コーレリア物語 〜公爵の爵位を返還した僕だけど、最強の銀狼の騎士が一緒にいるから平気です!!〜
世鷹 逸造
第1章
銀狼の騎士ハティ
窓から部屋に差し込む月明かりの中心で銀の騎士が佇んでいる。
この屋敷には絵画や、この部屋にも数多くのレリーフ彫の飾りのついた豪奢な調度品なりがあれど、そのどれにも彼は劣っていない。むしろ彼こそがこの部屋、いや、屋敷一番の調度品だった。
絹のような煌めく銀の長い髪が月明かりを纏っていて、きっと彼は月の妖精か何かなんじゃないかと思う。絶句するほどの美しさを振り撒いて、ベッドに腰掛ける僕に傅くその狼の騎士が手の甲にキスを落としてくるものだから、僕は悩ましくため息を漏らしてしまう。
彼──ハティは、僕ことマーニ・コルネリウスにはもったいないほどの従者だった。
僕だって、一応、ブロンドの髪が月明かりに輝いてはいるが、ハティに比べるまでもない。体だって、病弱で痩躯で、騎士のハティに勝るところなんて一つもない。
それに、だ。
「……もう僕は貴族じゃないんだから、君は自由になっていいんだよ」
僕は『元』貴族だった。
そう、僕はもう貴族ではないのだ。自主的にコルネリウスの公爵の位を返還し、それが受理されたと大公からの通達をもらったばかり。いまから領地もこの国コーレリア大公国に帰属し、このコルネリウス家の屋敷を出て行くのだ。自主的な返還なので、荷物をまとめる猶予をもらったけれど、ハティまで僕についてくる必要はないはずだった。
「いえ、私はマーニ様の従者ですので」
「でも、君ならきっといい雇い主がすぐ見つかるよ。カッコいいし強いし優しいし」
領地を失った僕を見捨てないでくれるような忠臣であるハティならば、きっとどこへ行ったって上手くやっていける。
「お褒めの言葉光栄に存じます。ですが私目は優しくはありませんよ」
「?」
僕は首を傾げてしまう。
優しくないことはないんじゃないだろうか。
領地を失った主人を見捨てない騎士は優しいと言っていいだろう。
けれど、キョトンとした僕の顔を見て、ハティはクスクスと口元に手を当てて笑った。
「優しくするのは貴方様にだけですから」
そして、傅いたまま、僕にニッコリと微笑むのだった。
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──
生まれた時から僕の言いなりになるように育てられた君が怖かった。
僕はきっと君に甘えてしまうから。
僕が頼めばきっと君は恋人みたいに振る舞ってくれると思う。愛してくれると思う。
でも、だからこそ君の本心がずっとわからなかった。
君の本心がどこにあるのか、ずっと嫌な思いをさせてしまっていたんじゃないのか。
そして、君のことを手籠にしたいと思う自分の本心も何もかもが怖かった。
だから、爵位を返還しながらも、これはチャンスだって思った。
ちゃんと君と対等になりたかった。
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
初めて貴方様に会った時、こんなにか弱い生き物がいるのかと驚いたものでした。
体も虚弱、そしてか弱い自分を責め続けるそんな貴方様だからこそ、私は貴方様を愛おしく思ったのです。
いつしか貴方様にお仕えし、守り抜くことこそが私の生きる喜びとなったのです。
──
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