第21話 敵の姿
艦上では救出と消火活動に追われていた。
「火が迫ってくる!早くしろ!」
「おい、大丈夫か!すぐに助けてやるからな!」
アークも加わった。1人でも助けるために。自分のミスが招いた結末を償うために。
あっという間に艦上は遺体で埋め尽くされた。
さらに機関室のドアを開けると一酸化炭素中毒で苦しみながら亡くなった人達が山になって死んでいた。
「ここは地獄だ。」
アークがつぶやいた。
2時間くらいしてやっと状況が落ち着いた。しかし、しばらくして艦上が大騒ぎになる。
「このやろう!これでもくらえ!」
兵士の怒号が聞こえてきた。
アークは何事かと思い声の方向に近づくと、特攻兵の遺体に仲間が群がり、足蹴りしていた。片手には人形が握られていた。
しかしその日本兵はどんなに蹴られても決して人形を手放さなかった。
それを見た途端、アークは自然と走り出し、仲間を突き飛ばして日本兵に庇うように覆い被さった。
アークの近くにいた兵士達が怒鳴る。
「アーク、ふざけるな。そこをどけ!」
「そうだ。そのジャップは仲間を沢山殺したんだぞ!」
アークは罵声を受けながら日本兵の顔を見る。
その顔はとても穏やかだった。特攻という狂気に満ちた行動をしたと思えなかった。
アークが大声を上げる。
「もうやめようよ!この人が可哀想だよ!」
仲間はアークの声に驚いて動きを止める。アークは続けた。
「俺もみんなと同じだよ。日本人に弟を特攻で殺されたんだ。日本人が憎い気持ちは確かにあるよ。」
アークは涙を流しながら日本兵の顔を見た。
「でも人形を抱きしめながら亡くなったこの人を見たら可哀想だと思ったんだ。俺は弟の死に顔を近くで見たから分かるんだ。死ぬ時はみんな怖いし苦しいんだよ。」
アークの言葉に仲間は涙を流す者、怒りを抑え震える者で溢れていた。
「この人も可哀想だよ。最後すがることが出来たものがこの人形にしか無かったんだよ。死ぬことが怖かったんだ。でないとこんなに握りしめるものか!だからもう許してあげようよ!生まれた国の違いで傷つけるなんて間違っているよ!」
アークが叫んだその瞬間、
「そいつの言う通りだ。お前らそれ以上手を出すんじゃない。」
後ろから艦長が声を上げた。アーク達は慌てて敬礼する。
「アーク大尉だな。君は勇気ある素晴らしい兵士だ。」
アークに声かけた後、鑑長が兵士達に言葉を投げかける。
「確かにこの日本人は仲間を大勢殺した。お前達が恨む気持ちは分かる。俺も同じだ。
ただ!!たった2機で我々から仲間を、家族を、大切な人を守るために戦った彼らの生き様まで否定していいのか!?その勇気を認めなくていいのか!?」
兵士達は鑑長の言葉に聞き入っている。
「もう彼らも我々の戦友だ!!ともに大切なものを守るために戦ったもの同士として、仲間と一緒に弔おう。心まで戦争に負けるな。敵も同じ人間であることを忘れるな!」
兵士達は敬礼をし、鑑長の言葉に大きく返事した。
「サー、イエッサー!!」
アークは泣きながら鑑長に頭を下げた。
「ありがとうございます。ありがとうございます。」
アークは日本兵を見つめる。
「戦友よ。よく頑張った。だからもう静かに眠ってくれ。」
アークは人形を回収する。
「この人形は君の大切な人に必ず届けてやる。君のこともしっかり伝えるよ。」
その後、玄弥はアメリカ兵と共に水葬された。
淳介は遺体がほぼ残っていなかったため、彼の乗っていたゼロ戦が代わりに水葬された。
玄弥も淳介も、そして亡くなったアメリカ兵も共に戦った仲間として同じ場所に眠ることになった。
この戦いは2人特攻により多くのアメリカ人が犠牲なった悲劇として歴史に刻まれる事となった。特攻の恐ろしさと悲劇を日本とアメリカの両方の視点から多くの人に伝えるために永遠に語り継がれることになるのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます