第21話「コンビニのバイトの、岸野優斗と岸野まほ」

 声を上げたのは、次郎だった。

 おのれ、人様のコロッケを横取りとは。なかなかいい度胸じゃないか。次郎は頭に血を上らせると、レジカウンターに体を乗り上げる。そして、カウンターの後ろに隠れている人物を見た。


「あむあむ。……ん?」


 そこにいたのは、コンビニの制服を着た女の子だった。

 艶のある、おかっぱの黒髪。

 年齢不相応に幼く見えるが、この人物が自分と同じ学年であることを次郎は知っていた。黒髪の女の子は、出来立てのコロッケを美味しそうに齧り付く。呆気に取られている次郎。そんな彼を、興味ないように冷たい視線で見ていた。


「……はぁ〜。バイト中につまみ食いしてもいいって、俺は言ったかな?」


 岸野優斗がため息をつく。

 すると、同じコンビニ制服を着た男に、少女は興味なさそうに答える。


「あむあむ、……言って、ない」


「そうだよな。コンビニの仕事なら頑張れるっていうから、俺もこのバイトにしたんだぞ」


「うん。そうだね」


「それなのに、どうしてつまみ食いをしているんだ?」


「あむあむ、ごっくん。……優斗ゆーと、才能ある。コロッケ、美味しかった」


「そうかそうか。バイト代からコロッケ分を引いてもらうからな」


「がーん!」


 おかっぱの少女が、口の周りにコロッケの油をつけたまま絶望する。そんな少女のことを見て、岸野はやれやれと頭をかく。


「えーと、……いらっしゃい、ませ?」


 おかっぱの少女は、コロッケを片手に次郎たちへと挨拶をする。

 でも、なんで疑問形?

 次郎たちが対応に戸惑っていると、コンビニバイトの岸野が謝りながら話す。


「悪いな、次郎。が勝手に食っちまって。ほら、お前も謝れ」


 岸野が脱力しながら肩を落として、隣の女の子の頭に手をのせて無理矢理に謝ませる。

 このコンビニの制服を着てバイトしている男女は。次郎とも学校で仲良くしている二人だった。


 男子のほうが岸野優斗。

 そして、女子のほうが―


「……岸野、まほ」


 です、とちょっとコミュ障みたいに控えめに挨拶をする。そんな彼女に反応したのが、モブ子のほうだった。


「わー、まほちゃんですか。二人でコンビニのバイトしているんですか?」


「……そう。えらい、でしょ」


「はい、とてもえらいと思います!」


「えへへ、褒められた。あなた、いいひと」


 どやぁ、と黒髪の女の子が得意げな目で岸野のことを見上げる。そんな彼女のことを、岸野優斗はおざなりに頭を撫でてやる。


 どこか距離感の近い二人を見て、仲良しさんなんですね、とモブ子はほっこりしながら話す。


「岸野さんっていうんですね。同じ苗字ってことは、ご兄妹きょうだいですか?」


「ううん。ちがう」

「じゃあ親戚?」

「ちがう」

「えーと」


 あれ? とモブ子が首を傾げていると、岸野まほは表情を変えることなく言った。


「妻です」

「は?」

「妻です。幼妻なんです、よろしくー」

「はぁ。……はぁ!?」

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