第3話 間接キスでビビると思ってんの?

「輝雪。いつものお茶持ってきて」

「任せろ」


 幼なじみ否定派同盟を組んでから二年目。


 組んだ時から昼を一緒に食べるのは、決まって神崎だったりする。


 永田は男子人気が半端じゃなく、特定の誰かと食べるのは避けたいらしい。そうかといって誰かと食べるのは好きじゃないという理由もあり、学校の中ではぼっち飯を楽しんでいる。


 学食は誰と食べても特別な意識が働くことは無いから気にしなくてもいいと思うが、永田は徹底するタイプだからそう簡単にはいかないだろう。


 金髪ギャルな神崎も黙っていれば人目を引く美女なのだが、何せ口が悪い。


 女子はもちろん、同じクラスの男子が話しかけようものならガン飛ばしから入るだけに、俺と永田以外に話をする相手がいないのだとか。


「ほれ、神崎。ダージリンすぎるお茶だ」

「さっすが、輝雪!」


 俺には簡単に見せるんだよな、可愛い笑顔を。


「……いや、ちょっと待った」


 これはもしやアレか?


 ごっこ遊びするよりも前にアレなのではないだろうか。


「ち、なんだよ、お茶も飲ませないのか? ちっ」

「聞きたくないかもだけど、俺と神崎ってすでに幼なじみっぽいんじゃ?」

「……どこが!」


 一年の時に幼なじみ否定で意気投合、同じクラスだったこともあって昼休みは大体いつも神崎と一緒にいるわけだが。


「――下手すると幼なじみどころか……」

「周りを見れば分かるけど、そんな連中沢山いるんだけど? 輝雪が気にしすぎじゃね?」


 神崎の言葉を信じて学食内で男女だけでご飯を食べている光景をチェックしてみると、 確かにいないこともない。


 だが単なる同級生、もしくはただのクラスメートに食べさせ合いをするのかって話になる。しかし、せっかく幼なじみごっこを始めると決めた以上余計なことを言っておかしな関係にするのはやめておく。


「そのカレー辛くない?」

「辛いのは平気だ。それに、紛らわしでミルクコーヒー飲んでるから丁度いい」

 

 俺はミルクすぎるコーヒーを口にして辛さを緩和。これは、単純に甘い飲み物が好きというだけの話だ。


 神崎の方は大体いつも軽食とお茶系で、俺が口にするミルクなんかには一切興味を見せない。


 それなのに。


「輝雪のその白いやつ、あたしも飲んでいい?」

「白いって……ミルクだ。ミルク」

「何でもいいだろ。とにかく飲ませてもらうから!」


 そう言って、俺が口にしたミルクをごくごくと喉を鳴らしながら飲み切ってしまった。


「……って、全部飲むなよ!」

「ケチケチしなくてもよくない? 第一、そんなに好きなら一気飲みすればいい話だし」

「俺は細かく飲むのが好きなんだよ」

「だから輝雪って細かいんだ?」


 今日に限っていやに煽ってくるな。


 これも幼なじみごっこを始めることによる弊害か?


 いや、それよりも――


「――それよりいいのか?」

「あん?」

「俺が飲んでたミルクに口つけて飲んだってことは、間接キスしたのと同じだぞ」


 これが男子同士なら回し飲みだからそこまで気にすることはないが、女子が相手だと流石に気にする。


「……ちっ、間接キスであたしがビビるとでも思ってるわけ? 輝雪のくせに」

「俺のくせには余計だ。じゃあ、これからも問題なく出来るんだな?」


 とはいえ、いつも余りものを飲ませろとか言うわけじゃないだろうが。


「輝雪ごときと間接キスしたところで意識なんてしないから全然問題ない! そういう輝雪こそわざわざ言うとか、おかしくね?」


 今までそういう行動自体無かったし、明らかに意識し始めてる気がしてならない。


「いや、幼なじみごっこの最中に俺が飲んでたのを口にするとか、もしかしてそういう意味なのかなと……」

「――バッ……バカじゃん? そもそもこんなので意識する方がどうかしてる」

「それもそうだ」

「……ちっ。ウザ。あ~ウザウザ!」


 俺が余計なことを言ったせいか、神崎は皿やコップを片付けずにいなくなってしまった。


 ……意外と難しいものだな、幼なじみごっこは。


 怒らせたのは変わりないので、仕方なく神崎の分まで片付けた。


 時間が少し余ったので教室に戻る前に、ぼっち飯をしている永田のところに行ってみることに。


 中庭にあるバラ園は基本的にひと気がなく、誰にも邪魔されない食事スポットとして密かに人気があるが、永田はそこで静かに食べているらしい。


 そこに邪魔するのは良くないが、昼休み時間が残り少ないところに行けば許してくれるはずだ。


「……邪魔しに来たんだ? 雪くん」


 残り少ない時間に行ったのが幸いして、永田はすでに食べ終えていた。それなのに不機嫌そう。


「え? ゆ、雪くん?」

「幼なじみっぽいかなぁって思って。光希は言わなさそうだし、言ってあげるなら私かなぁって思ったんだ~。嫌だった?」

「い、いや、幼なじみっぽくていいと思うけど」


 意外と乗り気なのか?


「そっか~。時間少ないけど幼なじみっぽいこと、する?」


 そう言うと、永田はそれまで弁当箱を乗せていた膝の上を空け、ポンポンと手で叩いて俺を誘っている。


「膝枕……?」

「あれ、しないんだっけ?」

「幼なじみじゃなくて、そういうのは恋人とか好きな人にするものじゃないか?」

「でも、うちのクラスの幼なじみの二人、教室で見せつけてたよ」


 朝に付き合うことを決めて昼にイチャイチャ見せつけとか、しかも教室でするなんて、幼なじみの基準がおかしいだろ。


「するの? しないの? したくないの?」


 神崎とはまた違うやり方で攻めてくるつもりなんだろうけど、永田はやり方を間違えると大変なことがおきそうで怖い。


「幼なじみっぽいのはともかく、い、いいんだよな?」

「そうだね。光希には出来そうにないことを雪くんにやっていくつもり~」

「出来そうにないこと? 例えば?」


 ああ見えて神崎は純粋なギャル。幼なじみは否定してきたものの、それ以外は普通の女子だ。


 それに引き換え、永田は何かヤバい。


「……全身を縛ったり、生足で踏んづけたり、指で搔きまわしたり……たくさんあるよぉ~?」

「うん……そろそろ予鈴がなるから先に教室に戻っておくよ」


 危険だ、危険すぎる。


 後ずさりでもないが、俺だけ先にその場を後にした。


「あはっ、輝雪くんが始めたんだから~~?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る