第2話 目覚めの森


 目が覚めると、森の中だった。


 どうやら転生出来たようだ。

 服装は簡素なもので、唯一右手首に細いリングが嵌っている。とても細身のもので一つだけ小さな石が埋め込まれている。


 他に持ち物もない様なので僕はさっそく

 こういう時のお約束だろう


「……ステータスオープン」


 その後も言い方を変えてみたりいろいろなポーズをとってみたりしたが、特に変化はなかった。

 腕についた腕輪の方にも反応はない。


 ……とりあえず何か食べるものでも探そうと思い、歩き始める。

 しばらく歩くが何も見当たらない。森自体は雑木林のように木が生い茂っているが、地面は土で歩きやすい。


 木々の間から光も適度に差し込むので助かった。太陽の高さから見てお昼前後だろうか。

 しばらく歩いていると川に出た。幅は10mほどで、流れも緩やかだ。


 生水は怖いが喉も乾いているし背に腹は代えられない。そう判断し、僕は水をすくって飲む。


「うまいな」


 思わず声に出してしまった。

 川の水は澄んでいて冷たくておいしかった。


 落ち着いてから辺りの草や木を見ると、明らかに日本のそれとは違う特徴を持つものが目に入る。

 さて、これからどうしたものか。


 目の前の川を渡るのは難しいとなると川沿いに進むしかないわけだけれど……。

 そう思いながら僕は右を見る。続けて左を。

 どちらを見ても同じ川幅の川が続いているようにしか見えなかった。


 こういう時は川下に向かって進むべきなのだろうが、残念ながら判断が難しい。


「仕方ないか」


 そう呟いて僕は地面に落ちていた枝を拾うと地面に突き立てた。

 手を離すと木は向かって右側に向けて倒れこんだ。


「こっちだな」


 僕はその倒れた木の方向に向かって歩き始めた。


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 そのまま歩くこと数時間。うすうす気づいてはいたが選択を誤ったようだ。

 幅が広かった川が徐々に狭くなったように思うし、曲がりくねることが多くなった。

 何より川べりが上り坂になってきた。


「……こんなことなら逆に向かっておけばよかった」


 どのみちあの時点ではこんなことになるとは思っていなかったので詮無い話ではあるのだが。


 そろそろ日が傾きつつあり、足元が悪い中これ以上進むのは難しそうだ。途方に暮れて辺りを見渡した時ふと仄かな明かりが目に留まった。


 森の中に光るその明かりに向けて僕は下草を踏みしだきながらゆっくりと向かった。こんな森の中に本当に誰かいるのだろうか。


 進んだ先には小さな空き地があった。

 そこにあったのは妙に豪奢に見える布に覆われたテントだった。

 刺繍なのか何なのか、細かな文様が刻まれている。


 警戒しながら覗いていると、ふいにテントの入り口が開いて人の頭が出てきた。


 銀灰色の長い髪をした女性だろうか。覗いた頭が空き地をぐるりと見渡し、僕と目が合う。驚いたように見開かれた瞳は深い紅玉ルビーのような色をしていた。


 次の瞬間僕の体に光が弾けた。


 そうして僕は死んだ。

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