、あの仁科って野郎はそんなに粗野じゃないかもしれないぜ」

「そうとわかれば長居は無用、四階と屋上をあさるぞ」

僕たちは四階に上がった。

はたして鍵はすべての部屋にかかっていた。

屋上の鍵もかかっていた。

「となると一階の真下の部屋だ」

急いで一階に降りて真下の部屋のドアノブを回した。

開いた。

中は倉庫のようだった。

雑多なガラクタが置かれていた。

「僕の推測どおりだな。時間がない部屋に戻るぞ」

時計を見ると１２時５５分だった。

危ない危ない…

ジリジリジリ

電話が鳴った。

余裕で４コール待った。

久保田も落ち着いている。

「久保田です」

「仁科だ。異常ないか」

「異常ありません」

「お、落ち着いているじゃねぇか、今日はもう電話しないから指定した行動しろよ」

「ありがとうございます」

チン

久保田はニヤリとした。

「な、備えあれば憂いなしだろ」

俺はしたり顔で言った。推理が当たっていたので高揚感もある。

俺は今夜のしきたりを今一度久保田と確認する。

❶玄関・窓など、全て施錠する (インターホンがなった場合もでなくて結構です)

❷ 深夜2:00-4:00 は必ず起きている ❸ 指定した時間にお線香を焚く

2:00と3:00と4:00に

❹キッチンの刃物類に触れない ❺ 照明器具を使用しない ❻スマホ持込禁止

さてこれからが本番か･･･