名前のつかない関係が、今日もまた静かに続いていく
るっきー
第1話 馴れ初め
「やっば……曜日感覚、またバグってた……」
深夜0時すぎ。ぺたんと床に座り込み、私はレシートまみれのテーブルを見下ろして唸った。リビングの照明はつけっぱなし、カーテンは半開き、そして私の格好は、キャミソールにパジャマのズボン。さっきまではそれすら履いてなかったけど、ちょっと寒くなってはき直したところだった。
散らかった部屋の片隅にあるゴミ袋が、今にも破裂しそうに膨らんでいる。
「あー、もう……今日は燃えるゴミの日……だったよね?」
スマホを手に取り、日付を確認する。水曜。ということは、正解だ。捨てなきゃ。けど今から着替えるのも、メイクするのも、面倒くさい。そもそも、こんな時間に誰も外にいないだろう。
そう思って、私はゴミ袋を手に取り、パーカーだけ羽織ってそっと玄関を開けた。
夜のアパートの廊下は、ひんやりしていて静まり返っている。廊下の照明はセンサー式で、私が出ると同時にぽっと灯りがついた。
「……うん。誰もいない」
そう思った、その瞬間だった。
「あ、こんばんは」
目の前から誰かの声がした。慌てて顔を上げると、そこにはスーパーの袋を提げた青年が立っていた。
年の頃は……大学生? まだあどけなさの残る顔立ち。黒縁眼鏡の奥の目が、驚いたように一瞬大きくなり、すぐに逸らされた。
「あっ、すみません! こんな時間に……失礼します!」
彼はぺこぺこと頭を下げながら、ものすごい早さで自分の部屋――私の隣――へ戻っていった。
ばたん、と閉まるドア。
しばらく私はゴミ袋を持ったまま、呆然と立ち尽くしていた。
「……あれ、絶対見られた……」
羽織っていたパーカーは、前を閉じていなかった。下は短パンだし、上はキャミソール。
「死にたい」
その夜、私はゴミ袋を出したことすら忘れるほど、布団の中でのたうち回った。
そして翌日。19時過ぎ。
チャイムが鳴った。宅配の予定はないし、何かの勧誘だろうかと警戒しながらドアスコープを覗くと、そこにはあの大学生の彼が立っていた。
白いタッパーをふたつ、両手で持って。
「……なにそれ」
私は小さな声で呟いて、玄関のドアに手をかけた。
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