世界を統べるもの ~森に出逢うもの
藤瀬京祥
prologue
男は語る
「世界を
男は静かに語る。
「あの書の存在を知るほどの貴殿だ。
この言葉を耳にしたのは一度や二度のことではあるまい。
だがその
窓のない石造りの小部屋は、四方の壁に、古い書物がぎっしりと詰まった書棚が置かれている。
その中ほどに置かれたテーブルの上で両手を組んだ男は、向かいにすわるマントの人物にゆっくりと話しかける。
体格のいい男で、ずいぶんと背も高いらしくすわっていてもそれがよくわかる。
その傍らには、男の豪腕でならば易々と振るえそうな大剣がテーブルに立てかけられている。
年齢は三十代半ばくらいで、少し青みを帯びた銀の髪をしている。
そして真っ青な瞳で、真っ直ぐにマントの人物を見据えてゆっくりと静かに話し続ける。
「歳若い
愚かと知ってなお探求をやめられぬは我らの
それでも決して手を出してはならぬ領域があることを」
男は静かにゆっくりと、低い声で重々しく話す。
しかしマントの人物は被ったフードで顔を隠し、その思考さえも隠すように沈黙を守っている。
生命さえ感じられないほどにその存在感を希薄にして。
「
そんな万能の魔法などこの世には存在せぬ。
なぜならば、世界を統べる
それが世界の
話し終えた男が口を閉じると、小さな部屋に静寂が訪れる。
なにかを待つようにしばらくのあいだ男は沈黙を守っていたが、テーブルを挟んで向かいにすわるマントの人物が微動だにしないのを見て、諦めたようにゆっくりと立ち上がる。
「すでに他者の言葉は耳に届かぬようだ。
かつての過ちが繰り返されるのを見過ごすのは本意ではないが、すでに覚悟は決まっていると見える。
ならばわたしは去るしかあるまい。
だが……」
大剣を手に返し掛けた踵を止めた男は、依然微動だにしないマントの人物を振り返る。
「歳若い
だから願わずにはいられない。
引き返せぬ道に踏み入ったとしても、そなたの
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