第12話

大蛇山の麓、ミーティアの街にて…


「ハァ〜…」


「アハハハハ!大口叩いといて、何もせず帰ってきたの!?」


「…うん…」


「つまんないの〜…あのカルトハゲと違って全然反応しないし…」


「新しい魔王がどんな戦士かと思ったら…やる気の無い罠に引っ掛かる臆病な隊員、戦う気の無い魔王…何だかなぁ〜…」


「ローグ、普通戦いは避けて通りたがるのが生き物ってモンだよ。」


「でもよ…俺が二十にも満たない頃に殺しあった魔王は俺と同じで戦う行為そのものが目的だったんだ…前のは支配するばっかりのつまらない奴だったから…」 


「だぁ〜っ!そんなに凹むな気持ち悪い!相手が戦いに消極的だからって!失恋したみたいな気分に陥るか普通!?」


「だって俺の生き甲斐だし…それに…俺の仲間も何か弱く感じてねぇ…これじゃいつまで経っても殺し合える強者も育たない…」


「スキンヘッドの厳ついオッサンがしょんぼりしてる姿なんて誰得なんだよ!!もう三日間も経ったんだぞ!?」


そんな彼らを遠くから若人が覗く。


「…あの人達まだいるのか。何してるんだろうな?」


「あのおじさんは随分と雰囲気が違う様ですが…」


「ん?あ!噂のルーキー達じゃない!」


「げ…目をつけられたぞ…」


「ブルート?今日の依頼見に行こ…げぇっ!?」


「人の顔を見てその反応はどうかと思うよキュルケ。」


「畜生、なんでお袋がここにいる!?」


「え!?お母さんなんですか!?」


「久しぶりに娘とあったんだ、色々聞かせとくれよ…」


「…俺らもいるから大丈夫だよ。」


「そうだといいがね…母さんはなんでここに?」


「これから魔王の領地を観察しにきたのさ。」


「え…?お、怒られちゃいますよ…?」


「特別な使い魔に偵察させるんだとさ、何匹ペット飼うんだろうな?」


彼女の手元にある水晶の内には大蛇山が見えている。


「そ、例え魔王でもウチのパレットなら数秒は稼げるだろうし…」


─────────────────────────


俺は今ちょっと気になる事がある。子供の疑問程度の素朴な質問だ。


「思ったんだけどさ〜?この世界のでっかい団体ってどんな奴ら?」


「人族に関しては私も曖昧な知識だが、ある程度は知ってる…」


「教えてくださ〜い…」


「分かったよ…まず、私達魔王の子孫が率いる魔王国。もっとも…民など居ないが。天魔種と魔人族を纏めた魔族達は基本、僻地の国で不干渉を決めている。私達はな、結局は支配を求める野蛮人の集まりだったのさ。」


「ほ〜…」


「次は人族だな…魔王を初めて討伐した英雄シルヴァの築いたシルヴィアン国だな。英雄達と神を祀る勇王讃会が頂点に立ち、魔物や罪人の討伐が目的のギルド本部まで運営している大物。実質的に人類のトップだ。」


「どの世界でも宗教組織はバカでかい権力を持つものかね…」


「次は軍隊蟻傭兵団…というよりは、魔王狩りのローグだろうな…他の有象無象達も再生と突撃を繰り返す厄介な奴らだが、ローグとは天と地ほどの差がある…ローグは部下達といずれ殺し合う為に鍛錬をさせているらしい…」


「…変な趣味してんな〜。」


「そして、人類で最も自由な商人連合…金鉱脈マザーロード。英雄シルヴァ・ナダの直系の子孫。本来であればその名を襲名し、107代目シルヴァ・ナダとなる筈だったが…む…?」


「だったが?」


「しっ…」


急にサツキが話を中止し、コソコソと小声で話す。


[何かいる…僅かな音と、何か甘い香りが…]


[滝が流れてるのによく分かるな…]


[しかし…マナの感覚も気配も消して、おまけに姿も隠してる…]


[どれどれ…チラっと失礼…ん?]


淡い光の膜に包まれた小さな何かの姿が目に映る。


[何か見えたか?]


[いや…普通にいるし光ってるけど…]


[ど、どこだ?]


(…もしかしてサツキは視力低いのか?)


ふらふらとする謎の存在はぽたぽたと赤い血が流れている。


「…あ!」


「おい!いきなり飛び出してなんだ!?」


「怪我してるな。」


「え…?」


「ほっとくと多分死ぬかもしれないからな…」


そこにいたのは、緑色の丸っこい鳥だった。足に装飾されている小さなリングが飼われた生き物という事を証明している。


「これは…モスパロットか…?」


「クアァ…」


「罠は片付けたし、傷も新しいっぽいけど…どっから来たんだ?」


「この種には高度な擬態能力がある。稀だが使い魔としても使用される事がある…人間の使い魔かもしれんぞ?先んじて始末を…」


「まぁまぁ…いいじゃない、手当てしてあげよう。俺今はそういう気分なんだよ。それにもし、故意に傷を付けたクソ野郎が飼い主だったならぶん殴ってやりゃいいのさ。」


「…そうじゃないんだが…分かった。ただし私は世話しないからな。」


──────────────────



「…なんて事だ!」


「運の悪い奴だ…擬態能力のせいでボア種の突進をモロに食らうとは…幼体だからまだ生きてるが、どうだかな…」


「ま、魔王が気付かない内に回収を…な!?」


「す、姿は見えないんじゃ…普通に捕まえられてますよ…!?」


その時、魔王二人の会話が聞こえてくる。


「…人間の使い魔かもしれんぞ?先んじて始末を…」


(まずい…まずすぎる…!回収するにしても距離からして…発動してから一秒程度の遅延が発生する…マナの流れでバレる上にパレットは…)


「まぁまぁ…いいじゃない、手当てしてあげよう、俺今はそういう気分なんだよ。」


…正直、ここまでの甘ちゃんだとは思っていなかった…


「はぁ〜…良かったね〜…」


「良かぁ無いだろ、既に使い魔ってのはバレてるだろうし…」


「…やっぱり戦う気の無い魔王なんだなぁ…はぁ〜…」


「感動に水を差すんじゃないよ…!二人はどうしてる?」


蛇の魔王はパレットを治療しようとしている、だが方法までは分かっていないらしい。


「と、取り敢えず止血を…何ですればいい?」


「はぁ…見ていられないな…そいつを持ってじっとさせておけ。」


「あ、うん。」


もう一人の九尾の魔王はマナで陣を描き、魔術を展開していく。


「あまり得意ではないんだがな…!」


淡い光と共に魔術が展開され、僅かだが傷が癒える。


「おお〜…傷跡が残らない位には治ったかね?」


「…やはり姉上の様には出来ぬか…」


「便利だねぇそれ。」


「クアァ…?」


傷が治ったと同時に力を取り戻したパレットは、ばたばたと慌ただしい様子でその喜びを表現している。特に蛇の魔王に対しては顔をすりすりしたりしている。…それを見ていると…


「すごく…ありがたいけど…ウチの娘が取られているみたいで…!!」


「…複雑な顔してるな〜」


そして、九尾も同じ表情をしている事に気付く…


「ずるいぞ…!私もやる!」


今度は九尾も割って入って皆で顔を蛇の魔王に擦り合わせる。


「ぬわぁ…!さ、騒がしい子が増えたな…!」


「え、えと…何やってんだろうねこの娘達は…」


「魔王ってこんなモンなのかい…?お袋…」


「…でもまぁ、少なくともこれまでの魔王とは違う…優しい何かがあるみたいだね…」


(……あんな罠を仕掛ける奴が?……まぁいいか…)



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