理想2
妹に恋人ができて寂しい。
その恋人が女の子でしかも私の友達だというのは驚いたが、本人同士がいいのならいいことだ。私自身にもそのケがあることを最近自覚してきたところである。こういう人が周りにいるのはむしろ励みになる。
しかしまあ、この間までお姉ちゃんお姉ちゃんとべったりだった妹が離れていってしまうことを嘆くことくらいは許して欲しい。
「どうすればこの寂しさを埋められますか」
生徒会室で理想先生に尋ねた。相談相手として適切とは思わないが、こういう話を他に言える相手もいない。実は口も堅い。彼女は人の耳目を集めるのが好きだが、そのために他人のエピソードを利用するのはプライドが許さないからだ。
「あなたも恋人を作ってはいかがですか」
なにか剣のようなものを磨きながら彼女が言う。
「相手がいませんよ」
「私なんかどうです」
「絶対に嫌です」
正直な話、外見はかなり好みだ。しかしそれ以上に中身が苦手だ。ただの教師と生徒という関係ならば面白いと言うだけですむが、恋人の距離まで近づいたらいったいどんなことに巻き込まれるかわからない。
「じゃあ、妹ちゃんはどうです?」
「意味がわかりません」
一瞬思考が止まった。思ったままを言った。
「現実ちゃんの方でしたか? それとも二人一緒にいただいてしまいたいのでしょうか?」
「何を言ってるんですか?」
いつの間にか話題が変わっていたのだろうか。
「恋人候補の話ですよ。二人の話をするのはてっきりそういうことかと思ったのですが」
「そんなわけないでしょう。二人が幸せならそれでいいんです」
「自分自身は幸せじゃないっていってるように聞こえますよ」
「言葉の綾ですよ。幸せですよ十分に」
「素直になった方がいいと思うんですけどねえ。レ○プしたいなら協力しますよレ○プレ○プ」
とんでもない言葉が日常会話に混ざるいつもの先生である。
「要りませんよそんなもの。私の人生終わらせたいんですか」
「終わらせたいんです。禁断の恋に溺れて人生ぶっ壊して堕ちるとこまで堕ちる女子高生がすっごく見たいんです」
類い希なる幸運の持ち主が願望を口に出したらそれはほとんど予言と一緒である。滅多なことを言わないで欲しかった。
「何を言おうが私はそんなことしません」
「えぇ~、レ○プの味を知らないなんて人生半分損してますよ」
何か私の知らない食べ物の話をしているのかと錯覚してくる。
「そんなスカスカの人生嫌です」
「さすがに言い過ぎましたね。三パーくらいです三パー」
微妙なリアルさでこれもまた嫌だった。
「でもまあ、レ○プしようにも私なんかは腕力がないので脅すための刃物か何かが必要になってくるわけです。ほらこんな風な」
先生が磨いていた刃物を立てて見せる。じつに立派な剣だ。きっと本物だ。
「どこで手に入れたんですそんなもの」
「海外旅行で拾ったんです。エクスなんちゃらとかいうらしいです。最近、武器集めに凝ってまして、めざせ弁慶ってところで」
本物だとしたら、そしてきっと本物なのだが、強姦のために使われる伝説の剣は哀れとしか言いようがない。
「剣が使用者を選ぶ、って言いますけれど生意気ですよね。私は神に選ばれているんです。剣ごときが私を選ぶなんて許せるわけがないじゃないですか。だから逆に私が剣を選んであげるんです。私に使われることを、この剣にはよーく感謝して欲しいものです」
彼女はよくわからない理屈を自慢げに語った。剣を掲げて何秒か固まる。そして首をかしげる。
「ええと、何の話でしたっけ。恋愛相談でしたっけ。そうだ! レ○プが嫌なら告白すればいいんですよ。必要なら何か武器貸しますよ」
「告白に武器は必要ないし、そもそも告白なんてしませんよ。自分でも誰が好きかもわからないのに」
「それは残念です。気が変わったら言ってください。まあ、恋愛なんてなるようになります。レ○プから始まる恋だってきっとあります」
「ないです」
レ○プという言葉がいくつ聞こえたであろうか。ほんとにどうしようもない人だと改めて確認した、そんな放課後であった。
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