第39話「それで? 次は、誰が遊んでくれるの?」
恐らくは
しかも、通常のフルメタルジャケット弾ではない。車両破壊用の特殊な装甲貫通弾だ。本来なら戦車か戦闘車両にむけて使うものだ。こんなものを人に向けて撃つなんて、完全に頭がおかしい奴に違いない。
「なんで、そんな代物がこの日本にあるんだよ!」
「俺が知るかよ! どうやら俺たちが怒らせたのは、日本の軍よりも厄介な奴ららしい!」
畜生、畜生!
男たちが怒鳴る。
簡単な仕事のはずだった。
護衛対象の少女をプライベートジェットに乗せるだけ。それが終わったら、仲間たちと
女を抱いて。
酒を飲む。
仕事の報酬もいい。
そう、全てはうまくいくはずだった。
それなのに―
「くそっ! こうなったら、一か八か。車の後ろから飛び出して、狙撃手を引きずりだしてやる」
「やめとけ! この狙撃手は相当に腕がいい。最初にタイヤを潰して、ご丁寧に運転席に何発か撃ち込んでいる。間違いなくプロだ!」
それも正規の特殊部隊並みの実力者だ。
仲間の一人がスーツの懐から銃を取り出すのを見て、その黒服の男は顔を引き攣らせながら言った。彼らとて、裏の仕事を請け負うプロである。日本では使用を許されない武装をいくつも携帯している。
この銃も、そのひとつだった。
『グロック19』。米国の警官が携帯している
「じゃあ、どうするんだよ!」
「喚くな。俺たちだってプロだ。こんな状況だって、初めてじゃない」
黒服の男たちは顔を見合わせると。
互いに頷きあう。そして、冷静になった彼らは、視界の先にあるものを見る。
正面の扉が開かれた格納庫。自分たちを狙っている狙撃手がいる場所とは反対方向だ。ここなら車の影に隠れながら、格納庫まで逃げることができる。
「そこで、応援が来るまで粘っていればいい。おい、後方の連中とは連絡がついたか?」
「いや、まだだ! くそ、どうなっている。さっきからスマホの電波がないぞ!?」
まるで、電子障害のジャミングでも食らっているみたいだ。
そう唸る仲間を見て、黒服の男は覚悟を決める。
後方と連絡が取れないのは不気味だが、このままここにいるわけにはいかない。いずれ、あの50口径が、車を貫通して。自分たちを狙い撃ちにしてくる。その前に、行動を起こさなければ。
「……あの格納庫まで避難する」
黒服の男は、仲間たちに指示を出す。
前方に二人配置して前方を警戒。護衛対象の少女を複数人で囲んで、後方警戒に三人を当てる。あとは―
「……サーペント卿。貴方も一緒に来てください」
黒服の男は震える声で、神父服の男に声をかける。
不気味な男だった。
自分たちの雇い主の代理らしく、常に冷たい笑みを浮かべている。今だって、何者からの襲撃を受けているというのに、そのことにまったく動じる気配がない。
いや、むしろ。
この状況を楽しんでいるようにも見える。
「ンン〜」
サーペント卿はあたりをぐるりと見渡した後、まるで蔑むような目で護衛である黒服たちを見下す。
「このような状況にならないために、貴方たちのような野良犬を雇ったというのに。やはり駄犬の集まりでは、簡単な依頼すら満足に熟せないのでしょう」
「……早く、動いてください」
「ン〜、私としては。直接、襲撃者と殺しあったほうが楽しいのですが」
そういって、サーペント卿は黒服たちに守られるように歩き出す。
護衛対象であった少女は、何もいわず男たちの指示に従ってくれている。なぜか涙をボロボロと流しながら、時折、狙撃手がいるであろう方向に振り返る。その時の少女の顔は、恐怖は愚か。恋焦がれる乙女の顔をしていた。
「……格納庫の入り口に到着。どうやら、無人のようです」
「よし。速やかに内部の安全を確認。要護衛対象の無事を最優先にしろ」
「了解。先行している俺たちで、中の様子を見てきて―」
その時だった。
ゴスッ、という重たい音が響いた。続いて、グチャ、という肉が潰れるような音。それっきり格納庫の様子を見に行った二人から返事がなくなった。
「おい、何があった! ……くそ、無線から返事がない」
いったい、何が起きている?
男たちは危機感を募らせて、自然とその手が懐の銃へと伸びていく。
おかしい。
何かがおかしい。
いや、正確には。
何もかもがおかしい。
空港のプライベートジェットの乗り場がこんな敷地の端にあることも、ジェット機に乗る直前に狙撃による襲撃を受けていることも、緊急事態だというのにスマホも無線も使えない状況も。そして、自分たちが逃げるのに都合よくあった、この格納庫だって。
ごくり。
男たちの喉が鳴る。
何かがいる。
ずりずり
ずりずり
重たいものを引きずるような音が、格納庫の闇から聞こえてくる。やがて、その音の正体が照明の差し込む場所へと歩いてきた。
ずりずり
ずりずり、ずりずり
その瞬間。
黒服たちは、恐怖よりも戸惑いを覚えた。
「あれ~、おかしいなぁ。ちょっと首をつかんだだけなのに、動かなくなっちゃった」
固いコンクリートの地面に引きずられていたのは、先行していた二人の黒服だった。だらんと両手両足には力がなく、血の気がなくなった顔と泡を吹いている口元。もちろん、意識などない。
そんな大柄の男二人を。
それぞれ両方の手で掴み。まるで新しいおもちゃができたみたいに無邪気な笑顔を浮かべているのが。
「それで? 次は、誰が遊んでくれるの?」
バイト先である居酒屋の制服を着た。髪を明るい色に染めたギャル風の少女。
……
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